表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第弐章
36/66

ユビキリ ノ参拾参


 「清治郎、清一郎。ちょっといいか」

 「はい。何でしょう?」

 「清治郎、お前にどうかと思っている娘さんがいる。今夜の花見に呼んであるから、思う存分交友を深めるといい。清一郎。清治郎が逃げ出さないように見張っておけよ」

 「は、はあ・・・」

 「父上! 俺・・・私はっ」

 「すでに決めた事だ。文句はないな?」

 「・・・――はい」


身を翻し去っていくその背中の後ろで、残された息子たちはひそひそと囁いた。


 「阿呆、なんで言わんの。お良ちゃんに告白したときの勇気をもう一回だけ出しいっ」

 「ほんなら、せーちなら言えるん? 無理やろ!」

 「けどこんままやったら好きでもない人と一緒ならなあかんよ。そんなんお良ちゃんにも悪いやないの。折角お良ちゃんだってせーじのこと好きだって言ってくれたんに」

 「・・・でも」

 「・・・そんなんやったら花見にお良ちゃん誘い! んで、悪いけど私はこん人と一緒になるって娘さんに直接断ればええ!」

 「ん・・・・・・、うん」


ようやく決心したのか浮かない顔で、しかし静かに決意を秘めた顔で清治郎は頷いた。「ていうか、人のことばっかり気にしてないでせーちもさっさと嫁貰えばいいんに」と聞こえよがしに呟くのも忘れなかった。



 「どうやった?」

 「だめや・・・・・・あいつ、どっかに出かけとるらしい。なんか隆と一緒に呼び出されたとか家の者が言いよったけど」

 「隆ちゃんと? ・・・・・・うーん、なんやろね」


このままでは好きでもない人と政略結婚させられてしまう。それが当たり前の社会にいるとはいえ、冗談じゃない。

清治郎は何としてでも、お良を花見に連れて行き、相手に叩きつけてやるのだと意気込んでいた。当初の目的から若干脱線しているような気もしてきたが、そこまでは構っていられなかった。



やっとお良を捕まえたのは、花見まであと一刻、という時間だった。


 「お良、今夜家に来てくれ! 後生だ!」

 「ええ? 何よいきなり」

 「実は・・・見合いさせられるかもしれん。親父が今日相手にどうかと思ってる娘連れてくるって言ってて、だから・・・・・・!」

 「清ちゃん、ごめんね」

 「お良?」

 「今夜は、どうしてもはずせない用事があるの」

 「・・・・・・」

 「だから、ごめん」


妙にさっぱりした顔でお良は振り向かずに清治郎に背を向けた。

所詮、女子の情などこのようなものなのだろうか。しかし何十年も抱いてきたこの思いをすぐ諦めきれるほど、自分は賢くも潔くもない。

清治郎は一人ででも縁談を何とかしてぶち壊してやる、と意気込んで道を引き返し、屋敷の中へと戻っていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ