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ユビキリ  作者: 紅雨椿葉
第壱章
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ユビキリ ノ拾壱


 「具合はいいんか?」


鬼の問いには腹の虫がくうと返事をした。

鬼は笑みを零しながらええみたいやね、と食事の準備をしてくれる。


 「今度は何日経った?」

 「一日ちょっと。でも、歩けるくらいには回復したみたいじゃな。やっぱり新しいもんは再生力も違うんかねえ」


まずは飲み物を腹に入れろ、との教えは川本家からだった。

鬼になってもその習慣は変わらず、茶をすすってから、汁物、青菜の順に食べていく。


 「さすが、藩主だった奴はこんな山奥でも順序正しいの」

 「そういえば・・・・・・今、藩はどうなっているんだ?」

 「代理でお父上が取り仕切っているそうだが、いずれ弟さんに譲るつもりじゃろうね・・・・・・ちなみに、おんしは死んだことになっちょる」

 「そうか・・・・・・」

それで、いい。そうされることを、望んできたはずだ。


 「透影が・・・俺が谷から落ちたと報告したんだろうな」

 「そうなんじゃろうね。私も詳しくは知らんが」

 「・・・・・・・・・・・・」

 「辛いか?」

 「あ、いや・・・・・・ただ、明良が」

 「弟のことね?」

 「明良が、幸せになったら、もういい」



鬼が僅かに小指を動かしたのを視界の端に入れながら、露草はぼんやり考えていた。

生も、死も、全て受け入れる覚悟はできた。

人間としての生が終った事は死、しかし鬼としての生を受けた事で完全な死ではなく。つくづく厄介な生涯になりそうだったが、何故だか悲観する気にはなれなかった。

自嘲するように笑った自分を見て、目の前の鬼が、きょとんしている鬼が・・・・・・怒ったようにこちらを見ている。

怒ったように? 何故。


 「おんしは、己の事だけ今は考えんか。私はおまんに生きてほしい言うたじゃろ。抜け殻拾った覚えはなかぞ」

 「だから・・・・・・言葉を統一しろというのに」

真剣な顔も、これでは笑いを誘っているようにしか見えない。


 「伝わっておる。それで充分じゃ」

拗ねたように言ってみせた鬼の顔が子どもっぽくて、また笑いを誘う。

 「気持ちの整理をつけているんだ」


何も自暴自棄になって、流れるままに、何もせず生きていこうとしているわけじゃない。

その事を悟ったのか、鬼は黙ってしまった。


 「明良は可愛かった。妾腹だろうが、なんといってもたった一人の弟だ。性格もいい、皆から愛された。でも私は愛されなかった。その事を羨みもした、と思う。けれど明良が憎いわけじゃない。だから藩主を譲る準備を進めてきた。それが早まっただけだ。俺のしてきたことは間違っちゃいない」

 「・・・・・・」

 「後もう少し待てば、親父殿も手間をかけないですんだのに。短気だなあ」

 「恨まんの?」

 「恨んで解決するような問題じゃない。ただ心残りが在るとすれば、そうさな・・・・・・明良が傀儡にならなきゃいい。あれは賢い子だ。いい方向に藩を導くだろう」

鬼は眩しいものでも見るかのように、目を細めた。


 「おんしはのう・・・・・・無欲なんか、寛大なんか、捨て鉢なんか、冷酷なんか・・・・・・怒っとるのか悲しんどるのかも分からん」

 「何も考えてないさ。むしろせいせいしてるよ。これで仕事しなくてよくなる」

 「人間は強いの」

 「そうだな・・・・・・いや、俺も今は鬼だぞ」

 「じゃあ鬼も強い」

 「ならお前も強いんだろう」


そう結論付けると、鬼は目をまん丸にして、それから思い切り噴き出した。



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