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第4話 ラスボスが大物とは限らない

「いいいいいいやああああああああああ!?」


「行け行け! 飛ばせぇ!」


 悲鳴を上げるルナ。

 歓声を上げる楸。

 一行は、空を飛んでいた。


「あの……その……! なんですか、これ!? 速すぎませんか!?」


「ゲヒヒヒヒ! 加速魔法の改変だ! ここに属性変更を加えてレールガンの原理を組み込めば……!」


「いやああああああああ! やめてええええええ! 速すぎて怖いいいいいいい!」


 涙目のルナ。

 一行がアイテムを奪っていったオネエなアウトサイダーの拠点へ強襲をかけるのは、目標地点をうっかり通り過ぎて世界を1周して戻ってきてからだった。



 ◇



「ゲヒヒヒヒ……! じゃあ作戦通りに!」


「よっしゃ! 任せろ!」


 ちゅどーん!


「んぎゃあああああ!? ただのファイヤーボールが、このアタシに効くわけが……! どうなってるの!? 冗談じゃないわよォーう!」


「デクライン! ゲヒヒヒヒ……! 魔法抵抗低下のデバフだ。椿のスキルで罠化して10個重ねて設置した」


「踏んだテメエの魔法抵抗は、およそ0.00097倍! 1000分の1以下だぜ!」


「うッそでしょォォォ!? 何よソレ!? そんなのアリなわけェ? 冗談じゃないわよォーう! アタシは魔王になるのよ……! 世界を掌握する夢が……!」


「諦めるんだな! お前はそんな器じゃない! しょせんコソ泥……旦那の形見を盗んだ罪と、娘を泣かせた罪! 今ここで償うがいい!」


 ドゴォン!


「あぎゃああああ!? ぶ、物理攻撃がどうしてアタシに効くのォ!?」


「ゲヒヒヒヒ……! そういうデバフだ!」


「10個重ねたからな!」


「卑怯! 卑怯よォォォーう! アタシの戦略的優位性タクティカルアドバンテージが! 冗談じゃないわよォーう!」


「オネエちゃん、人の物取るのは卑怯なんだよ? ちゃんと言葉の意味わかってるの? パパのアイテム返してよねっ!」


 ズバァン!


「あひいいいいっ!? 逝っちゃう! 逝っちゃうぅぅぅ!」


「や、やめろ……そのセリフは普通にキモい……」


「ゲヒヒヒヒ……! 椿お前、彼女ほしい過ぎるんじゃないかね。オネエの喘ぎ声で欲情するとか、だいぶヤバイぞ」


「してねーよ!?」


「「うわー……男ってサイテー……」」


「声を揃えて言うな! マックスもサニーも! おまけにルナまで!」


「ゲヒヒヒヒ……! さあトドメだ。全力で行くぞ。

 るあああーっ!」


 楸が魔力を解放した。

 その圧倒的な魔力は、アウトサイダーが砂粒のように感じられる。

 そんなバカな――アウトサイダーは問いたい。問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。理の外側にいるのは、どっちなのか。


「使えルナ! 行け! メンズビームだ!」


「メンズビームは勘弁してください。

 あの……その……ギャオオオーン!」


 楸の魔力を受け取ったルナが、口に魔力をためていく。

 そして放つ白濁一閃。

 溜めに溜め抜いて「どぴゅ」っとぶっ放す高出力ビーム。

 漢の最終兵器。


「ギエエエエ……!」


 つまらないコソ泥を働く、程度の低い敵など、(閃光で)白く染まって(スプラッター的に)ドロドロになるのは当然の末路だった。



 ◇



「というわけで、対策を考えようと思うんだが」


 楸の言葉に、一同は深く頷いた。


「「異議なし」」


「問題はその具体的な方法だな。

 何か提案がある人は?」


「「…………」」


 盗まれないように、奪われないように、手を尽くし、目を光らせ、それでもダメだった椿とマックスには、もはや思いつく対策などあろうはずもなく。


「皆朱の槍って知ってるかね?」


 楸は静かに語りだした。


「戦国武将・前田慶次の逸話だよ。朱槍を誰が持つかで争い始めた連中に、前田慶次は『全員に与える』と決めた。朱槍は特別な人物が持つ特別な武器。持っているだけで名誉だが、逆にそれゆえ狙われやすい。あっさり与えられた連中は、己の命が危険になったことを悟って戦慄したという話だ。史実かどうか知らんがね。それを、真似してみようじゃないか」


「……つまり?」


「俺達でダンジョンをクリアしまくり、クリア報酬を世界中にばら撒く。

 全員が核兵器を持てば、怖くて誰も使えなくなる。相互確証破壊だよ。

 我々は、その脅威をもって各国に、国連安保理のような国際的な安全保障に取り組む超国家的な組織を作ることを強要する」


 ゴクリ……。

 椿は、つばを飲み込んだ。

 核兵器だの相互確証破壊だのは分からないまま、マックスとルナもつばを飲んだ。

 その発想が、その施策が、どれほどヤバイものかは理解できたのだ。


「……なんて事を考えやがる……」


「……でも……」


「効果的……とは思えますね」


 ぐうの音も出ないとはこの事だ。

 核拡散に匹敵する危機的状況。決して招くべきではないと頭では分かっていても、それより効果的な安全保障策を提案できない。

 存在しなければ良いのだ。

 しかしソレを生み出すダンジョンは、椿の最大火力「核撃の第七罠」による破壊からでさえ、たった1日で完全復活を遂げた金剛不壊の構造物。

 仮にダンジョンを復活できないように破壊できたとしても、世界中に全部でいくつあるのか分からない。しかも地域の産業と深く紐づいており、完全破壊には強い抵抗があるだろう事は確実だ。万一実行可能だとしても、世界を敵に回して己が大魔王になる覚悟が必要。

 そんな難行を、誰ができるというのだろう。


「仕方ない……か」


「それしか無いなら……ええ」


「ばら撒くんですね……戦争の種を」


「なぁにー? サニー難しいこと分かんないー」


「冒険しましょう、サニー。

 世界中のダンジョンをクリアして回るの」


「やったー! ママと冒険! 楽しみー!」


 暴力の荒野に、無邪気が虚しく響き渡る。

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