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第1章 王都シャンデリア 〔1〕 ここ、どこ?

 「チビスケ。おい、起きろ」

「う……ん?」

 肩を揺すられて、オレは目を覚ました。

 「大丈夫か?」

「うん、多分……」

体に、どこも痛い所はない。

 「だったら、とっとと下りてくれ。野郎を上に載せていても面白くない」

「あ」

 オレはアンバールの胸に上半身をもたせかけるようにして倒れていた。がばっと身を離すと、アンバールもゆっくり体を起こす。

 その首に、円い金のペンダントが掛かっていた。

 「ああっ!?お前、いつの間にちゃっかりそいつまで……!」

 いつも巻いている緑のバンダナの上から、コツン、とアンバールはオレのおでこを叩く。

「これは俺のだ。お前さんのは、そら、そこにある」

と、オレの胸を指差した。

 あらら?本当だ。

 「え……?本物……?だってこいつは、コランダム大公バルトーとシトリン妃の持ってた、この世に二つしかない……」

「ああ、そうだ。まさか、その片割れの持ち主がお前さんとはな。驚いたぞ」

「げっ!じゃあ、お前も……?」

「バルトー大公とシトリン妃の末裔……らしいな」

 オレはまじまじとアンバールの顔を見つめた。

 ああ、それで……。生粋のギヤマニア人なら、黒眼黒髪だ。アンバールは黒髪だけど、瞳は、光の当たり具合によっては金色にも見える明るい琥珀色をしている。

 コランダム人だけじゃなくて、レクサンドラ人や、オパール大陸の砂漠の民の血なんかも入ってるのかもしれない。国籍不明の、端正な顔立ち。

 「ふうん……、じゃ、仕方ないな。お宝は山分けか」

って、あれ?お宝は?

 オレがきょろきょろと辺りを見回すと、アンバールが首に掛かったペンダントをつまんで振って見せた。

「お前さんも、こいつの読み方を知っているんだろう。見てみろ」

 オレは自分のペンダントを月明かりにかざしてみた。すると――。

「嘘だろ……!何十里も南を指してる!?」

「矢張り、そうか。俺の目がおかしくなったわけじゃないんだな」

 オレは満月を見上げた。時刻は、さっきからそんなに経ってないようだけど……。

 「ちょっと待てよ。そもそも、ここ、どこだよ?」

 さっきと同じ角度で、城の主塔が見える。だけど、何かが違う……?

 ひび一つない城壁に垂れ下がる、ギヤマニア王国の国旗。塔の天辺には木の屋根が葺かれ、アンバールがくぐってきた窓にも、鉄格子の内側から鎧戸が閉まっている。そして、歩廊の矢狭間からは、かがり火の光がちらちらと揺れ動いているのが見えた。

 振り返ると、オレが乗り越えてきたはずの外城壁は無く、黒々と森が間近に迫っている。

 ぞくり、と背筋に寒気が走った。

 「どういうことだと思う?」

今更ながら声を潜めて、オレはアンバールに尋ねてみた。

 「さあて、な。一つの推測はつく。つくが……」

アンバールは手近に咲いていた白い小さな花を一輪摘み、指先でくるくると回した。そいつを鼻に近付けて匂いを嗅ぎ、顔をしかめる。え、何で?いい匂いじゃん。

 と、その時。

「誰だ?そこにいるのは!」

鋭い誰何の声が飛んできた。

 オレ達はパッと立ち上がって身構えた。

 やって来たのは、松明を掲げた兵士が二人。とりあえず亡霊や妖怪変化じゃなさそうだ。

 アンバールは落ち着き払って、両手を広げて上げた。

「見ての通りの、旅の者だ。道に迷ったんで、ひとまず明かりの見える方に歩いてきた」

「旅?こんなとっぷりと日の暮れた後にか?」

「今夜は良く晴れた満月だ。行けるところまで行こうと思ってな」

 兵士達はじろじろとオレ達を観察した。

「一人はコランダム人のガキか」

「怪しいな。聞き慣れない訛りだが、どこから来た?」

 おいおい、訛ってるのはあんた達の方だろ。オレは気を付けているつもりでもしょっちゅう、コランダム訛りが強いって言われる。だけどアンバールが喋るのは、きれいな王都の標準語――の、木で鼻をくくったように無愛想なやつ――だ。

 アンバールが口を開いた、が、答えは突風と羽ばたきの音にかき消された。

 月光を遮る巨大な影。

 振り仰ぐと――、

 で、ででで出たっ!化け物っっ!!

 でっかい鳥……、じゃない。飛竜!?

 体長は馬の三倍もあろうかという四つ足の、首の長い獣の背中に、蝙蝠みたいなかぎ爪付きの翼が生えている。そいつが悠然と羽ばたきながら、空中に静止していた。

 「いたぞ!あっちだ!」

飛竜の背中にまたがった騎士――だと思う、身なりが良かったから――が叫んだ。長槍を脇にたばさみ、飛竜の二本の角にかけた手綱を引いて、ビュンッと飛び去る。

 兵士達がそれを追って走り出した、隙にアンバールは呆然と空を見上げていたオレの手首をつかみ、一散に森へ向かって駆け出す。

 「あっ、待て!」

「構うな、放っとけ!奴を捕まえる方が大事だ!」

 兵士達の声を後ろに聞きながら、オレ達は脱兎の如くとんずらをこいた。

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