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1-〔4〕 魔法時代

 固焼きビスケットを、オレはホットミルクに、アンバールは葡萄酒に浸して食べながら。

 オレ達は主に、ゴーシェと仲間の傭兵達の会話に聞き耳を立てた。

 「スターサフィアのバルトー公子も、まだ捕まらないんだってな。懸賞金が一千万ディアムに上がったそうじゃないか」

「山分けしても一人百万ディアム以上……、ヒョーッ、一生働かなくていいぜ!」

 ゴーシェが、つまらなさそうに諭す。

「そんな虫の良い計算があるか。一千万ディアムといえば、軍隊が丸一個雇えるほどの金額だ。そこまでする必要のある相手だということさ」

「プラータ将軍に引けを取らない魔法剣士だって噂だもんなー」

「懸賞金は、公子を匿っている貴族や抵抗軍に、組織ぐるみで寝返るよう促すためのものだな。俺達に手の出せる獲物じゃない」

 「飛竜狩り隊に参加するのとかは……」

「ギヤマニアでもコランダムでも、はぐれ飛竜はほとんど狩り尽くしてしまった。これ以上はユークレイス山脈の"竜の里"に踏み込むしかないだろう。魔竜騎兵隊以外には無理だ」

「あーあ、地道に魔獣退治で稼ぐしかねえのかなあ」

「だけどよ、最近、前と同じ種類の魔獣でも、どんどん強くなってる気がしないか?数が増えて、一匹当たりの報酬は減ってるってのに」

「泣き言言ってる暇があったら、少しでも儲けのいいターゲットを探した方がいい。……貿易商組合の方で何か収穫はなかったのか?」

「それが、レクサンドラ方面から陸路で来たって毛皮商が言うには……、」

 その後は、地名やら魔獣の名前やらがわんさか出て来て、具体的な仕事選びの相談になった。

 聞いているとどうやら、魔獣っていうのは、狼や熊みたいな猛獣とは全然性質の違うモノらしい。普通の野生動物や家畜や、時には人間が、ある日突然化け物に変身してしまうんだって。例えば、牧羊犬が牛ぐらいにバカでっかくなって、食うわけでもないのに羊の群れを全部噛み殺しちゃったりするらしい。

 一度魔獣に変身した動物や人間を元に戻す方法はなくって、被害を食い止めるには殺すしかないとか……。ゾッとしないな。

 傭兵達の話を聞いてるうちに気持ち悪くなってきて、オレは、ミルクに浸してもビスケットが喉につっかえるようになっちゃった。

 でもアンバールは平然と、結構速いペースで飲み食いしている。

 オレは葡萄酒の瓶を逆さまにして、最後の一杯を注いでやった。まるで顔色変わってないよ、こいつ。オレなんか、麦酒(エール)一杯でもほっぺた赤くなっちゃうのにな。

 と――、

 ゴーシェ達とは別のテーブルで飲んでいた、矢っ張り傭兵らしいおっちゃんが、ぽんとオレの肩を叩いて愛想良く笑った。反射的に、挨拶代わりに微笑み返すオレ。

 おっちゃんはアンバールの横に行き、にこやかに何事か耳に囁いた。

 アンバールはちょっと眉をひそめた。

「おい、この御仁が、銀貨五枚でどうかって言ってるんだが。お前さん、どうする?」

「どう、って?……あっ!」

 意味がわかったオレは、両手と首をぶんぶん横に振った。

「じょっ、冗談じゃないぜ!」

 そう。オレ様は、まだ声変わりもしてないカワユイ美少年だからね。時々、そっちのケのある奴がコナかけてくるんだよ!

 なおも残念そうに食い下がるおっちゃんに、アンバールは友好的な感じで手を差し伸べた。つられて出されたおっちゃんの手を、みしみしと骨の軋む音が聞こえそうなぐらい強く握る。さっきも使った手だね。

 おっちゃんは、すごすごと引っ込んだ。

 「そんなん、始めっから断ってくれよ!」

「いや、俺はお前さんの普段の暮らしぶりを知らん。もしかすると、稼げるなら何でもやる主義かもしれんと思って」

 うーん……、それもそうだ。少なくとも、オレの意思も確かめずに売り飛ばしたりしなかったんだし、相棒として信用出来る態度といえるだろう。……信頼はしないけどさ。

 「そういうお前は?"本業"以外にも何かやってんの?」

「賭けでも、食費を浮かす程度には勝てる。ただし、将棋とか腕相撲とかの、実力勝負に限るぞ。運やら神様やらは当てにしてないんでな」

 アンバールはちらっと、店の隅の席に目をやり、低い声で付け足した。

「特に、こういう雰囲気の店ではお断りだ」

 札遊びをしている客の一方が、どうも"本職"のイカサマ師らしい。誤魔化したの、言い掛かりだのと、それぞれの仲間を巻き込んで喧嘩になりかかってる。

 他にもスケベっぽい目付きでさっきからオレの横顔を眺めてる奴もいるし、全体に、酔いが回って話し声が大きくなるのに反比例して、話の中身が薄くなってきてるし……。

 「そろそろ二階に上がんない?」

「頃合いだな」

オレ達は席を立った。

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