ユビキリ ノ参拾弐
「なんでお前が肯定するんだ」
「え? だって私がその原因みたいなものやし」
「原因なんて大層なものか。行程の一つだ、厚かましい」
憎まれ口を叩いてはいたが、白梅に責任をかぶせないための言い草だったようで、白梅は傷ついた様子もなく、ただにこにこと笑っている。
ほれ、と差し出された草もちを頬張った露草、いや、かつての栄雅だった人物を見ていると、その視線に気づいたのか、塔十郎へと向き直る。
そうして、彼は自分の身に起こった事を簡潔に教えてくれた。
聞けば、鬼と知り合い、暗殺されかけ、救われ、命を繋ぎとめた代わりに人としての生の時間を止めた、と語る。
信じられないことばかりではあったが、それならば納得できるような気がした。
目の前の鬼二人は上手そうに餅を頬張っている。恐ろしい姿形でもなく、人の心を持ちながら、自分の息子の幸せを願って遠い遠い過去を語ってくれた一つの存在だ。
「それにしても、今日は驚いてばかりです。花咲、栗町の話を知っておられるとは。栄・・・いえ、露草殿が教えてくださらなければ、私は一生誤解したままでした」
「太一郎殿・・・お父上は私の父、兼良には今の話を打ち明けてはいなかったようです。当時栄雅になったばかりの私に、いきなりその話を聞かせて、『もしかすると私は貴殿に牙をむく日が来るかもしれません』ときた。いや、剛胆な方でした」
苦笑する露草の話に、塔十郎は懐かしそうに目を細めた。
「そうですね。確かに父は厳格でしたが、芝居が好きで突拍子もないことばかり言っていました。幼心にも驚かされたことがあったような気がします。きっとこの話も私が大人になったときに聞かせるつもりだったのでしょう」
「なら、今度は塔十郎さんが清治郎さんたちを驚かしてやる番じゃね」
にやり、と笑った白梅に、塔十郎もにやりと笑い返した。
露草はちらりと「なかなか良い性格をしている二人だ」と思ったが、それはそれで悪くない。