2-〔6〕 滅びを招く技術
「あれ?道、間違えた……?」
道路を大きな倒木が塞いでいた。何日も経ってるみたいな傷み方だ。
一日に何台も馬車が通るような街道なら、倒木はすぐに撤去されるか、少なくとも道幅の分だけは切って、交通に支障が無いようにするはず。
さっき分かれ道で、もう一本の道の方が新しくて、人が沢山通ってそうに見えたんだ。でも道幅が馬車一台分ぐらいしかなかったから、二車線のこっちが本道かなと思って……。
「上から確かめましょうか」
と言ってラピスが、道端に落ちていた鳥の羽毛を拾い上げた。
そいつに魔力を載せて、風で上空に飛ばすと、半径※三里(※十二キロメートル)以内ぐらいの"気"の状態を見渡せるんだって。
例えば、川や湖は水の"気"の塊として感じ取れるし、逆に人里や道路とかの開けた場所は、地表の温度が上がって火の"気"が強い。風の"気"の流れ方で、山か平地かとか、岩場か森かとかもわかるらしい。
ふうーん?でも、何かまだるっこそう……。
「目で見た方が早くねえ?ラピス、人間以外のものに変身したりは出来ないの?」
「出来ないこともありませんが……」
服とか靴とかの備品まで、一々魔法で作り直す方が、面倒臭いか。
と思ったら、もっと根本的な難点があるらしい。
変身すると、体力や魔力が変身後の生き物相当のものになってしまう。
人間なら、本来のドラゴンの姿でいる時に使える魔法のほとんどが――威力は多少落ちるものの――そのまま使用可能。
でも、例えば虫や小鳥になると、自由に変身を解除することさえ出来なくなる。誰かが外から魔法をかけてくれない限り、自然に術の効果が切れるまで待つしかなくなってしまうんだって。
そんな状態で、他の動物や魔獣に襲われたら……。
成る程ね。そこまで危険を冒す必要はないよな。
ってことで、羽根を飛ばす方法で地理観察してもらった。
「……歩いて※一刻(※三十分)ほどの位置に、無人の村があります。新しく、村を迂回する道を作ったのですね。先程の分かれ道まで引き返すよりは、このまま進んだ方がずっと"近い"ですよ。ただ、時間的に"早い"かどうかはわかりませんが」
「……って言うと?」
「魔物化した植物の気配が集まっています。そのために、村を放棄したのでしょう」
アンバールが短く訊いた。
「植物でも、か?」
生えてる場所から動けないはずの植物でも、危険があるのか。倒すのに時間を取られるのか。……って意味だろう。
植物ぐらい、引っこ抜いて始末すればいいのじゃないか。村を放棄する必要があるのか。……って疑問まで含んでるのかもしれない。
「魔物は卵や種で殖えるわけではありません。"気"のバランスが乱れた動植物が変化するのです。ある場所で魔草がはびこり始めたなら、大抵は、その土地自体の"気"がもう大きく乱れています。後から後から、駆除しきれないほど魔物が発生するようになってしまうのですよ。
毒を出したり、動物を捕らえて養分にしたりするような、直接的に有害な魔草は少ないですけど。魔草は並の植物よりはるかに成長が早くて、巨大にもなりますから、魔獣化した虫や草食動物が集まる誘因になります」
そいつは――、
「避けた方がいいのか?」
え?オレは今、『避けた方がいいな』って言おうとしたんだけど。アンバールの考えは違うんだ?
「この時代に来てから、魔物と戦ったのは一度きりだ。リスクが低いなら、肩慣らししておきたい。……こいつや驢馬に危険なようであれば、やめておくが」
と、アンバールはわしゃわしゃとオレの頭を撫でた。
おいコラッ!お荷物呼ばわりかよ!
「腕の程はわかります。アンバールさんなら、大丈夫でしょう」
「って、ラピスもかい!オレのことは、戦力外通知かっ!?」
思わず、今度は声に出しちまったい。
「あ、すみません。そういうつもりではないのですが……」
ニコニコと、優しそうな目をオレに向けるラピス。
……。あー、そっか。
紳士的なんだね、ラピスは。女子供を危険にはさらさない、ってわけか。
だけど……、
「オレだって戦うって。ガキンチョ扱いしないでくれよな、二人して!」
腰に差した短剣の鞘をポンと叩いて、オレは胸を反らす。
「助かります、お二人がそう言って下さると。多少のリスクは覚悟して頂かなければなりませんが、村を通りたかったのです」
「え、どーゆうこと?」
「魔物は極力、見つけ次第退治するのが基本です。不必要に他の生き物を殺傷したり、貪食したりして、どんどん周りの自然を壊してしまいますから。放っておくと、連鎖的に魔物化が拡がりかねません。
僕を助けたために、ろくな準備もなく旅立つことになったお二人を、無理に付き合わせようとは思いませんが……」
アンバールが、ちらりと横を見た。
「そうか。すると、ああいうザコでも、手間を惜しまず虱潰しにするべきなのか」
視線の先には……、
「うげえぇえっっ!?」
またまた、思わず裏返った声を出して、オレはラピスの陰に隠れてしまった。
け、けけけ毛虫っっ!!
体長※三、四尺(※約一メートル)はある超特大の毛虫が三匹ばかり、林の中で下草やら木の皮やらをムシャムシャ食べていた。
気っ色悪ィーーッッッ!!!
アンバールは、気付いていながら無視できちゃってたんだ?虫だけに!
……、……。
くっ、くだらん。これは、声に出したら間違いなく軽蔑されてた。
いやいや、親父ギャグは人間関係の潤滑油。父ちゃんだって在りし日には、盗賊団の荒くれ男どもをまとめ上げるために……、
って、自ボケ自ツッコミしてる場合じゃなーくーてーっ!
「!!!」
ラピスにとっては、灯台下暗しというか。あんまりに雑魚すぎて、気配を察知出来なかったってとこなのかな。
急いで、手近な草を三本引き抜くと、フッと吹いた。
ヒュンッ。
風の魔法を載せたんだろう。草は投げナイフのように鋭く飛んで、特大毛虫どもの脳天を刺し貫いた。イチコロだ。
これは、ヤツらが弱すぎるのか、ラピスが強いのか……。まあ、両方なんだろうけど。
「そうですよ。大した害は無いと思って捨て置くと、もっと厄介な他の魔獣を出現させる元になります」
「"腐った芋は周りの芋を腐らせる"……か」
アンバールの言葉に、ラピスは『え?』という顔をした。
あれ。もしかして、魔法時代が終わってから出来た諺なのかな。
"朱に交われば赤くなる"とかいうのと同じ。悪い人間と付き合ってると、悪の道に染まる……みたいな。
別に、一個カビたり腐ったりしたのが混じってると、周りのやつまで傷みやすくなるのは、どんな野菜や果物だって一緒だけどね。
オレ達の時代のギヤマニアでは、貧乏な農家はパンよりもジャガ芋を主食にしてる。……母ちゃんが生きてた頃のオレん家だってそうだった。
だから、冬の間に、貯蔵した芋が底の方から腐ってたりすると、切実に困るわけ。それで"芋"が代表選手なんだな。
……。世間的に"腐った芋"に分類される、オレみたいなトレジャーハンター(要するに墓ドロボー)としては、何か胸に突き刺さる諺である。
「それはそうと……おい、チビスケ。大丈夫か?」
アンバールが呆れた口調で言った。
「え?あっ!」
無意識のうちにラピスの上着の裾をしっかと握っていたオレは、慌てて手を離した。
「ち、違うって!怖いんじゃなくて、気持ち悪かっただけ!倒せないってことは、なかった!」
まだ鳥肌が立ってるけど、うん、本当だよ。戦えるってば!
「ところで!さっきから話聞いてると、ラピスは、どんな条件の時に普通の生き物が魔物になっちゃうか、知ってるんだ?
教えてくれよ。オレ達、ここ十日ばかし調べたんだけど、全然わかんなくってさ」
「そうでしょうね。ギヤマニアでは」
ラピスは憂い顔をすると、ひょいと倒木を跳び越えた。
「歩きながら、お話しましょう」
てくてく、てくてく。
「魔物を放っとくと、他の生き物を魔物化させるって……じゃあ、あの噂は本当なんだ?魔物と接触すると魔物になるっていう……」
「当たらずとも遠からず、です。でも、伝染病のようなものではありませんよ。間近に接したからといって、それが直接の原因で"移る"ことはありません。あくまでも、"気"の乱れによるものです」
ラピスが挙げた、魔物化の主な要因は三つ。
一つは、魔法の使いすぎ。
魔法ってのは、例えば風の魔法なら風の"気"を周囲から引き寄せて、一カ所に集中させることで発動する。
強力な魔法を繰り返し使う・使われるとかすると、特定の"気"だけが消耗したり過剰になったりして、体がおかしくなってしまうんだって。
それも、自然な状態で使えるだけ使う分には、だいたいは自然に回復するけど。魔道具――杖とか、護符とか――や魔法薬を使って、無理に魔力を強化したり回復させたりしてると、危ないんだそうだ。
「もしかして、これもヤバイの?」
と、オレは神殿でもらってきたお薬シロップの瓶を、ラピスに見せた。
「神殿で処方されるものは、効能が確かで、効き目も緩やかな薬がほとんどです。心配いりませんよ。ですが、軍隊で使用しているものや、民間で密売買されているものの中には、劇薬といってよいほど危険な薬もあります」
二つ目は、魔物化した生き物を食べること。
体内に取り込むことで、外部から触れるよりもはるかに、"気"の偏りの影響を受けやすくなる。
野生動物は、本能的に食べたがらないことが多いそうだ。それから、カビとかミジンコみたいな、ものすごく小さくて単純な生き物は、そもそも魔物化しにくいらしい。
魔草や魔獣を食べるのは、おつむの発達してない昆虫や貝とか。そうでなければ、よっぽど飢えているか、既に魔獣化した・しかかっている動物。あとは、野性の勘が鈍ってる人間と、人間に飼い慣らされた家畜ぐらいだそうである。
そして三つ目は、極端に"気"が偏ったり乱れたりした環境に、長時間身を曝すこと。
自然界には、そういう地点はほとんど存在しない――っていうか、火山の火口の溶岩溜まりとか、最果ての海の氷山とか、元々生き物が暮らすには過酷な場所ばかりなんだ。
でも近年、人為的な"危険地帯"が増えてる。
魔法をドカスカ使った戦場跡とか。魔法で火の"気"を集めた、高温の金属精製炉がある工場の周辺とか。
特に、今ギヤマニアで多いのが、促成栽培のために土や水の"気"を引き寄せる魔法陣で囲った、農地だということだ。
ラピスは、これから向かう廃村にも、まだ魔法陣が残っているのじゃないかと懸念している……そうだ。
「成る程ねえ……」
魔獣退治屋が魔獣化しやすい訳が納得出来た。
魔獣退治のためには魔法も使うだろうし、仕留めた獲物を食べることもあるだろう。それにそもそも、魔獣がいっぱい出没するのは、"気"の乱れた場所だってことだ。
魔物になりやすい条件が、三つとも当てはまっちゃうんだ。
「そのことを……ほとんどの奴が、知らずに仕事してる?」
「魔物化の条件なんて、ギヤマニア以外の国では、謎でも秘密でもありませんよ。むしろ、魔法を使う神官や魔道士にとっては常識といってよいぐらいです。
僕達飛竜族が、もう五十年も前から、警鐘を鳴らしてきましたからね」
およそ五十年前、今のジェイド王のじーちゃんの代のこと。
ギヤマニアは、全国民の一割が死亡するほどの大凶作に見舞われた。その翌年から、農地に日常的に魔法を注ぎ続けることで作物を増産する、"禁断の技"が使われ始めたんだって。
「気持ちはわかります。ギヤマニアは本来、コランダムやレクサンドラに比べると、ずっと貧しい土地なんです」
ギヤマニア人は、実は民族的にはオパールの沙漠の民に近い。
普通に考えたら、日射しの強い南の土地ほど、髪や肌の色の濃い民族が住んでそうなものだ。それなのに何故、黒眼黒髪のギヤマニア人の方が、金髪のコランダム人より北に根付いてるかっていうと――。
古代魔法大戦の後、生き残ったフリントの民は、新たな安住の地を求めて"辺地"に北上した。コランダム島には既に、先住民が文明国家を築いていたので、追い払われて、当時ほとんど無人だったギヤマニア島に流れ着いたのだそうだ。
因みに、レクサンドラはその中間。金髪の先住民と、黒髪の移住民が混じり合って暮らすうち、茶色い髪の一つの民族になったんだ。
……っと、それはさておき。
"残り物"だったギヤマニア島は、当然と言えば当然ながら、住みにくい土地だった。
斧を拒む鬱蒼とした森に覆われ――そのおかげで現代でも、オレ達みたいな無法者は隠れ家に不自由しないんだけど――、冬は雪深く寒さが厳しい。金属とか宝石とか、燃料とかの鉱物資源も乏しい。
ギヤマニア人達は長年、不利な条件で、特にコランダム島からの輸入に頼らざるをえなかった。
「他の国々が猛反対すれば、諦めるよりは力押しでねじ伏せようとするのも、無理からぬことでした」
ギヤマニアは過去にも何度か、同じような"禁術"に手を出している。でもその度に、諸外国は輸出をストップしたり、軍事的に圧力をかけたりして、やめさせてきた。
魔法を使いすぎれば、"気"の乱れは一国に留まらない。不作とか魔物化とかの影響が、周りの国々にまで広がってしまうからね。
これまでは、特に飛竜族の説得と制裁が功を奏して……、それに何より、魔獣による被害にギヤマニア人自身が困って、計画は頓挫してきたんだとか。
だけど、今回は違う。
王宮魔道士達は、農業技術と併行して、軍事技術の開発と実用化も推し進めた。
魔獣が出現しても、それをまた、強力な魔法で退治する。諸外国を侵略して、魔力を持った鉱石やダイアモンド・スピリットを手に入れようとする。
これは、一か八かの賭けだ。国が、いや世界全体が荒廃するのが先か?それとも、安全に、持続的に利用出来る魔法技術を開発出来るのが先か?
「今よりも遙かに魔法技術の進んでいた、フリント文明時代でさえ、大地の恵みの限界を超えることは出来なかったのです。その後、僕達飛竜族も研究を重ねてきましたが、魔物化や土壌の劣化を引き起こさずに作物を増産する"永久機関"などは出来ませんでした」
古代魔法大戦から千年以上経っても、フリント沙漠は不毛の荒野のままだ。
確かに、一度完全に裸地になると、肥えた表土が雨風に流されてしまって、緑が戻りにくくはなる。それでも雨さえ降るならば、鳥や動物が運んでくる種が芽吹く。まずは草原が、それから森が、だんだんと育ってゆくはずなんだけど……。
魔法で養分を吸い上げすぎたために、土が痩せきっているんだ。
「それは、これまで開発出来なかった技術だからといって、これからも開発出来ないとは限りませんよ。"挑戦する"のは悪いことではありませんが……、でも、"当てにする"にはあまりにも成功の見込みが薄い。
ギヤマニア人達が今のペースで魔法を使い続ければ、もう百年と経たないうちに、フリント沙漠より北に人の住める土地は無くなってしまうでしょう」
ラピスは溜め息を吐いた。
「ジェイド王と王宮魔道士達は、魔物化の原理を国民には秘匿しています。
とはいえ、歴史の記録や外国からの情報を完全に抹消することは出来ませんし、魔獣退治屋達などは経験的に気付くと思うのですが……。
それでも真実の知識が広まらないのは、"信じたくない"からでしょうね。今の豊かな暮らしを支えている技術が、破滅的なものだということを。
『魔法の使いすぎが魔物化の原因だ……などというのは、魔法技術の抜きん出たギヤマニアを弱体化させるためにコランダム人がばらまいた流説だ』と言われれば、そちらの方に説得力を感じてしまう。
五十年前の大飢饉を経験している人達が、特にそうなのです。知恵があるはずの年配者がそういう見解では、若い人達を啓蒙してゆくのも難しいことです」
ううーん……。オレも、その気持ちはわかるよ。
オレが五才の時も、凶作だった。その年生まれた弟は、最初っから体が小さかったけど、やせっぽちのまま三ヶ月ぐらいですぐに死んでしまった。いつもひもじそうに弱々しく泣いていた声が、今も耳に残ってる……。
そんなことが、国中で起こったのなら――。
危険な、未完成の技術だとしても手を出さずにはいられないだろうし、そこから"腐った芋……"の諺が使われないくらい、毎日どっさりパンが食べられるようになったら、元の生活水準に戻りたくはないわな。
だけど……。
「あ……」
道路の真ん中で、人間の胴体ほどの太さもある、巨大ミミズがのたうち回っていた。腹がパンパンに膨れて破れ、中から落ち葉がはみ出している。
ラピスはまた、口笛を吹くみたいにひゅうっと細く息を吐いた。銀色の糸みたいなものが巨大ミミズに絡みついて、たちまち繭を作り……、いや、違う?
ミミズ魔獣の体が見る見るしぼんで、干からびていく。
水の魔法か!銀色に光って見えるのは、霧みたいに細かな水滴だ。水分を、強制的に体の外に絞り出しているんだ。
あっという間に、巨大なミミズの干物の出来上がり。ミミズは真っ二つに切ったって再生するぐらいだもんね、こういう倒し方でもしないと……。
しっかし、これ、人間相手に使ったら相当エグい技だぞ。飛竜族を敵に回すのは、滅茶苦茶ヤバそうである。
「魔獣になった生き物も苦しいのです。被害者なのですよ。
魔物化は、病気や奇形と同類の"異常"です。生物が環境に適応するために姿形を変える、自然な反応とは、根本的に違います。
ほとんどはこのように、攻撃衝動や食欲に引きずり回されて我が身を壊し、放っておいても一週間ほどで自滅してしまいます。次の世代を遺すこともありません。
憐れな生き物を、これ以上増やさないためにも……」
ラピスが足を止めた。どうやら、村の入り口に着いたみたいだ。
「こいつは……」
アンバールが唸った。
異様な光景が広がっている。
立ち枯れた林の向こうに、木みたいにバカでっかいスギナやクローバーがにょきにょき生えている。見ている間にも成長中で、うねうねと葉っぱをくねらせて、動物みたいに揺れ動く。それを、矢っ張りバカでっかい芋虫毛虫や、やけにゴロンと太ったウサギがバリバリかじってる。
魔法の影響の受けやすさとかが違うのかな?体の大きさは、生き物本来の大きさに比例するわけじゃないみたいだ。
「塩……?」
オレはしゃがんで、カチコチに固い、白っぽく粉を吹いた地面に触ってみた。
荷物持ちの驢馬くんが舐めたけど、すぐにペッペッと吐き出してしまった。
「そうです。魔草が無理に水分や養分を吸い上げているために、普通の植物が育たないほど塩分や酸が濃くなっています」
ラピスはアンバールを振り返った。
「これからまず、あそこにいる魔獣達を倒します。そうすると、血の匂いに引かれて、肉食の魔獣達も集まってくるはずです。
弱すぎたり強すぎたりする魔獣は僕が引き受けますから、存分に腕試しして下さい」
「世話にはならん。一人で全部ぶった切ってやるさ」
背中にしょった大剣の鞘を抜き払い、不敵な薄笑みを浮かべるアンバール。
「一人で、って……だから、オ・レ・はっ!?」
「お前さんは驢馬のお守りでもしてろ!」
ラピスが、すいと両手を前に上げる。
「いいですか?いきますよ……」