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ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第壱章
8/66

ユビキリ ノ捌


 「ああ、汚れてしまった」


ひゅん、と血のりをはらいながら透影はこちらへと歩いて来る。

何故か岩にしっかり掴まっているはずの手は心もとなかった。

恐怖心は感じない。けれど手に力が入っているのかさえ分からない。


 「一つ聞いてもいいか?」

 「何でしょう?」

透影はいつもの口調となんら変わらなかった。

 「命じたのは、父上か?」

 「明良さま、とでも思いましたか? お察しの通り、兼良様ですよ」

 「ならいい」

 「・・・・・・?」


不思議そうにこちらを見る透影に、こいつもこんな顔をするのだ、と栄雅はこの状況が僅かばかり嬉しかった。


 「疑っていない者が裏切るのは辛い。だが、裏切る可能性があると思っている者から裏切られても、少しも痛くない」

 「・・・・・・前者はもしかして私の事ですか」

 「他の誰かとでも思ったのか? 察したとおり、お前だ」

先ほどの透影の口調を真似てやると、苦々しげに眉を顰めながら、口を開いた。


 「あなたは聡い子どもだった。・・・・・・てっきり私のことも疑っていたと思っておりましたのに」

 「初めのうちはな」


誰も彼もが命を狙い、裏切った。だが、時が経つうちに彼は人を信じることを思い出させ、信じてもいいのだということを教えてくれた。

それは紛れもない、こちらを見下ろす彼だったのに。



 「・・・・・・ッ」

段々と手が痺れてきた。苦しそうにしている栄雅に気づいて、透影は屈みこむ。

そうして刀を高々と頭上へ振り上げた。

栄雅は真っ直ぐ脳天へと突き立てられる自分の姿を想像して、思わず目を瞑る。


 「どうか、安らかにお過ごしください――――」


 「すき、かげ・・・・・・ッ!?」

どこにも痛みが襲ってくる事はなかった。

しかし、何も掴めずに何かが崩れる音がして、体が真っ直ぐ谷底へと落ちていく。

自分が今まで掴んでいた箇所では、地面に刀を突き刺した透影が泣き出しそうな目でこちらを見つめていた。



 「さようなら」



声は聞こえずとも、口で刻まれた別れの言葉に答えるように、栄雅は微笑んだ。

それにまた応じるように、無理やり笑った透影の顔を見ながら、鬼の言葉を思い出す。


 (無理して笑っていると、いずれ笑えなくなるぞ)


そこまで思ったとき、体が叩きつけられる衝撃がして、栄雅はそのまま意識を失った。




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