第6話 鳥ダンジョン
鳥ダンジョンにやってきた。
地下洞窟に入ったはずなのに、空が広がり太陽まである謎空間だ。
飛行する魔物への対処法を備えている冒険者は少ないとのことで、このダンジョンには人がほとんど居ない。
大変結構だ。邪魔が入らないということは実験が進む。
「アギャア!」
さっそく来たね。
なんという魔物か知らないが、実験体1号だ。
「「アギャア!」」
……いや、群で来た。もはや「1号」とは言えないな。
では拡散系の改造を試してみよう。
「サンダーフレア」
シナプスのように、放射状に広がった電撃。
その広がった枝の1つ1つが、その先端からまた放射状に広がっていく。
「ゲヒヒヒヒ……! 障害物がないから効果抜群だ」
「あーっ!? アタシの獲物がぁぁぁ!」
おや?
「ちょっとあんた! 何してくれてんのよ! 人の獲物を横取りするとか、いい度胸してんじゃないの!」
エルフだ。
装備から見て神官か。
それにしても……これはどっちだ? 男か、女か……エルフはみんな美形でペタンヌでヒゲも生えないから、男女の区別がつきにくい。声が低い男ってのもエルフにはほとんど居ないし、この人も例に漏れない。
口調は女性的だが、それが逆に怪しい。文字に起こしてみると男女でほとんど違わないのが現実。分かりやすく「の」や「わ」を語尾にしている女性なんて、現実には居ないも同然だ。
しかし、ひとつの可能性として……オネエなら、過剰に女性的に振る舞おうとして、そういう口調になりやすい傾向がある。
うーむ……。
「獲物の横取りなどするつもりはないとも。
狩猟が目的なら、その獲物は持って行くといい。
俺の目的は、魔法の実験だ。獲物はどうでもいいんだよ」
「むう……それなら、まあ……。
けど、実験が目的なら、こんな浅い階層でやるんじゃないよ。人が来ないところでやりなさいな」
「何を言っているんだ? 思ったより効果が弱かった場合は、諦めて死ねと?
君にとっては労せず獲物を獲得できたというのに、単に『自分の攻撃で仕留めたかった』という君の個人的な欲望のために、他人に危険を押し付けようというのか?」
「獲物の横取りをしない程度の配慮もできない奴が、他人がいる場所で実験なんかしたら、次はこっちに攻撃が飛んでくるかもしれないじゃあないか! 危ないからよそでやれって言ってんのよ! 他人に危険を押し付けてるのはどっちだい!?」
「おお、素晴らしい。理論的な反応だ。
しかし、その理屈には1つ欠けているものがある。
俺が魔法を準備してから放つまで0.1秒。効果は上空100mに広がるよう調整済みだった。君は0.1秒で上空100mまで移動する手段を持っているのかね? 見た所、その魔力量と装備では、空を飛ぶことさえ出来ないようだが」
「ああ言えばこう言う……!」
「上空への移動手段がないなら、君の反論は的外れだ。君の言う通り、俺は『人が来ない場所』で実験していたわけだからね。
それでも文句があるというのなら、君の狩り方を見せてくれないか? 今後の参考にさせてもらうよ。メイスで殴打しかできないはずの神官が、いったいどんな方法で上空の敵を狩るのかも、単純に興味があるしね」
「おい、あんた。獲物は本当に要らないのか?」
モブ冒険者が話しかけてきた。
「ああ、もちろんだ」
「へへへ……悪いな」
モブ冒険者は嬉しそうに魔物の死体を運んでいった。
俺はエルフを見た。
「見習いたまえ」
「喧嘩なら買うよ?
アタシは品性まで売った覚えはないんだからね」
「なんかうまいこと言ったような雰囲気出したが、買うのか売るのか、はっきりしたらどうかね?」
「ぐぬぬ……!」
「まあいい。そんな事より、さっさと君の戦法を披露したまえ。
神官がどうやって対空攻撃をおこなうか……俺はそこから新しいインスピレーションを受けたいだけだ」
「このあたりの魔物は、あんたが全部倒しちゃったじゃないのさ!」
「そんな事は分かっている。さっさと次の階層へ行けばいいだけじゃないかね」
「次の階層はアタシには危ないのよ!」
「向上心こそ人類最大の武器。敗北者の戯言などに興味はないね。さあ行くぞ。無理やりにでも実験に付き合ってもらう」
「いやああああ!」
やかましく騒ぐエルフに辟易しながら、俺は彼女(?)を次の階層へ引きずっていった。
◇
カキーン!
快音を響かせて、エルフの神官がメイスを振り抜く。
飛んでいった石が、空飛ぶ魔物に命中し、翼を穿つ。
すると飛行能力を失って、魔物が落ちてくる。
あとは地上戦だ。ボコスカ殴って倒すだけ。
シンプルに加速や追加ダメージのバフを与えてやれば、怖がっていた階層でも問題なく戦えている。
「なるほどねぇ……確かに『メイスで殴打するだけ』の神官らしい戦い方だ」
彼女(?)は確かにメイスで殴っただけだ。
最初は石を。
野球やソフトボールのノックみたいに。
ゴルフボールを2発連続で打って、空中で衝突させるという挑戦をした人たちがいる。何百回、何千回と挑戦して、成功までに数カ月かかる難行だ。もちろん再現性はない。偶然の成功だ。
カキーン! ゴスッ! ぼとっ。
難易度は似たようなものだろう。
だが、彼女(?)は連続で成功してみせた。命中精度が極めて高い。電子制御されたFCS搭載の高射砲でさえ裸足で逃げ出す凄まじい命中精度だ。
「弓矢が得意なエルフの種族特性による補正もあるだろうが……それにしても凄まじい技量だな。どれだけ練習すればこれほどの腕前になるのか……まったくその努力と根性には頭が下がるね」
「ふふん……! もっと褒めなさい! アタシが喜ぶわ」
「自分に素直なところも魅力だね。少し幼稚な印象も与えるけれど」
「あんたって奴は……すぐ余計なこと言う!」
「物事は多角的に見なくてはいけない。メリットだけの話なんて信用できないよ」
「褒める時は褒めるだけでいいのよ! あんたモテないんじゃないの!?」
ぐさっ!




