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ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第壱章
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ユビキリ ノ弐


 「ごめん」

 「かかさま、えーがさまがやって来たー」

 「こら、いらっしゃったとお言い。どうもすいません」

 「いやいや、子どもの言うことだからな。それより具合はどうだ?」

すっかり痩せてしまって声も弱々しい女ではあったが、そう聞かれたコウは「大分楽になりました」と笑顔を見せ、すっくと立ち上がった。

 「うちの人を呼んで参りますね。もしよろしければ、粗茶ではありますがお菓子とご一緒に。暫しおくつろぎください」

どうぞ、と上座を示すと、栄雅の傍にいたがる子どもを急かしながら、部屋を出て行く。

部屋に飾られた野の花に、あの幼い子どもが摘んできたのだろうと見当をつけて、微笑ましい気持ちになる。


 「お待たせいたしました。便りが遅れまして、申し訳ありません・・・・・・」

あくまでも内密の相談だった。

このところ栄雅はといえば、領内の村々を回ってその土地の状態や、民の間での流行病の有無、個人の健康などを気遣う事を専ら常としていた。

そうして時折個人の家に上がらせてもらうのである。

しかしそれは歓談を楽しむという雰囲気ではなく、双方とも企みごとを話すような、ひっそりとしたものだった。




 「なんじゃ、また来たのか。おんしも相当に暇じゃの」

 「おまんと言ったりおんしと言ったり・・・・・・統一しろというのに」


鬼は「通じておるんだから、どうでもええじゃろう」と呟きながら、茶を淹れてくれる。


 「おんしも相変わらずの仏頂面やね」

 「それこそどうでもいいだろう」

栄雅は不機嫌そうに茶をすする。すると鬼は「それもそうか」と小さく笑った。


最近は専ら、鬼の住処である山小屋に暇を見つけては逃れるようにしてやって来ていた。

その度にちょっと呆れたような顔をして見せるが、鬼は栄雅の訪問を喜んでいるようにも見える。

それというのも、いつも山の幸で作った菓子や、料理をふるまってくれるのである。

鬼はどこからどう見ても成人男子にしか見えないのにとても器用で、ましてや鬼とは思えないほど丁寧な動作をした。


 「全くなあ。城にいると息が詰まる」

 「隠居の親父さんはどうしとるのかね」

 「隠居とは名ばかりのものよ。俺に厄介ごとを全部押し付けていいところだけ攫っていく、鳶のようなお人だ」

 「若いうちに苦労はしておけというから、そういう存在もある意味では貴重なもんじゃ」

しみじみと言う鬼が、このときばかりは少しだけ憎らしく思え、声の調子が僅かに刺々しくなる。


 「人事だと思って。いいな、鬼は。人のしがらみという奴からは解放されている」

 「しがらみ、ねえ」

 「・・・・・・」

 「・・・そうでも、ないんやけどね」

 「・・・・・・?」


その時、鬼がふと見せた憂いの顔が、栄雅には強く印象に残った。




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