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第18話 増える

 翌日、目覚めたリリーは安堵した。


「……あれは夢だったのね」


 目の前には、ちゃんとダンジョンがある。

 よかった。

 消し飛んだなんて、夢だったんだ。



 ◇



「バカな……」


 俺は驚愕していた。

 昨日あれだけ完膚なきまでに破壊し、消滅させたダンジョンが。

 一夜明けたら元通り。

 いつの間に直ったァァァ!?

 と叫びたいところだが、いったい「どうやって」というのが興味深い。

 残った部分から「再生した」というのでは説明がつかない早さだ。そんな急激に体積を増やせるなら、どんどん大きくなって、訪れるたびに階層が増えていくはず。

 これはおそらく「復元」だ。


「核熱の極撃で、ダンジョンを構成していた物質はほとんど宇宙へ吹き飛んだはず……空間や時間を『巻き戻した』というのでは、吹き飛んだ破片を集める射程距離が長すぎる……。

 ということは、破壊された『事実』そのものを『無かったことにした』のか?」


 ゲヒヒヒヒ……! なんという興味深い現象だろう。

 事象の改変? 因果律をぶっ壊すトンデモ現象ではないか!

 どうやって直したか、その「原因」が存在しないのだ。壊れたという「結果」を消去した――あるいは直ったという「結果」を発生させた。あまりにもバカバカしい。魔法とは根本的に異なる仕組みだ。それとも俺が知らないだけで、魔法を極めていけば、そういう事さえも可能になるのか?

 もうこれは、神の天地創造に匹敵するレベルの能力だよ。「光あれ」の一言で光を生み出したのと同じレベルの現象だ。光源を用意することなく「光が生まれた」という「結果」だけを作り出したのと同じことが起きたわけだ。


「……まあ、とにかく、おかげで賠償問題については考える必要がなくなったか」


 そして俺の新しい研究テーマが見えたわけだ。喜ばしい。

 ナノマシン的な原理で「再生」を実現することなら、今の俺にもできるだろう。時間はかかるがね。しかし「復元」となると、そのための基礎研究から始めなくてはならない。

 鉄原子を分解して、純金の原子に組み替えるような事だ。それをやるには、原子の仕組みを調べる所から始めて、分解再構成を実現する技術を生み出し……というプロセスが必要。

 とてもじゃないが、処理能力が追いつかないね。

 ドクター・〇〇パンクやエージェント・ス〇スみたいに、俺も増えるしかないか?


「椿たちは今ごろどうしているかね……」


 本当に考えることが多い。

 タスクが多すぎて処理が追いつかない。

 何とかしなければ……。



 ◇



「てことで、何とかしてみたが……さて、うまくいくかね?」


 微視的探知魔法で幹細胞を見つけて取り出し、同じく微視的に改造した回復魔法で高速培養。

 育ったクローンに、以前使った読心術魔法――相手の思考に反応して自動的に回避するバフの改造版――を、さらに改造して、本体の知識をクローンにコピーする魔法を開発。


「うむ。知識は完全だと思うよ。抜け落ちはなさそうだ。

 しかし、もう少し改良の余地があるね。筋肉が使われないまま育ってしまったのは失敗だ。寝返りどころか首が座らないよ」


 寝たきりの俺が、ひどく聞き取りにくい発音で話す。

 舌や唇の筋肉も未発達のようだ。


「では、そのまま実験台になりたまえ」


 低威力の電撃魔法と回復魔法を併用して、電気刺激で筋肉を動かし、強制的に鍛える。テレビ通販で腹筋を鍛える腹巻き型のマシーン「アブなんとか」みたいな商品名でよく宣伝しているやつと同じような原理だ。

 電気刺激で強制的に筋肉痛を起こし、高速培養魔法で超回復を発生させて筋肥大を実現する。このとき普通の回復魔法を使うと、超回復が起きないで「筋肉痛になる前の状態」に戻ってしまうので筋肥大を実現できない。治癒と成長は似ているようでも違うということだね。


「……さて、こんなものでどうかね? だいぶ体格もマシになったようだが」


「うむ……よし、起き上がれそうだよ。おっと?」


「危ないな。ふらつくかね?」


「うむ。どうやら小脳の学習内容がコピーされなかったようだね。バランスの取り方が分からないよ」


「色々と改良の余地ありだね。だが、コレを乗り越えれば、研究速度は劇的に改善できる。やり甲斐のある改良だね」


「全くその通りだね。そのためなら喜んで実験台になるとも」


 本体と複製体でがっちりと握手を交わしていると、リリーが突然ブチギレた。


「に……人間を作るなァーっ! 神の領域になに気軽に踏み込んでるのよ、アホ! 変態! 冒涜者!」


「ちょ……! やめ……!」


「リリー、殴るのは勘弁してくれないかね。

 複製体はレベルが低いはずだから、今の君に殴られたら簡単に死んでしまうよ」


「こっちの神は人権問題に寛容じゃなかったのかね? 盗賊とか平気で殺すじゃあないか。殺すより生み出すほうが倫理的には許容されるべきだと思うがね」


「まったくだ。殺すほうがよほど倫理にもとると思うがね。

 新たな犠牲者を出さないために――つまり将来の犠牲者を『生かすため』というのなら、人間の複製だって『生かすため』であれば許容されて然るべきじゃないかね。

 同じ理屈なのに『不気味の谷』的なものを越えた途端に拒絶するのは、人類の最も傲慢なところだよ。己が唯一無二の尊い存在だとでも思っているのかね? 何百万人が死んだところで、世の中はたいして代わり映えもせずに巡っていくとも」


「気持ち悪い! 双子でもないのに、同じ顔でしゃべらないでよ!」


「いやいや、原理的に一卵性双生児と同じだよ」


「そうとも。同じ受精卵から生じて分裂したのだから、双子そのものだよ。

 分裂した場所が母体の中か外かというだけの違いだよ。帝王切開や体外受精みたいなものじゃないかね」


「いーやー! 神様このアホをどうか裁いてください! あるいはこのアホをアタシがぶっ殺すのをお許しください! えい! えい! えい! 悪霊退散! 悪魔よ立ち去れ!」


 ダメだこれは……複製体、ここは任せて逃げたまえ。研究は任せる。


 了解した。ダンジョンは頼むよ。


 アイコンタクトで意思を疎通し、ハデな魔法をぶっ放す。

 それを隠れ蓑に、複製体を移動させた。


「ほら、もう居ないから、落ち着きたまえ」


「嘘よ! また作る気だわ! あんたがアタシに言われて行動を変えるなんてことがあるわけないじゃない!」


「いやいや……何を言うのかね。けっこう変えてきたと思うよ?」


「……少しは、そういう所もあるかもしれないわね」


「だろ?」


「でもなんか信用できない!」


「ひどい! しまいには泣くよ!?」


「あーやーしーいー!」


「ぐぬぬぬ……なんという信用のなさ……。

 これも身から出た錆というやつかね……」

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