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ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第弐章
37/66

ユビキリ ノ参拾肆


 「えっ、お良ちゃん来んの!?」


何やっとん、と呆れ顔で呟く清一郎にはお構い無しに、清治郎はとにかくどうにかして見合いを避ける術を模索していた。

頭が残念な振りでもしてしまえばぶち壊しになるだろうか? よほどのことがない限り女性のほうからは見合いを断らない。ということは、そんな「よほどのこと」をしてしまえば万事解決に違いない。いっそのこと兄に女装でもさせてやろうかとまで考えた。

些か浅はかではあるものの、なりふり構っていられる状況ではない。



 「こんばんは。良い夜ですね」

 「ほんに、綺麗なお月さんに温かい色した花びらがよう合いますわ」

 「あんさんはお酒持っとったら、なんでもええんちゃう」


あっはっは、となされる会話は終始軽い調子だった。程ほどに赤い顔をして笑いあう人々とは裏腹に、清一郎と清治郎だけは引きつった笑みを浮かべたままだ。

そんな二人を横目で伺いつつ、露草は落ち着かない気持ちで酒盃を空にしていく。そしてそんな露草を見た白梅がやはり酒を煽りながらこちらへと近づいてきた。


 「せっかく美味しいお酒頂いて、花見してるのに。そんなしかめっ面しよったら桜が泣くんと違う」

 「えらく今日は詩人だな。桜に感化されたか」

 「桜は人を惑わす、って聞いたことあるけどね」

 「よく言う」


いつもより手厳しい露草の一言を、白梅は困ったように笑いながらやり過ごしていく。

露草が内心落ち着かないわけは、先ほどから塔十郎の姿を見かけないためだ。幾らなんでも家長がこの場に姿を見せねば締りがつかない。いずれやってくるだろうが、この場に一緒に伴って連れてくるだろう人物が、一体どんな娘なのかと不安がっている清治郎たちが危なっかしくて見ていられなかったからだ。これではある意味生殺しも同じだった。


可哀想に。

清治郎は己の行く末、つまりは添い遂げるべき伴侶を受け入れられずに、意に沿わぬ相手を押し付けられるのだから渋い顔のまま、けれど決意を秘めた眼差しで戸口をじっと見つめている。まるでそこに親父様がいるとでも言っているかのように、何度も生唾を飲み下しては、清一郎にしきりに飲み物を勧められていた。



 「ようこそお集まりいただきました、皆様」


ようやくの登場に、場の雰囲気が変わる。

どこか重厚な雰囲気と何かの期待が入り混じったような空気だった。


 「久しく見かけなかったな。元気にしておったか」

 「お前こそ、便りも寄越さずに」

 「塔十郎さん、これ食べてくださいな」

 「これも奥様に差し上げてくださんし」

 「ああ、これはすまないね」


咲き屋敷の花見とくれば、世間の正月のようなものといえる。長らく会わなかった親類や友人、近所の様々な身分の人たちを招待しては交流を深めるというもので、思い切った言い方をすれば身分を問わない舞踏会のようなものだった。

懐は寒くとも、人との絆だけは保つべし。

貧乏侍と言われるような有様ではあったが、人徳と誇りだけは持ち合わせている。それが花咲家だった。


その長である塔十郎が、今宵だけは上機嫌で隣に女性を連れていた。背格好からして塔十郎の妻ではないようで、若い女性らしく着物に鮮やかな朱の大輪が縫いとめられている。

とうとう息子さんに縁談が持ち込まれたか、と人々が祝う雰囲気に包まれる一方、清治郎と清一郎はそれ来たもうお終いだと、まるで腹を切るような心持ちで、二人を見つめていた。


一体どんな人なのか。たとえどんな美人でも気持ちは揺らぐ事はないけれども、どんな娘かと興味を抱いていた清治郎なので、遠くから見ようと若干背伸びをしてみる。だが塔十郎に入れ知恵されたのか、可愛らしい着物にちっとも似つかわしくない被り物を被っているせいで、女性の顔がすっかり隠れてしまい、全く見えずにいた。


ほんのり紅をのせた口元が薄っすらと微笑んだように見えた。

不覚にも胸をときめかせてしまった清治郎が、慌てて首を振るのを見て、塔十郎がにやりと嫌な笑いを浮かべ、またそれを見てしまった清一郎と露草は、苦笑いさえ浮かべることが出来なかった。



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