第二話(仮)
嫌いなもの。それもたやすい質問だった。
「ブサメン。オタク。肉体労働。ダサい服。おっさんの説教」
「ブラボーだ。実にブラボーだよ。どれもこれもコレクト。オールコレクトだ。そして、もうひとつ次元の高い抽象概念で言うならば。OLはダサさ、汚さ。うざさを嫌っているとも言える。全く高慢ちきで鼻もちならない連中だと思わないか」
僕は小池課長に同意しようにも、そこまで積極的にOLのことを悪く言う理由もなく、黙っていた。小池課長は構わずにしゃべる。もしかしたら僕の沈黙を同意だと解釈しているのかもしれない。
「小池ダンス」
不意に小池課長が発した言葉に僕は「えっ」と短い言葉で聞き返した。
「覚えているか。小池ダンスを」
小池ダンス。
記憶がフラッシュバックする。あれは一昨年の忘年会。各課でひとつづつ余興をしなかければならないことに決まり、僕の所属する総務課も、余興を何にするかでミーティングを開いた。ところ、通常一時間はかかるミーティングがその日は五分で終了した。小池課長が自信満々の体で「出し物は私が一人でやる」と言い放ったからだ。何をするんですかと聞いても、ふふふと不敵に笑うばかりで教えてくれなかった。僕たちは若干の不安を感じたものの、小池課長があれほど自信満々なのであれば、ここはひとつ全面的に信頼してまかせようという結論に達した。
忘年会当日、部長の「えー。みなさん今年も残すところあと一週間となりました。…それではかんぱーい」という挨拶の後、しばし談笑を経て、いよいよメインの各課の出し物の時間となった。総務課の、小池課長の出番は三番目だった。