第5話 そして……
数年後。
椿と楸とマックスとサニーとルナによる、ダンジョンのクリア報酬をばら撒こう作戦は一段落した。主要な国々へのばら撒きを完了したのだ。
だが、それは「与えられなかった国々」に軍拡を促し、それを警戒した主要各国にも「実際に使える戦力」としての軍拡を促した。
冷戦時代をなぞるように広がる軍拡の波は、やがてキューバ危機をも再現した。
そして――
「上からの命令だ。起動しろ」
「しかし! そんな事をすれば人類は……!」
「うるさい! やれ! 貴様、命令に逆らうつもりか!」
この世界には、通信技術がなかった。遠方への連絡は、到着まで何ヶ月もかかる手紙による方法のみ。
ゆえにジョン・F・ケネディやニキータ・フルシチョフがもし居たとしても、ここでは核戦争回避の英雄たりえない。ラジオを使った緊急放送すら出来ないのだ。
そしてソ連潜水艦内での核魚雷発射を止めたヴァシーリー・アルヒーポフ中佐も、この世界には居なかった。
だが、それでもこの世界に「英雄」が居なかったわけではない。
「報復攻撃を起動せよ! ただし敵戦力との拮抗を保て!」
この「キューバ危機もどき」は、ある将校の英断により、彼我の勢力を正確に拮抗させ、膠着状態を作って「お互いに全滅する」という神業めいた指揮によって、世界大戦への拡大を回避した。
「よくやってくれた、ヒイラギ中佐。君は人類を守った。
国際安全保障理事会はこの危機的状況を生み出した原因が、クリア報酬をばら撒く5人組……正確には4人と1匹だが……に、あると判断し、彼らがこれ以上『ばら撒き』を繰り返すのを阻止せねばならないと決断した。
よってヒイラギ中佐に新たな任務を与える。件の5人組……以後『魔王軍』と仮称するが、その殲滅を命じる」
「はっ! 謹んで拝命いたします!」
かくて平和の使者を目指した5人は、人類共通の敵となり己が作り出した安保理に狙われることとなった。
オネエ神官と守銭奴竜人の物語は、終章「柊の物語」へと続く。
◇
と、その前にだ。
俺のダンジョン攻略日誌を少しばかり公開しよう。
ぶっちゃけ、これは俺の研究日誌だ。
石化を途中で止めるとか、回避バフを読心術デバフに変えるとか、魔法を罠に組み込むとか、色々とゲームでは出来なかった事ができるようになったからな。他にも何が出来るか、色々と試してみたいじゃあないか。
「とりあえず、こいつからだ。メテオ!」
牛ダンジョンの最下層。
ミノタウロス皇帝に向かってぶっ放したのは、上空から隕石が落ちてくる俺の主力スキルだ。魔術師を選んだプレイヤーは、だいたい最終的にこのスキルに集まる。物理に偏って杖で殴るなんていうプレイヤーもいたが、あんなのはネタキャラだな。
隕石は「上空から」落ちる……という制限があるから地下で使うとどうなるのかと思ったら、天井に現れた魔法陣から異空間への「穴」が開いて、そこから隕石が落ちてきた。
ゲームでは画面外にあった部分だ。地下でも使えるとかどうなってんだ、意味わかんねえ、とはメテオを覚えたばかりのプレイヤーたちが必ず口にする会話だ。こうなってたのか。道理でゲームでも地下で使えたわけだ。
「なるほど、面白いな。
あと2周したら豚ダンジョンに行ってみるか。
その前に、これを1点に集中させたり、クラスター爆弾みたいに分散させたらどうなるか……それと他の属性に変えたらどうなるか……あとは何ができるかな?」
ゲヒヒヒヒ……! まったく興味が尽きないね。素晴らしい世界だ。
他の4人? ああ、彼らとは別行動だ。
モテない男と未亡人と子供とペット。しかも昔からの付き合いで、種族も同じと来ている。300年もくっつかないまま過ごしているほうがおかしい。俺は完全におじゃま虫だよ。
「……ふむ……俺も人生のパートナーを探すか……それも悪くないね」
そしたら女性に実験を持ちかけるのは控えないとね。逃げられてしまうだろうから。
そうと決まれば、今のうちにドン引きされる実験はすべて済ませてしまおう。
攻撃的なものは最優先に、補助系はその次、回復系なら女性が一緒のときにやっても構うまい。まあ回復は苦手なんだがね……。
「そうだ! メテオの落下速度を速めてやったらどうなるんだ? 他の魔法との組み合わせか……! ゲヒヒヒヒ……! 選択肢が増えすぎて困るねぇ。実にやり甲斐がある」
まずはクリア報酬を1つゲットだ。
さて地上に戻らなくては。この移動は正直面倒だな。一気に地上までテレポートする魔法も開発したいところだ。これは利便性のために優先度を上げておこうか。




