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ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第参章
52/66

ユビキリ ノ肆拾玖


当ても無くぶらぶらと歩いていた。ろくに手もちがないまま空き腹を抱えてうろつき回るというのは、かなり前にもこの国で経験した事だったが、これが標準装備だとはいいたくない。

早朝の散歩は二人にとって馴染み深いものだった。昼間からいい年をした男性が外を歩いていたら、少なからず好奇の目に晒される。だが地形を覚えるのには見て回った方がやはり早いので、人の目を気にしないでいい早朝はまさにうってつけの時間だった。


ちち、と気の早い鳥が露草の肩にとまる。

薄く東の空は白みはじめているのだろうが、未だこの辺は夜中といってもいいほどの暗さなのに、どこにでも変わりものはいるらしかった。



 「動物にも好かれるようになるとは、やっぱり私のせいかねえ」

 「・・・・・・さあ、それは何ともいえないが。動物は嫌いじゃない」


嬉しそうに声を鳴らした鳥の頭を人差し指でつついてやると、大慌てで飛び去っていった。


 「こら」

 「ごめんごめん、苛めるつもりはなかったんやけど」


飛び去ってしまった鳥を見送りながら、露草は寂しそうに空を仰ぎ、なかなか姿を見せない朝陽を恨むかのようにため息をついた。


 「白梅」

 「・・・ん?」


どこと無く予感のようなものを感じて、白梅は若干間をあけた。それを気にせず、露草は足元をぬらす草についている露をじっと見つめている。



 「俺は、旅に出ようと思う」

 「・・・・・・旅、ね。今みたいにじゃなく?」

 「一旦、一人になりたいんだ。お前に頼らず、あの地で」


あの地、とはまさにあの地。祝福されない生を受け、望まれた死を経験したろくでもない思い出ばかり残る地か。

あそこのどこがいいのだろう。露草を苦しめるばかりの、どうしようもない思い出。彼が唯一執着しているものと言えば、弟の記憶。


 「川本家を見てくるんじゃったら――」

 「違う。お前だって分かっているだろ」

 「ん」

 「誰もいない地になろうが、ちょっとだけ滞在してみたい。またここに戻ってくるから」


白梅はにやりと笑った。その笑いが少し不気味に思えて露草が無意識のうちに後退ると、ちょっぴり傷ついた様子で、でも楽しげな様子でこちらをじろじろと観察してくる。


 「な、なんだその笑い」

 「なんか、いいなあ。私のところに戻ってくるって言い方。空間っていう意味やろうけど、家族ーって感じがする」

 「うん――?」


はた、と気づいた。もしかしなくても今、自分はとても恥ずかしい事を言った気がする。

彼にしては珍しく顔を赤らめた。それを指摘しなかったが、期待していたのが丸分かりだ。


 「馬鹿」

 「ええよー、馬鹿でも何でもー」

にやにや笑いを収めようともしない様子に若干腹が立つが、後の祭りで。

 「戻ってきてな、ちゃんと。そん時にはもっと笑えてるとええね」

 「最初に会った時もそんなことを言っていたな。どうなるか責任は持たないが――そうなるといいなと、自分でも思うよ」



本当に今日は珍しいこと続きだ。

双方の思いが重なっていた事には気づかず、彼ららしくないやり取りを続けて、あっさりと別れた。

何年経とうが、きっと同じように逢えると信じて。



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