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第19話 複製体の暗躍

この物語はここで完結です。

呼んでくださった方、ありがとうございました。

楽しんでいただければ幸いです。

4月1日から続編を投降します。

 やれやれ……本体の連れは乱暴でいかんね。

 しかも理論を感情で否定してくるとか、あれはどこの悪質クレーマーなのかね?

 ともかく、本体とは別行動を始めたのだから、複製体として役割を果たさなくては。

 事象の改変。その技術を我が物とするために。


「何はともあれ、レベルを上げない事には、いかんともし難いね」


 研究するために何度も魔法を使わねばならない。そのためには大量の魔力が必要だ。

 研究するために高度に魔法を制御しなければならない。そのためには高いステータスが必要だ。

 つまり、レベルを上げなくてはならない。


「ダンジョンがある世界でよかったと言うべきかね? それともゲーム時代のシステムが生きていて良かったと言うべきか? いずれにせよ、最初にやることはシンプルだ」


 とにかくダンジョンアタックを繰り返すだけだ。

 キメラダンジョンは第1階層でも敵の能力が複合的で危険だから、動きの遅い植物系のダンジョンへ行くとしよう。

 しかしベジタブルヘルズは遠いから、ザ・ガーデンに行こう。本体が調べたところによると、ザ・ガーデン公爵領には果樹ダンジョンがたくさんあるそうだ。樹木系の魔物は移動能力を持たないから、相手の射程外から一方的に攻撃できる。


「……そこへ行くために、まずは歩く練習からだね」


 小脳の学習内容はコピーされなかった。

 歩く、自転車に乗る、といったバランス感覚は、小脳の学習が完了することで「できる」ようになる。

 その学習が、この体はまだ「これから」の状態だ。

 まったく……この歳になって歩く練習とはね……。

 いや、この体はまだ生後1時間もたっていないのだから、むしろ圧倒的に早いと考えるべきかもしれないがね。

 いずれにせよ、次の複製体を作るときまでには、小脳の学習内容までコピーできるように、魔法を調整しておかなくては。

 やることが山積みだよ、まったく。



 ◇



 1年後。

 ザ・ガーデン公爵領。


「核熱の極撃」


 弾性球形封印結界が、一瞬ぷくりと膨らんで、すぐにしぼんだ。

 この封印結界は、ゴム風船のように伸び縮みする性質を備え、その弾力性によって衝撃に耐える構造だ。

 しかし単独で核熱の極撃を防ごうとすると、膨らんだときに地球みたいな巨大サイズになってしまうので、小型のブラックホールと併用して、膨らむのを抑えた。


「よし、成功だ」


 今回の実験は、核熱の極撃を再現することではなく、小型のブラックホールを実現することだ。

 これに成功したということは、ほとんどあらゆる攻撃を「吸い込んで」完封できるということ。

 しかも周囲への無差別な影響を防ぐため、封印結界には重力遮断の効果を持たせてある。これの成功にも大きな意味がある。

 ブラックホールと重力遮断を両方できる事によって、安全に「狙った方向へ落ちる」という形での飛行能力を獲得できた。ブラックホールだけでも実行可能だが、加減を間違えると自分自身を「吸い込んで」しまうからね。危険だ。

 そしてブラックホールを実現できたということは――


「テレポート」


 重力とは、空間の歪みである。

 そしてブラックホールの中心には、重力が無限大になる特異点が存在する。

 空間の歪みが無限大になるということは、空間が破れて「穴が開く」ということだ。

 その穴を、目的地へと「つなげて」やれば、ワームホール型のテレポートが実現できる。

 いよいよジョン・D・バロウの尺度――いかに小さいものを扱えるかで文明水準を測る――における最高峰、すなわち「空間の基本構造そのものを操作する」段階へ、片足を突っ込んだ。

 因果律を無視して事象を改変する段階まで、あと1歩……いや、あと1歩半といったところか。


「ひとまず成功……そして、これも重力遮断が必須か。無限大の重力の中を通過するのだから当然だね。

 さて……しかし、ここからどうしたものかね?」


 ここまでは因果律の中での操作だ。

 あくまでも「原因」を用意することで、狙った「結果」を起こしている。

 この先の、事象の改変へ進むには、因果律の外へ飛び出さなくてはならない。

 そもそも「原因」なしに「結果」だけを発生させる段階だからね。

 まだまだ先は長い。現在地はおそらく、因果律の改変を実現するための基礎研究をおこなうための必要な知識を学ぶために文字の読み書きを学習し始めた段階といったところだ。

 紙に丸をひとつ書いて、これが地球だとすると「下」側に居る人間はなぜ「落ちていかない」のか? と首を傾げる相手に、万有引力だの宇宙は無重力だのと説明しても、「それは知ってるけど落ちないのは不思議だ」と言われるような感じだよ。

 要するに、すごくもどかしいね。


「……おや? 複製体の反応がひとつ消えたね?」


 複製体同士の意識をつなぐネットワーク魔法から、IPアドレスがひとつ消失した。つまり、何らかの原因で複製体が死亡したということだ。

 致命的な状況が発生した――新しい課題だ。実にワクワクするね。最終目標として「完璧」を求めながらも、決して「完璧」に到達してはいけない。それが研究者だ。研究者が「完璧」に到達してしまえば、それ以上は研究することが無くなってしまうからね。存在意義の喪失だ。



 オネエ神官と守銭奴竜人~終章:柊の物語~へ続く!

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