第3話 協力要請
「おほほほ! これよ、これ! このアイテムよぉ! これがアタシを魔王に導いてくれるわ! おほほほほ!」
「うわーん! サニーの返してよぉー!
おじちゃーん! ツバキのおじちゃーん! サニーの取られたぁ!」
◇
「おま……ッ!? 昨日の今日で!? アホか! アホなのか! いっぺん死ね!」
マックスは荒れていた。
昨日は300年守った末に初めて盗まれたので平手打ちで許してやったが、今度はダメだ。拳で行く。
椿のところへ遊びに行ったサニーが、まさかの事態になって帰ってきた。到底許せる事ではない。
「ちょ……! やめ……! ぐはっ……!?」
連打というのはスピード重視でデタラメに殴ればいいというものではない。
1発1発ちゃんと殺意を込めて、しっかり急所を狙って打つものだ。
「うえーん! ママごめんなさーい!」
「大丈夫だ、サニー。ママも注意が足りなかった。ごめんね」
「そ、その通りだよ……畜生め……俺ばっか殴りやがって……」
「あァん!?」
ゴスゴスゴスゴスゴスッ!
「ズビバゼンデジダ」
「そのクソ野郎! 旦那とキャラ被りで悪役とか、ただではおかん!
ほら、ツバキ! さっさと立て! ルナのとこ行くぞ!
サニーも準備してきなさい。ドラゴンのお姉ちゃんに会いに行くからね」
◇
宿屋。
「――てことなんだ! 楸さん! 手伝ってくれ! 例のアイテムが盗まれた!」
「……お前まさか頭にスライムでも詰まってるんじゃないかね?」
楸は呆れて、言葉を絞り出すのに苦労するのだった。
楸は今日、冒険者ギルドに登録して、ダンジョンに挑み、そこそこの成果をあげて帰ってきた。ダンジョンをクリアするのは簡単そうだったが、例のアイテムを手に入れたくないがために、あえて途中で帰ってきたのだ。
椿が偽名を使ってギルドからの要請を避けていたという話も聞いたので、深いところまで行かずに中層まででやめておいた。このクレバーな立ち回りは、椿や榎のことがなければ、楸も「やってみたら出来た」とクリアしてしまっただろう。先達はあらまほしき事なり。徒然草第52段だ。
「それで? ルナの感知能力があれば、その奪っていった奴の場所は分かるだろうに、どうして俺に手伝えと?」
「そ、それは……」
「ううっ……くそっ! あいつめ……!」
「えうー……! パパのアイテム取り返せなかった……」
「……すでに挑んできたのかね。
それで、どうなったんだ?」
「負けたよ。手も足も出ねェとは、この事だ」
「こっちの攻撃がひとつも通じない! あんなのズルだ!」
「あのね、幽霊のおじ……オネエちゃんだったの。あうとさいだー? とか言ってたよ。ツバキのおじちゃんの罠も、ママのパンチも、幽霊のオネエちゃんは全部すり抜けちゃうの」
「『理の外側に居る者』か……!
なるほど。そいつは厄介だったな」
それはアンデッドの最上位。
ゲーム時代にもレイドボスとしてのみ登場した強敵だ。
ほとんどの攻撃が無効化され、HPが異常に多い。しかも攻撃の1発1発がプレイヤーのHPを半分以上削っていく猛威だ。レベルをカンストまで鍛えたプレイヤーたちが死力を尽くしてなお、力及ばず沈んでいく事は珍しくなかった。
「デバフで抵抗を下げない限り、あいつには上位の魔法スキルしか効かねェ。
俺達の攻撃は、せいぜい嫌がらせや目眩ましぐらいにしか……くそっ! なんて相性の悪い奴に……面倒な!」
「盗まれた理由も、それで分かった。
いくら罠を張り巡らせても、それが全部無効化されるんじゃあ意味がない。
面倒なことに、あいつはその耐性の高さを手下にも付与できるようだった」
「サニーたち、大勢にわーってやられて逃げてきたんだよ」
「大変だったな。
それじゃあ、後は任せてくれ」
楸は何でも無いことのように請け負った。
ニヤリ、とその顔が歪む。
「全サーバーで唯一、レイドボスの単独撃破に成功したのが俺だと知っての依頼だろう? 腕が鳴るねェ……!」
自由度が高いゲームでは、しばしばプレイヤーの独創性が開発陣の想定を上回る。
橋を作るゲームでジャンプ台を作ったり、農業ゲームで戦闘ロボットを作ったり、エロゲーのはずが建築ゲーにされたり。
そこまで「別ゲー」にできない制約の中でも、楸は「そっち側」だった。
それが今、無限の自由度を解放された世界に降り立っている。
「あんたら、手伝いなよ。
そしたら『オネエ神官』の第3作は、たった4話で完結だ」
マッドサイエンティストならぬマッドプレイヤー。
楸は嗤う。
少年誌に載せてはいけないような真っ黒い笑顔で。
「ゲヒヒヒヒ……! 大量の経験値だ! レベルキャップはこの世界でも有効なのか、いい検証になるねェ……!」
哀れ窃盗事件の黒幕は。
こうしてマッドな研究者の目にとまり――
――実験台として散る運命が確定したのだった。




