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ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第弐章
28/66

ユビキリ ノ弐拾伍


 「随分と手厳しくあられるのですね」

 「露草殿・・・」


さっきは驚いた素振りなど見せなかった塔十郎だったが、物思いにふけっていたのか、僅かに体を固まらせた。


 「これは失敬。都合が悪いようなら、お暇・・・」

 「いえ、こちらこそ失礼。少々昔を思い出していましてね。いきなり今に引き戻されたようで、自分でもよく分からない心地がするのですよ」

 「昔、ですか」


塔十郎はふと笑った。



 「そういえば、清治郎さんのことですが」

 「あれが何か?」

 「いえ・・・、清治郎さんは誠実そうな方ですから、色事などには無縁だろうと思いまして。ご当主になられるのでしたら、些か心配ではないのかと。私が言っても詮無いことですが」

 「あれは、頑固な子です」


一体誰に似たんだか、と呟いた塔十郎の顔を見つめ続けることなく、そして不自然になりすぎないよう無難な相槌を打っておく。


 「あの年になってまで、誰も娶ろうとしない。清一郎に関しては既に諦めているのですが」

 「お二人とも、先を見据えておられるのでしょう。清治郎さんも秘めた決意をお持ちのようですし」

 「露草殿は慧眼の持ち主でいらっしゃるようだ」


いや、結構誰にでも見破ることができるような、とは口に出さないほうが賢明だろう。

苦笑しながら言った塔十郎を見ると、どうやらお良のことは薄々感づいているようだった。


 「清治郎さんは、その・・・心に秘めた方がおられると、お見受けしますが」

 「食べ屋敷の娘さんでしょう」

 「やはり、ご存知でしたか」

 「清一郎は隠すのが上手いが、清治郎はすぐ顔に出る。清一郎は歯を食いしばって耐えますが、清治郎は泣きながら耐えます。・・・・・・馬鹿息子ですよ、どちらとも。足して割るくらいが丁度いいんですが」


親の口調だった。厳しくて優しい父親の姿だ。

口では辛辣な物言いをしていても、やはり心配なのだろう。


 「気づいてはいるのですがね。代々の因縁ゆえに、栗町以外の娘さんにしてほしいというのが本音です」

 「咲き屋敷と食べ屋敷のご家族が対立しているとは、清一郎さんからお聞きしました。・・・・・・昔に何があったのか、お聞きしてもよろしいですか? その、立ち入ったことならば無理にとはいいませんが」


ここまででも相当に家の事情に踏み込みすぎている。気を悪くしてもおかしくない状況だったのだが、清一郎しかり現当主の塔十郎しかり、昨日会ったばかりだというのに、気を許してくれているらしかった。


 「伝統でいえば栗町も花咲も同じなのです。どちらも同じ時期に川本の殿様に拾い上げられ、立派に家として存続できるようになりました。花咲家初代当主の方雪に子が出来なかったため、自らの末の子、約進を花咲家の養子にして、家が途絶えぬようにしてくださったのも川本末久様です」


慣れ親しんだ川本の家。

末久は五代目栄雅であり、露草の曽祖父にあたる人物だった。会った記憶はない。



 「いきなりですが、露草殿はこちらに住んでいたことがおありで?」


塔十郎の切れ長の目が一層鋭さを増した。

探ってくる、心の奥深くまで。

露草はつ、と背中に汗が伝う感触を思い出していた。



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