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ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第弐章
31/66

ユビキリ ノ弐拾捌


その前に、少しばかり昔話をする事にいたしましょう。



あるところに、二人の友人がいました。

友といってもある道場で剣を交え、同じ屋根の下で同じ師に教えを受けただけの、半ば腐れ縁のような二人でしたが、それでも飾らずに物を言える、数少ない貴重な友人同士であり続けました。


ある時、一方の男は武勲をたて、目覚しい活躍をとげました。殿様は大層彼を気に入って仕官にし、屋敷を持たせる事にしました。

異例の出世、特別に目をかけられての褒美でしたが、その者は人好きのされる性格だったので、周りの家来も納得せざるを得ない、つまりは異論を申し立てる者などいないうえでの殿様に重用される一族が誕生しました。


そして一方の男は知略に長けていました。

策を張り巡らせ敵を篭絡し、一部を取り込むことに成功し、敵対する部族を一掃しました。けれど、そのやり方は誇りある殿の家臣としていかがなものかと反発する者たちの手前、殿様はもう一方の男ほど褒賞を与える事が出来ませんでした。

その男はそれでも別に気にしませんでしたが、ある時壊滅させたはずの部族の生き残りが恨みを捨てきれず、その男の家族を人質にとりました。

解放してほしくば、男の命を引き換えに差し出せ。


犯人の要求を聞いて、当たり前のように彼は腹を切ろうとしましたが、友人はそれを押しとどめ、加勢も連れず男と共に二人で犯人の隠れ家へと乗り込んでいきました。

曰く、恨み潰えぬものならば、面と向かって首を取るといい。正々堂々の真っ向勝負、どちらかが死んでも真剣勝負の場では仕方がない。


先の戦での成功をやっかむ者たちが噂するところによれば、家族を人質に取られた男は陰険でがめつく、大した力もないのに人をこき使って不当に勝利を得たのだと陰口を叩かれていました。

それを鵜呑みにしているのと、自分の一家を殺された恨み、両方抱えた犯人は暫く唸っていましたが、やがて男に剣を向けました。



 「・・・それで? その男はどうなったのです?」

 「勝ちました」


無性に熱い茶をすすりたくなった。

一時息をついた露草と共に、塔十郎も話に聞き入っていた時の緊張をほぐしながら、人を呼んで茶を持ってこさせる。


 「二人の友人というのは・・・・・・栗町君近と花咲方雪ですか」


両家の初代当主の名を挙げたが、露草は何も言わなかった。ただ静かに微笑むだけだった。

これ以上追究してもきっと言わないつもりだと悟った塔十郎は諦めて、微かに顔を傾ける。自分に出来るのはただ話を聞くことだけだ。過ぎてしまった遠い過去の話、本当ならひっそり紡がれるはずだった、けれど暴かれる事のないはずだったその話を。



けれど、その男の勝利と引き換えのつもりか、潜んでいた犯人の仲間により家族は殺されました。

一人残され打ちのめされる男は、殿様の御前に呼ばれて栄誉を褒め称えられましたが、到底笑えるものではありません。

優秀だった息子も貞淑な妻も亡くし、茫然自失となっていた男をどうにか叩き起こしたのは、やはり友人でした。発破をかけ、どうにか生きる気力を取り戻させ、彼の功労を正当に評価してくれるように殿様に談判しました。息子を失ってまでも家臣として忠誠を示したとして、殿様は彼を仕官に取り立て、自分の末の子を養子として育てるように命じました。


その時にどんなやり取りがあったかは分かりません。けれど見捨ててくれなかった友人への恩を生涯忘れず、後に友人一族を気にかけるようにとの一言を遺してこの世を去りました。



 「殿様は・・・慈悲深い方ですね」


自分の子を与えるほどに、家臣を気遣うとは。その後の地位まで半ば約束したようなものではないか。

塔十郎はそう思ったが、露草はなんともいえない笑いを浮かべた。


 「本当に、そうでしょうか?」



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