表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第参章
55/66

ユビキリ ノ伍拾弐


気を失わなかっただけでも大したものだ、と露草は感心した。

震えたまま、顔を青白くしたままで少女は今はなき空間を見つめて動かない。



 「怪我をして、熱くなって、ずっと動かなかったの」

 「相当に酷い怪我だったんだろう。残しておけば、全身に毒が広がる。だから切らないと命が危なかった」


涙を堪えるように顔をくしゃりと歪め、唇を戦慄かせる。どうにも痛々しくて、露草は思わず手を伸ばした。


 「よく頑張ったな」

 「・・・ふっ」


堰を切ったように涙が流れたが、せめてもの意地で声は出さない。拭っても拭っても止まらないので、終いには布団を顔に押し付けたまま、頭を撫でる露草の手を受け入れていた。


 「そういえば、名前を聞いてもいいか? さっき言ったとおり、俺は川本露草だ」

 「あたしは・・・桔梗」

 「名字は?」

桔梗はぶんぶんと勢いよく首を横に振った。

 「知らないのか。なら、俺と同じ川本とでもしとこうか」

 「・・・・・・」


桔梗は目を丸くして、露草を見上げた。

まじまじと見てくる様子に怯んだのか、露草は気まずそうに視線を逸らしながら、「嫌か」と一言だけ聞いてくる。

桔梗は再度首を振った。今度は小さく。


 「嫌じゃない・・・」

 「そうか」


また露草はぽんぽんと頭を軽く撫でてやる。

温度が心地よくて、暫らくそのままの体勢でいると、「子どもを相手にラブシーンか!」と突っ込みを入れてくる闖入者のおかげで、にわかに騒がしくなる。でも、やっぱり嫌じゃなくて、桔梗は何年ぶりかに笑った。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ