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ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第弐章
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ユビキリ ノ弐拾漆


 「栄雅様と栗町家の今の当主、梅太郎が二人同時に溺れていたならば、まずお助けするのは栄雅様です」

 「なるほど、絶対の守護ではないのですね」

 「理解していただけましたか。栗町の守りという掟がいつ頃からできたのか――恐らく栄雅様に取り立てて頂いた頃なのでしょう。この地に移り住んだのは両家ともほとんど同時期と聞いています。ということは、花咲も栗町も友であった可能性が高い。栗町に恩を感じていたのか、栗町が大切なお役目を言い渡されたのか・・・・・・、彼らの守りという役目が花咲家には代々受け継がれているのです」


初代当主、花咲方雪の個人的な情か、それこそ密命を言い渡されていたのか今となっては分からず終いだが、どこかで糸が絡みあっているのだろう。



 「それゆえに、花咲家は必要以上に栗町家に近づく事を避けるのです」

 「何故です? 親しいほうが守りやすいのではないですか? 距離を置かれて動向を見失ってしまうよりも」

 「四六時中監視しているわけではありませんが、近くにいたほうが守りやすいのは確かです。しかし、時に守りというのは栗町個人の意に反してでも救い出さねばならぬ状況に陥るでしょう」


意に反する救い。

例えていうなら、命を天秤にかけねばならないとき。

例えば親。例えば子。例えば恋人。例えば友人と。例えるならきりがない。恐らく救い出す優先は血筋の濃いもの。家を存続できる権利を持つものからだ。

なんとなく分かる気がした。厳しさを押しやった優しさだけで力強さは得られない。


 「清一郎は蘭学を学ぶと言い出した。あの子は内からの守りです。清治郎は剣を極める。あの子は力による外からの守りです。そして幼き頃から近くで育ったことは、心を守ることになる」


清治郎はまだこの掟を知りません、と塔十郎は苦虫を噛み潰したような顔で言った。



 「ただでさえ、私はこの掟に疑問を持っています。いくら花咲の守りに気づいていないとはいえ、交流がまだ続いていたと思われる祖父、約進の時代」


――約進。川本家からの養子。

繋がりは薄いものの、露草にとって全くの無関係とはいえない。


 「梅太郎の祖父が約進を裏切って、多額の金を騙し取ったというのです。私が元服を迎える前に父は他界しましたが、生前何度聞かされたか分かりません。裏切られた、だが守れ。目の前にいる幼馴染が私にそんなことをするはずはないと思いながらも、当主として生活し、剣術の稽古をするうちに自然と距離があき、時間も経ちました。そうして栄雅様のことで完全に仲違いしたままです」


疑いの種を差し挟むことで、割り切れない青さを消し去る。それは塔十郎の父親にもなされたことだったのだろう。

露草は知らないうちに息を詰めていたらしく、重い気持ちを除き去るように、ため息を吐いた。


 「私は、そんなに似ていますか。前の栄雅様と」

 「え? あ、そうですね・・・」


いきなり話題が戻った事に瞠目しながらも、塔十郎は同意した。

しかし彼が亡くなってから、数十年が経っている。それに本当なら先代の栄雅は自分より若干年上のはずだ。目の前にいる青年はどう見ても自分より年下で、なのに息子ほどの年齢の年下の者として対する事が出来ないのは他人だからだ。塔十郎はそう思っていた。



 「ならば、その栄雅様の言葉としてお聞きください」

 「は?」


不可解な波が襲ってくる。

そんな予感が塔十郎の胸に渦巻いていた。



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