「落ちこぼれ聖女」と呼ばれ続けた私ですが、二十年以上かけてようやく中級聖女になれたようです
「聖処女神エリューシオン様、どうかご慈悲を与えたまえ!!」
目の前では、夫が血まみれで倒れていました。腕と足はひどく損傷し、そのすぐそばには、まだ幼い我が子まで倒れています。
「だめ!私の魔力では足りない。やはり私は、落ちこぼれ聖女なんだわ!」
私は六歳のころから何十年ものあいだ唱えてきた聖属性魔法を、夫と子供へ必死にかけ続けました。
けれど、傷が塞がらない。
「どうして!?何がいけないの!?」
私はありったけの魔力を振り絞りました。
夫も。
子供も。
絶対に死なせたくない。
私なんてどうなってもいい。
だから。
どうか。
どうか、この二人だけは――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私は貴族の家に生まれました。
六歳のとき、聖処女神エリューシオン様から聖女となる資格を認めていただきました。
両親は大喜びです。
「我が家から聖女が出るなんて!」
「きっと立派な聖女になるわ!」
幼かった私も、当然その気になりました。
聖女。
それは特別な存在。
いずれは一国の王子様に見初められ、王族の一員になることだってある。
そんな話も聞きました。
私は夢を見ました。
綺麗な服を着て。
立派なお城へ住んで。
皆から敬われて。
そして。
私を羨み、ずっと意地悪をしてきた姉を見返してやるのです。
「あなたより、私の方が立派になったでしょう?」
そんなことを考えていました。
今思えば。
ずいぶん嫌な子供ですね。
ですが当時の私は、本気だったのです。
姉からの嫌がらせにも耐えられなくなり、私は早々に実家を出て、エリューシオン教会へ入りました。
そこで正式に聖女としての修行を始めたのです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
聖女は皆、最初は初級聖女から始まります。
一定の修行を終え、認められれば中級聖女。
中級になれば、各国からの依頼や本人の希望に合わせて、聖女として派遣される資格を得ます。
その上には上級聖女もいますが、そこまで到達できる方はかなり少ないそうです。
私はもちろん。
すぐに中級へ上がれるものだと思っていました。
貴族の娘です。
幼いころから文字も読めました。
礼儀作法も学んでいました。
聖女としても六歳で認められた。
きっと他の子より有利。
……そう思っていたのですが。
現実はまったく違いました。
「また駄目……」
私は何度修行を受けても中級聖女へ上がれませんでした。
あとから教会へやってきた平民の少女。
孤児の少女。
私より何歳も年下の子。
そんな子たちが次々と中級聖女へ上がっていきます。
「お姉様!私、今度、中級聖女になりました!」
「まあ。おめでとう」
「ありがとうございます!」
笑顔で送り出します。
でも胸の中はぐちゃぐちゃでした。
どうして?
どうして私は駄目なの?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
毎朝。
私たちは広間へ集まりました。
そこで大聖女様が読み上げる祈りの言葉を聞き、聖処女神エリューシオン様への信仰を深めます。
祈りの言葉は、とても長いものです。
全部覚える必要はないと言われていました。
ですが私は必死になって一字一句覚えました。
何日も。
何か月も。
何年もかけて。
ついに全文を暗唱できるようになりました。
大聖女様も。
「よく覚えましたね」
と褒めてくださいました。
私は嬉しかった。
これなら今度こそ。
そう思いました。
ですがまた駄目でした。
一方。
祈りの言葉を半分も覚えていない十二歳や十三歳の少女たちが。
次々と中級聖女へ上がっていきます。
そして国からの依頼を受け聖女として派遣されていきました。
いいなあ。
私も行きたい。
聖女として国を救ってみたい。
大勢の人から感謝されたい。
王子様にだって。
もしかしたら。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
気がつけば。
私は二十歳を超えていました。
それでも。
初級聖女のまま。
実家から届く手紙も、だんだん少なくなりました。
たまに届いたと思えば姉が子爵家を継ぎ、婿を迎え、領地経営もまずまず順調だという知らせ。
両親は嬉しそうでした。
「お姉ちゃん、立派になったのね」
私は。
一人で。
そう呟きました。
昔はあれほど姉を見返したかったのに。
気がつけば姉の方がずっと立派になっていました。
私。
何してるんだろう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
二十五歳の誕生日。
お世話係の神官様から声をかけられました。
「そろそろ今後のことを考えてもよいかもしれませんね」
穏やかな言い方でした。
誰も私を責めません。
誰も。
「落ちこぼれ」
なんて言いません。
教会の皆さんは優しかった。
年下の聖女たちも。
「お姉様」
と慕ってくれました。
だからこそ。
辛かった。
だって。
みんな前へ進んでいるのです。
私だけ。
ずっと。
同じ場所に立ったまま。
ちょうどそのころ。
十年前に他国へ派遣されていた聖女が帰ってきました。
私より一つ年下の子です。
十三歳で中級聖女となり、十年間の派遣を終えて戻ってきました。
「お姉様、私、結婚することになったんです!」
「まあ」
「幼なじみなんです。ずっと待っていてくれたみたいで」
「それは良かったわね」
私は笑いました。
本当に良かったと思いました。
でもその夜、一人で泣きました。
私は二十五歳。
ずっと修行をして。
ずっと祈って。
ずっと頑張って。
それでも初級聖女のまま。
「私」
翌日。
神官様へ言いました。
「聖女、辞めます」
「え?」
「教会も出ます」
神官様は驚いていました。
「急いで決める必要はありませんよ」
「いいえ」
私は笑いました。
「ずっと考えていましたから」
実家にも戻るつもりはありません。
幸い。
世の中には治癒士という仕事があります。
私は聖女としては落ちこぼれでも簡単な傷を治すくらいならできます。
冒険者ギルドで登録をすれば食べていくことくらいはできるでしょう。
そして私は本当に教会を出ました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから何年も経ちました。
私は少し大きな町にある治癒院で働いています。
治癒士は私を含めて五人。
剣で切った傷。
転んで折れた骨。
魔物に噛まれた傷。
そうした怪我を中心に治療します。
それくらいなら私でも十分に役に立てました。
「ありがとう!」
「助かったよ!」
そう言われるたび。
少しだけ嬉しくなりました。
聖女様と呼ばれなくても人を助けることはできる。
そんな当たり前のことを私はずいぶん遅くなってから知りました。
そして私にも良い人ができました。
町の兵士です。
魔物に襲われたとき助けてもらったのがきっかけでした。
……我ながらチョロいですね。
でも好きになってしまったものは仕方ありません。
私たちは結婚しました。
やがて子供も生まれました。
治癒士という仕事は妊娠中でも子供が小さくても無理をしなければ続けられます。
なんて女性に優しい仕事なのでしょう。
私は幸せでした。
昔。
夢見ていたような王子様もお城も豪華な服もありません。
でも朝起きれば夫がいて子供が笑って。
仕事へ行けば治療を待つ人たちがいる。
それだけで十分でした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そんなある日事件が起きました。
町の外に大量の魔物が発生したのです。
近年では見られないほどの数。
町の兵士たちは警備と討伐に分かれました。
夫も。
毎日町の外へ向かいました。
そして毎日のように怪我をした兵士たちが治癒院へ運ばれてきます。
「次!」
「はい!」
私も必死で治療しました。
なんとか町は守られています。
ですが領主様はエリューシオン教会へ緊急の聖女派遣を依頼したそうです。
どきん。
聖女。
その言葉を聞いただけで胸が痛みました。
聖女が来る。
中級聖女。
私が何年かかってもなれなかったもの。
手が震えました。
「どうした?」
夫が心配そうに私の顔を覗き込みます。
「なんでもないわ」
「顔、真っ青だぞ?」
「大丈夫」
大丈夫。
私はもう聖女ではない。
関係ない。
そう言い聞かせました。
ですがしばらくして領主様から知らせがありました。
「申し訳ない。教会も各地への対応で手いっぱいらしい。こちらへ派遣できる聖女はいないそうだ」
皆、落胆しました。
でも私だけは心の底から安心してしまいました。
最低ですね。
町が危ないのに。
私は聖女が来ないことを喜んでしまったのです。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから一週間ほど経ったころ。
ついに魔物の一部が町の中へ侵入しました。
「治癒士!」
「怪我人だ!」
治癒院へ次々と人が運ばれてきます。
私も必死に走り回りました。
そんなとき一人の兵士が青ざめた顔で私のところへやってきました。
「……すまない」
「え?」
「ご主人と……子供が」
頭が真っ白になりました。
夫はたまたま非番で子供と一緒にいたそうです。
そこへ魔物が侵入した。
夫は子供を庇った。
そして二人とも瀕死の重傷を負いました。
「残念だが……」
兵士は言葉を詰まらせます。
「助からないと思う」
「……」
私は走りました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「聖処女神エリューシオン様、どうかご慈悲を与えたまえ!!」
夫。
子供。
血。
傷。
息が弱い。
「だめ!私の魔力では足りない。やはり私は、落ちこぼれ聖女なんだわ!」
治らない。
傷が塞がらない。
「どうして!?何がいけないの!?」
昔。
何度も。
何度も。
唱えた祈り。
覚えた言葉。
修行。
全部。
全部使いました。
でも。
足りない。
「お願い……」
私はありったけの魔力を二人へ注ぎ込みました。
「お願いだから……」
私なんてどうなってもいい。
王子様なんていらない。
聖女なんて呼ばれなくていい。
姉に勝たなくてもいい。
中級聖女になれなくてもいい。
何もいらない。
だからこの二人だけは。
どうか生きて。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
気がつくと。
私は夢を見ていました。
まだ教会へ入ったばかりのころの私。
聖女だから私は特別。
いつか王子様と結婚する。
綺麗な服を着る。
姉を見返す。
みんなから羨ましがられる。
……。
馬鹿だった。
愚かだった。
傲慢だった。
今なら分かります。
そんなものどうでもいい。
夫と子供が無事ならそれでいい。
「そう」
声がしました。
「それで良いのですよ」
「……?」
「自分が幸せになるためではなく、誰かの幸せを願う」
優しい女性の声。
「まあ」
少し呆れたようにも聞こえました。
「今回はご主人とお子さんですから、ずいぶん身内ですけど」
「……」
「でも」
声の主は笑いました。
「昔のあなたよりは、ずっとマシになりましたね」
「……誰?」
「ようやく」
その人は言いました。
「一つ目の試験は、合格です」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私はゆっくりと目を開けました。
そこに一人の女性がいました。
聖女の服。
絶世の美女。
長い髪。
微笑む顔。
どこかで見たことがあります。
「……え?」
私は瞬きをしました。
「大聖女様?」
「はい」
「……」
おかしい。
私は教会にいたころ。
この方を何度も見ました。
ですがその後、大聖女様は旅へ出られたと聞いています。
あれから何十年?
なのに。
まったく歳を取っていません。
むしろどう見ても十六、七歳。
……。
美魔女?
いえ美魔女で済ませてよいのでしょうか、これ。
「大聖女様……?」
「はい?」
「お若いですね」
「ありがとうございます」
「そういう意味ではなく」
「あら」
大聖女様は笑いました。
私はそこで我に返りました。
「夫は!?」
「大丈夫ですよ」
「子供は!!?」
「大丈夫です」
「本当に!?」
「ええ」
大聖女様は当たり前のように言いました。
「治しておきました」
「……」
「それと」
「はい?」
「町へ入った魔物も、外にいた魔物も全部討伐しておきました」
「……」
「ですから」
大聖女様は微笑みました。
「安心して、もう少し寝ていなさい」
「……」
情報が多すぎます。
「え」
「はい?」
「全部?」
「全部です」
「魔物も?」
「はい」
「大聖女様お一人で?」
「そうですよ」
……。
私はもう一度気を失いました。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次に目を覚ましたとき。
隣には夫と子供がいました。
二人とも生きている。
夫は包帯こそしていましたが笑っていました。
「おはよう」
「……」
「おい?」
私は夫へ抱きつきました。
「わっ!」
そのまま泣きました。
子供も抱きしめました。
生きてる。
本当にそれだけで良かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
あとから聞いた話では大聖女様は本当に町の周辺にいた魔物をすべて倒したそうです。
「いや」
夫が言いました。
「俺も同僚から聞いたんだけど」
「うん」
「一瞬だったらしいぞ」
「何が?」
「戦い」
「……」
「大聖女様が剣を抜いたと思ったら、魔物が何匹も倒れて」
「……」
「そのあと魔法も使って」
「……」
「気づいたら全部終わってたって」
「……」
夫が不思議そうな顔をしました。
「聖女って、そんなに強いものなのか?」
「……」
私は少し考えました。
「たぶん」
「うん」
「違うと思う」
「だよな」
私もあんな聖女は、大聖女様以外知りません。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
数日後。
大聖女様が私のところへ来ました。
「体調はどうです?」
「もう大丈夫です」
「そう」
私は頭を下げました。
「あの」
「はい?」
「私のこと」
「はい」
「覚えていてくださったんですね」
大聖女様はきょとんとしました。
そしてすぐに笑いました。
「当たり前でしょう?」
「……」
「あなたは、私の可愛い娘の一人なんですから」
「……」
とても良い言葉なのだと思います。
でも。
見た目十六、七歳の少女がいい歳をした私へ。
「可愛い娘」
と言っているのです。
違和感すごいですね。
「それと」
大聖女様が続けました。
「あなた、ずっと勘違いしていましたね」
「何をですか?」
「中級聖女になれなかった理由です」
私は胸が痛みました。
「……魔力が足りなかったからでは?」
「違います」
「え?」
「あなたは昔から、聖属性魔法の力だけなら十分でした」
「……」
「え?」
私は間の抜けた声を出しました。
「でも」
「はい」
「何度も試験に落ちて」
「そうですね」
「年下の子がどんどん中級になって」
「そうでしたね」
「私だけ」
「はい」
「二十五歳まで!」
「そうですねえ」
「じゃあ何だったんですか!?」
思わず大声を出してしまいました。
大聖女様は苦笑しました。
「あなた」
「はい」
「ずっと、自分のことばかり考えていましたから」
「……」
「聖女になれば王子様と結婚できる」
「……」
「お姉様を見返せる」
「……」
「皆から尊敬される」
「……」
「他国へ派遣されて活躍できる」
「……」
全部その通りでした。
「祈りの言葉も」
「……」
「一生懸命覚えましたね」
「はい」
「でも」
「……」
「なぜ覚えたのです?」
私は答えられませんでした。
中級聖女になるため。
大聖女様に褒められるため。
他の子に負けないため。
全部。
私のため。
「聖女は」
大聖女様は静かに言いました。
「祈りの言葉をたくさん覚えた者ではありません」
「……」
「強い魔力を持つ者でもありません」
「……」
「人を救う力を、その人のために使える者です」
私は俯きました。
「だから」
大聖女様が笑います。
「今回」
「……」
「ようやく一つ目をクリアしました」
「……一つ目?」
「はい」
嫌な予感。
「大聖女様?」
「何でしょう?」
「先ほど」
「はい」
「中級聖女になれるようなことを……」
「ああ」
大聖女様はにっこりしました。
「まだ仮合格です」
「仮!?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「では」
大聖女様が。
楽しそうに言います。
「あなたを中級聖女として認めましょう」
「……」
「そして」
「はい?」
「今からでも、聖女として他国へ派遣される資格がありますよ」
「……」
私は固まりました。
昔。
何年も。
何年も。
欲しかった言葉。
中級聖女。
他国への派遣。
聖女としての活躍。
王族と知り合うことだってあるかもしれない。
二十五歳のころの私なら泣いて喜んだでしょう。
「どうします?」
大聖女様が聞きました。
「行きたい国があれば、希望を聞きますよ」
私は少し考えました。
そして窓の外を見ました。
町。
治癒院。
そこで働く仲間。
兵士たち。
夫。
子供。
私の大切な人たち。
「昔の私なら」
「はい?」
「きっと、喜んで行ったと思います」
「……」
「立派な国へ派遣されて。聖女様と呼ばれて。もしかしたら王子様に見初められるかもって」
「そうですね」
「でも」
私は笑いました。
「もう、いいんです」
「なぜ?」
「ここに」
私は夫と子供を見ました。
「私が助けたい人たちがいますから」
大聖女様は何も言いませんでした。
ただ、しばらく私を見ていました。
そしてにっこり笑います。
「はい」
「……?」
「今ので、本当に合格です」
「……」
「え?」
「おめでとうございます。中級聖女です」
「えええええ!?」
私は思わず叫びました。
「じゃ、じゃあ、さっきの仮合格って!」
「仮です」
「なんで!?」
「だって」
大聖女様は悪びれもせず言いました。
「あなた、昔から肩書に弱かったでしょう?」
「……」
「中級聖女になれたと聞いた途端、『では王都へ!』『王子様のいる国へ!』なんて言い出したら、まだ駄目ですもの」
「……」
「でも」
大聖女様は笑います。
「ちゃんと、自分でここを選びましたね」
「……」
「今度こそ」
「……」
「本当に、よく出来ました」
私はしばらく何も言えませんでした。
そして一言。
「二十年以上かかったんですけど」
「長かったですねえ」
「知ってたんですよね!?」
「もちろん」
「教えてくださいよ!!」
「自分で気づかなければ意味がありません」
ひどい。
大聖女様。
思っていたよりひどい人です。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
大聖女様はその日のうちにまた旅へ出ることになりました。
「大聖女様」
「何です?」
最後に私はどうしても気になっていたことを聞きました。
「おいくつなんですか?」
「……」
「私が子供のころから、まったく変わってませんよね?」
「女性に年齢を聞くものではありませんよ」
「いや、そういう問題ではない気がします!」
大聖女様は答えてくれませんでした。
ただ笑って手を振って去っていきました。
夫が隣で首をかしげています。
「あの人、本当に何者なんだ?」
「大聖女様よ」
「いや、それは聞いた」
「……」
私は遠ざかっていく背中を見ました。
「私も、それ以上は知らないわ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
その後私はこの町で治癒士を続けています。
中級聖女になったからといって急に暮らしが変わったわけではありません。
朝起きて夫と子供に朝食を作って治癒院へ行って怪我をした人を治療する。
ときどき少し強い聖属性魔法も使うようになりました。
「あれ?」
「どうした?」
「昔より、ずっと上手く使える気がする」
「中級聖女になったからじゃないか?」
「そんな急に?」
よく分かりません。
でも一つだけ分かったことがあります。
私はずっと聖女になれば幸せになれると思っていました。
違いました。
幸せになったから。
ようやく聖女になれたのです。
王子様も。
お城も。
豪華な暮らしもありません。
でも私には守りたい人がいて帰る場所があります。
それで十分です。
そして今日も私は目の前の患者へ手をかざします。
「大丈夫ですよ。すぐ治しますからね」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
本作に登場した、なぜか何十年経っても姿の変わらない大聖女。
「この人、もしかして……」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
彼女については、シリーズ本編第2作、第4作でも描かれております。本作単体でも問題なくお読みいただけますが、興味を持っていただけましたら、ぜひそちらもご覧ください。
また、本作における聖女は「魔力が強いから聖女になる」という設定ではありません。
初級聖女から中級聖女へと認められることで、聖処女神エリューシオンとのつながりがより強くなり、それまで以上に強い聖属性魔法を扱えるようになります。
そのため、本作の主人公も中級聖女となったあと、以前より聖属性魔法を使いやすくなっています。




