第9話 玉ねぎダンジョン
玉ねぎがどうやって増えるか、ご存知だろうか。
玉ねぎも花が咲いて種ができるので、その種をまいて増やすのだ。食べるために収穫するのは1年目で、種ができるのは2年目である。収穫せずに2年目に突入すると花が咲いて種ができる。
まさにそれが、目の前で起きている。
「ウバジャアアアア!」
奇声を上げながら、玉ねぎの魔物が種を発射してきた。
種は発射された直後に育ち、飛来する間に「種」から「玉ねぎ」になった。
「ふんがっ!」
エルフの神官が、メイスで玉ねぎを打ち返した。
ピッチャーライナーだ。
相変わらずコントロールが正確である。
バフを盛り盛りにしないと実行できないところが残念だが。
「おお……!? なんか殻を破った感覚が……!」
玉ねぎを倒して、レベルアップしたらしい。
一方、もう1体の玉ねぎの魔物は、根っこで器用に地団駄を踏んでいた。
「ウバッ! ウババッ! シャアアアアアッ!」
なんか猛抗議しているっぽい雰囲気があるが、何を言っているのか分からない。
直後、玉ねぎの花が爆発した。
玉ねぎの花を見たことがあるだろうか? 茎がひとつ伸びて、タンポポの綿帽子みたいに小さな花の塊が咲く。100輪ほどの花でできた塊だ。アジサイみたいなものである。
そして1輪の花からは、3粒ほどの種ができる。つまり全部で数百粒。それが一斉に発射されたのだ。散弾銃というより破片手榴弾である。
「アクアシェル」
すかさず水の壁で魔物を囲んで、即座に封殺。
水の壁にめり込んだ種が、たちまち育って玉ねぎになった。
「ゲヒヒヒヒ……! 玉ねぎ大量ゲットだ」
「どっちが悪役なのか分かんない顔ね……」
「ほっとけ。
そんな事よりも、だ」
玉ねぎの魔物はさっさと切り刻んで倒し、ボウルとフライパンと包丁、および各種調味料を取り出した。
まずは塩ダレを作る。
酒3、鶏がらスープ2、ごま油3、おろしにんにく1の割合で用意する。 長ネギをみじん切りにして混ぜ合わせたら、塩ダレの完成だ。
そしたら本調理だ。
フライパンにサラダ油を入れ、粗びき塩胡椒で下味した豚こま切れ肉を炒める。
豚肉の色が変わったら細切りにした玉ねぎを入れ、さらに炒める。
玉ねぎがしんなりしたら、塩ダレを混ぜ合わせる。
味が馴染んだら、水と片栗粉を溶いてまわしかけ、とろみをつける。
ごはんに乗せて、塩豚丼の完成だ。
「うん。いい味だ。
ほら、君も食べるかね?」
「も、貰うわ……いい匂い……うまッ……あんた料理なんて出来たのね」
「所詮は科学だよ。化学反応は加熱によるもののみ。ほかは混合するだけの単純な足し算だ」
「そういうとこだってば。
全世界の料理人に喧嘩売っていくスタイル、どうにかしなさいよ。ほんとに」
「でも美味いだろう?」
「ぐぬぬ……!
じ、実力があっても礼儀のない奴に客は寄り付かないわ」
「いや、別に料理人を目指しているわけじゃないんだがね」
「ああ言えばこう言う……! 本当にあんたって奴は……」
「料理もひとつの道だ。極めようとすれば大変な道のりだし、そこに挑戦する人たちに対するリスペクトはあるとも。
だが、一道に達すれば万に通じるという言葉もある通り、ある分野でまともな実力をつけた人は、他の分野にもそれを応用できる。
この料理も、そういう『副産物』に過ぎないという事が言いたいわけだよ」
「……なんとなく分かってきたわ。
あんたは相対評価じゃなくて絶対評価なのね」
「その通りだ。
他と比較したり、自分を卑下したり……そういう事はしない主義なんだ。今までやってきた事がすべて。積み重ねた努力の上に『今の自分』がある。
積み重ねてきた量が多いか少ないか、積み重ねるのが早いか遅いか……そんな事は重要ではないのだよ。大事なことは、積み重ねた『中身』だ。何十年も続けている人が、今日から始めたばかりの人が気付いたことに学ぶ、なんて事だってあるのだからね」
「いいこと言ってる風だけど……そこで『卑下』って言っちゃうのがねぇ……。
リスペクトはあるって言うのなら、そこは『謙遜』と言いなさいよ。
そして謙遜は、しなさいな。言葉を飾るだけの事なんだから。ただの演技よ? 仮面を被るだけの事じゃないの。それで敵が減るんだから、費用対効果は高いと思わない?」
「……なるほど。そういう考え方もあるか」
「納得してなさそう……」
「いやいや、納得したとも。
取り入れるかどうかは別だがね」
「それは『納得した』とは言わないんじゃないの?」
「合理的だからそうする……人間はそれだけで生きていけるものではないのだよ。
つい食べ過ぎる。つい見栄を張る。つい怠ける。
人間の本質は『快感』と『不快感』だけの単純な本能だよ」
「はァ……あんたに常識を教えるのは骨が折れるわね」
やれやれと言わんばかりに首を振られた。
解せぬ。




