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ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第壱章
7/66

ユビキリ ノ漆

戦闘によっての流血表現、死亡などの表記がありますので、(そこまで残酷に鮮烈には書いていないつもりですが)


そのような作品を好まれない方、もしくは小学生の方は、さくっと流してください。


恐らくこの話を飛ばしても、・・・・・・状況だけは概ね分かると思います。


読んでも大丈夫だという方は、お手数ですがさらに下へとお進みくださいませ。






 「栄雅様!」


声と同時に栄雅の腕をつかんだのは、弓影だった。

それはまさに間一髪で、足元はぶらりと谷底へ繋がる空中へと投げ出されていた。

 「よか・・・・・・ったぁ、怪我はありませんか?」

 「弓影・・・・・・付いてくるなと言ったはずだろう」


こんな時に何を言ってるんですか、と弓影は笑った。

肌色を隠すための布がないのは、きっと人ごみに紛れてきたからだろう。

初めて栄雅は、弓影らしい年相応の姿を見ることとなって、こんな状況だというのに笑いがこみ上げてくる。


 「それに、私だけじゃありませんよ。透影様、申し訳ありませんがお手を――」

 「透影?」


まずい、と思った。

一人で出かけるといっておきながら、この様は何だときっと怒っているだろう。

そうして怒ったような顔と呆れた目をしながら、少し乱暴に引き上げて、否応なく馬に乗せて帰されてしまうのだろうか。

子どもの頃の自分と、当時の透影の姿が思い浮かんだ。

だが、栄雅が思い浮かべたどの顔とも、今の透影の表情は当てはまらなかった。



 「栄雅さま・・・・・・そのまま落ちてはいただけませんか」

 「透影様? 一体何の冗談を・・・・・・」

 「どうか、安らかに」


透影は冗談を言っている顔でも無表情でもなかった。ただただ渋い顔をしながら、こちらを辛そうにして見ているだけだ。

引き上げようとしている弓影に、手を貸そうともせず。


 「あなたを殺せ、と命が下ったのですよ。この状況なら怪しまれずに、事故死という事で始末できます」

 「透影様、冗談にも程が・・・」

 「冗談ではない」


透影の目が、そこで初めて冷徹な光を発した。

冷たい殺気がびりびりと肌を刺す。

それを察した弓影は、透影がゆっくりと刀を取り出すのを見て、栄雅を引き上げるのを諦め、とりあえず手を岩肌に固定させる。

そして自分にとっては先輩でもあり、親とも呼べるような存在を、栄雅を害する脅威とみなして同じように刀を取り出し、構える。


 「栄雅様を本気で殺すつもりなら、排除します」

 「弓影。お前ごときの段階で私は殺せまい。今なら逃げる猶予を与えてやる」

その口調は、栄雅が聞き慣れたどの透影の声とも違っていた。とても刺々しく、無情で、耳障りだった。


 「情けをかけられる覚えはない! タアッ!」

 「く・・・・・・ッ」

 「エエッ!」

 「・・・・・・!」

 「ヤッ」


はたから見れば、弓影のほうが優勢に見えた。

連続して技を繰り出し、透影は防戦している合間に、躓かないようところどころ辺りをうかがっているだけだ。

時間からすれば三十秒ほどのものだっただろう。

あっという間に勝敗は決まった。



 「が・・・・・・ッ!」

弓影の動きがぴたりと止まる。

見ると周りに透明な糸が張り巡らされていた。

透影は息切れ一つもしていなかったが、冷や汗を流している弓影の方は浅く息を繰り返している。


 「やめろ! 透影!」

 「敵と戦う時は地形を利用しろ、そう教えたはずだな?」

 「・・・・・・」

 「これがお前の未熟さだ」

 「――――ッ!」


躊躇うことなく首筋に刀を当てて、引いた。

血飛沫が嘘のようにあがり、倒れ伏した地面へとどくどくと流れ出していく。

今にも消えそうな灯火を必死に燃やしながら、弓影は栄雅のほうを向いて、にっこりと微笑む。


 「――ゆか・・・げ」


そうして彼は、目を閉じた。




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