第7話 豚ダンジョン
「あ」
「おや?」
鳥ダンジョンを3周して、次は豚ダンジョンへ……というわけで、到着した第1階層。
俺は思わぬ相手に出会った。
「鳥ダンジョンの性悪男!」
「エルフの神官じゃないかね。こんな所でまた会うとは」
「今からここに挑戦? また周りに迷惑かけないでよね?
ああそうだ。あんた暇なら付き合いなさいよ」
エルフの神官は、返事も待たずに俺の手を引いていった。
向かった先は第2階層だ。
「へへへ……あの時みたいにバフちょうだいよ。
稼ぎが増えて助かっちゃうからさぁ」
「バフ乞食か……品性は売らないんじゃなかったのかね?」
「何言ってんの。知らない仲じゃあるまいに。
これは助け合いっていうのよ。貰ってさよなら、二度と会わないってんじゃないんだから、ケチケチしないの」
「ふむ……では、そちらからは何をくれるのかね?」
「あんたは魔術師でしょ? 防御系や回復系の魔法ならアタシのほうが得意よ。
加えて前衛もできるアタシは、居たほうがいいでしょ?」
「必要ないね。
防御や回復のバフが役立つほどの強敵がいたら、君程度の実力では足手まといにしかならん。同じ理由で前衛も……まあ、君が鍛えてほしいというのなら、報酬次第では手伝ってやらんこともないがね」
「相変わらず失礼な奴ね……! あんたには戦闘支援よりも生活支援のほうが必要そうだわ。この際アタシがみっちり常識を教えてあげるわよ」
「常識か……最も疑うべきくだらない枠組みだな」
「……あんたさ『型破り』って言葉の意味、ちゃんと知ってる?」
「どういう意味かね? いや、言葉の意味じゃなく、その質問の意味だが」
「型を破るには型を知らなくてはいけないの。
どうせ破るから知らなくていいや、なんて考えるのは『型破り』じゃなくて『形無し』っていうのよ。
技術ってのは、見様見真似で『形』だけなぞる段階から始まって、その形がどうしてそういう形なのかを理解する『型』の段階に進むわ。そして術理をきちんと身につけた先に、ちゃんと自分のものにする『技』の段階に入り、やがて『型』から外れても『技』を失わない『術』の段階に入る。
本当の『型破り』ってのは、こういうものよ。あんたはまず常識を覚えなさい。さもないと『形』の段階にすら入ってないわ」
「ああ、なるほど……どこかで聞いたことのある話だな。
たしかに研究とは一種の求道……どこまで行っても未熟者を卒業できる時など来ないものだ」
技術は無限に進歩し、その深淵は果てしない。
カルダシェフ・スケールという「文明の発展度合い」を表す基準がある。技術的にどこまで実現可能なのかという話を脇に置けば、その最高峰は「時空を操り新しい宇宙を作り出して個人で所有する」などという神のような振る舞いが可能となる状態らしい。
俺や椿がダンジョンひとつ破壊できずに居るのなんて、足元にも及ばない過ぎてミジンコ以下のハナクソだ。未熟者にも程がある。
「ふむ……いいだろう。君の下に草鞋を脱ごうじゃないか。
しばらく世話になるよ」
◇
ちゅどーん!
炸裂した魔法が空気を震わせる。
この豚ダンジョンは、地下室タイプのダンジョンである。逃げ場のない轟音と爆風が、通路に押し出されて俺たちの体を弾丸のように押し出そうとする。
もちろん耐えるが。自分の魔法で吹き飛ぶなどという間抜けなことはしないのだ。
「ゲヒヒヒヒ! 大成功だ。この改造も効果的だな」
すぱこーん!
「痛い! なぜ殴ったのかね?」
「そういうとこ! そういうとこだから!
閉鎖空間で爆発魔法とか、アホなの!? 周りの迷惑を考えろって言ったばっかりじゃないの!」
「迷……惑……?」
「概念すら無い!?」
「いやいや……そうではないが、今のどこが迷惑なのかね? 周りに冒険者は居ないし、他人の獲物を横取りしたわけでもないだろう?」
「……まったく……そういうとこよ。本当に。
まずうるさい。音で探知する人達に迷惑だから、なるべく静かに倒すこと。
他の魔物が驚いて集まったり逃げ出したりすると、他の冒険者の迷惑になるし。
冒険者も突然の大きな音に驚いて、狙いを外したり硬直したり……状況によっては致命的になるわ。
それに閉鎖空間で火炎系の行動は、空気を汚染するから基本的にダメ。自滅するだけなら自業自得だけど、あとから来る冒険者に、見えないトラップ撒き散らすことになるから迷惑よ」
「おお……理路整然としている。実に分かりやすいね」
「分かったら反省!」
「はい、すみませんでした」
こればかりは頭を下げるしかないね。
ゲームと違って色々と考えなくてはいけないようだ。この人の下へ草鞋を脱いだのは、正解だった。




