ユビキリ ノ参拾壱
「・・・・・・」
「美味しいお茶ですね」
「・・・あ、ああ。もっと持ってこさせましょうか?」
「いえ、こき使っては申し訳ない」
ず、と茶をすする音が部屋に響く。
塔十郎は、聞いたことを反芻しながら、目の前の人物は一体誰なのだろうかと考えていた。
真相は既に闇の中に埋没しており、今の話が本当かは分からない。けれど、話自体は筋が通っているような気がした。そして、どこか親近感を感じるような口調でもある。
その疑念をすでに露草は理解していたようで、一息ついた後、薄く唇に笑みをたたえた。
「以上が、貴方のお父様から聞いた話です」
「・・・・・・え?」
「露草。おや、塔十郎さんも。美味しそうな草もちを先に頂いたけん、食べんね。清一郎さんと清治郎さんは実に手先が器用ですねえ」
「え、あ、ああ・・・小さい頃から妻の真似をするのが好きな息子たちで」
緊張感をすっかり無くしてくれる白梅に、じろりと横目で一瞥をくれたが、当の本人は餅を頬張りながら、ただでさえ白い肌を粉でさらに白く染めていた。
勢いに押されて塔十郎も食べ始めたが、毎度の事ながら美味しいと素直に感じる。
「露草殿、その話は一体、いつ・・・というか。貴方は」
「ですから、塔十郎殿」
「はい」
思わず塔十郎は姿勢を正した。
「昔の禍根とは方便なのです。強い絆で結ばれるのもまた結構なこと、そうは思いませぬか? ・・・・・・と、栄雅様なら言うでしょうね」
「はっ、はい・・・」
塔十郎が自然に礼をしようとする体を押しとどめていると、露草はどこか遠くを見るような目をしながら、すいませんと囁いた。
「なぜ、謝られるのです」
「私が・・・伝えられたら良かった」
「露草?」
「遣り残した事はないと思っていたのに、二つの家族間にひびを残したまま、私は放ってしまったのですね」
「露草殿・・・」
塔十郎は段々と鮮明になっていく、栄雅の記憶が目の前にいる青年と重なっていくのを感じていた。
背が高く、彫りが深い顔立ちだった。あやふやな記憶だが、どこか愁いを帯びた瞳は確かに同じだ。そうして硬く尖った石のような雰囲気を持っていたと思っていたが、今はどこか角が削れているような気がする。だから昔の彼とも言いがたかった。
栄雅と言い切ろうとすれば昔の記憶が邪魔をし、栄雅ではないと言い切ろうとすれば心のどこかでそれは違うと反対する。
「よくは分からんけど、不可抗力なんじゃろ。おんしのせいやない」
「栄雅様、なのですか? 本当に・・・」
久しぶりに聞いたその呼称に白梅は目を見張り、いたずらっ子のような顔をしながら人差し指を縦にし、口にあてた。