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ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第弐章
43/66

ユビキリ ノ肆拾


明良の感情が揺れた一瞬を白梅は見逃さなかったが、それを露草が感じ取る前に、平静さを取り戻してしまう。

嘘をついている、と続けたいのを堪え、「ここに戻ってきてくださったのですか」と問いかける。それは自分の希望とはかけ離れている大きさで、囁きと呼べるくらいの微かなものだった。



 「残念ながら、違う。俺はもうここを出て行く。二度とあの家に帰るつもりはないよ」

低音の声の響きは、優しいながらも心を抉る力があった。

 「そう言われると思ってました――どうぞ兄上、お元気で。・・・・・・というか、兄上は生きていらっしゃるのですか?」

 「は?」


不意打ちに思わず、ぽかんと口を開けた露草の間抜け面は、生涯きっと何度も思い出すだろう。

それを裏打ちするように、横で瞠目していた白梅が爆笑する。目の端に浮かんだ涙を拭いながら、若干震えた声でわざわざ確認するまでもないことを聞いてくる。


 「露草。お、おんし、生きとるかね? 」

 「当たり前だろう。ついさっき、俺が死んでたらここにはいないと言ったのはお前だろうが」

 「そうやけど。その姿見りゃ幽霊じゃ思うてもおかしくないが。なんせ二十年くらいは当に経っているからのう」

 「三十年近いだろう」

 「あれ、もうそんなん経った?」

 「経ったと思うが・・・・・・明良?」

 「経ってますね」

 「ほらな」


どうだと言わんばかりに勝ち誇った目でこちらを見返してくる露草に、こんな性格だっただろうかと首をかしげながら白梅は苦笑するしかない。

血を分けた相手に久しぶりに会ったことで、気安さを感じているのだろう。

始終小難しい顔をしている露草にとって、それはいい傾向だと思えた。


 「相棒、とでもいうのかな。実はな、明良。こいつは人間じゃないんだ。そして俺も人の理を外れている」

 「いきなり本題から入るね」

 「もうすでに正体はばれているのだから、隠しても仕方あるまい」


そう悲しげに俯いてから、露草は説明した。

死にかけの自分がどう救われたか、どう介抱してくれたか、どう気遣ってくれたか。それは全て露草と白梅の話で、明良にとって二人を無性に遠い存在へと変えていくのみだったが、ずっと姿形が変わらない自分の兄の言葉に必死に耳を傾ける。



 「お話は理解しました・・・・・・といっても随分と無理やりな話ですね。傷の回復までは許せても、永久の命まで与えるものなのですか? それに貴方・・・」

 「白梅いいます」

 「白梅さん、あなた自身はどれくらい生きているのですか?」

 「そうやねえ・・・記憶は曖昧じゃね。少なくとも百年は生きとるけど、もしかしたら三百年くらいは生きてるかもしれん」

 「桁が違うな」

 「そんなに長い時を過すなんて、正気を保つのにも苦労します。それを考えれば、とても芯の強い方なんですね」

 「なんじゃ、今度は二人して褒めて。煽てたって何もあげるもんなかよ」


白梅は照れたように握りこぶしをつくったり開いたりする。

そんな子どもっぽい仕草を見て、ふと表情が重なる二人はやはり兄弟なのだと感じさせる瞬間だった。



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