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ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第弐章
33/66

ユビキリ ノ参拾


 「黄邦家、という一族をご存知ですか?」

 「きくに・・・・・・いいえ、不勉強で申し訳ない」

 「いえ、今となっては子孫がいるのかも分からない家です。その黄邦家から蛍は嫁いだ。けれど実兄の葉鳥が今危篤状態にあるという。出来る限り華々しく送り出してやった娘の家に、迷惑をかけるわけにはいかないと意地を張っていた実父、崎二朗でしたが、とうとう後一月ばかりの命となってしまった息子の姿を見て、堪えきれなくなった。既に栗町家の実権を握っていた娘の夫に、薬代を貸してもらえないだろうかと文を寄越したものの、その当時の娘の家は金がなかった」

 「栗町家に金がなかった? あ、いえ・・・」


栗町家は今や裕福な商家だ。

塔十郎は幼少の頃からの刷り込みもあってか、話の腰を折ってしまったことに渋面を作りながら、慌てて続きを促す。



 「殿様への捧げものをしたとか、戦や屋敷の修繕のために使ったとか、何かの事業に失敗したとか・・・何かしら理由はあったのでしょう。とにかく財政は良いとはいえず、一家が食べ、尚且つ奉公している者たちに僅かな給金を支払ってしまえば、もう金は残らない。娘の実家に送ってやれるだけの金は捻出できないから、無心に来た」


金の無心、という表現が絶妙だ。

あくまでも下手。こちらの勝手なのだから、断っても構わない。そんな蛍と、夫である小次郎の気持ちが汲み取れる。


 「黙ってその話を聞いていた千代は、貸してあげましょうと夫に言いました。彼らには何人も息子がいて、裕福とまではいかなかった。けれど貸してやることにしました。しかし、その金の行き着く先は明かすことが出来なかった」

 「何故です?」

 「蛍の実兄が罹った病は、到底治ることのない恐ろしい病とされていたからです」


コロリ、労咳。思い浮かべれば幾らでも病は出てくる。

淡々という露草の口調に、塔十郎は息を飲んだ。



 「妻の実家に気を遣って、何に使うのかは伏せるままにしておいた。けれど費用を捻出した先を突き詰められればすぐに暴かれる。だから、友人は提案しました。騙し取られた事にしてほしいと」

 「・・・・・・な」


汚名は全て、自分の家に。

その潔さは紛れもなく、誇り高き武士のものだ。


 「蛍の実兄の病は完治したと聞きます。しかし、友人の家は傾いていき、刀まで売らざるを得ないほどになった」


刀を捨てる。

仕官に取り立てられてはいない時期にそうなったのだろうか。

仔細はよく分からないが、もしかするとその時期に武士である事を諦めたのかもしれない。


 「そうして、友人の家はやがて物を売り始めた。野菜から工芸品、輸入品・・・代が進むにつれ店は大きくなっていき、やがて食べ屋敷とまで呼ばれるようになり」


露草は一旦、言葉を切ってちらりと塔十郎を見据えた。

それから、温くなってしまった茶を一口すする。


 「そして、約進の家は咲き屋敷と呼ばれるようになりました」



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