第17話 核熱の極撃
それは、つまらない言い争いから始まった。
「あんたって、物理攻撃はしないわね。
もしかして、メイスでぶん殴るってことに関しては、もうアタシのほうが、あんたより強いんじゃないの?」
「なにをバカなことを言っているのかね。物理の暴力に関しては、君などハナクソにもならんよ」
「へえ? じゃあ、あんたの物理攻撃は、よっぽど強いのね?
ちょっと見せてよ。笑ってあげるから」
「ほほう……? 聞き捨てならないね」
「あら、そう?
で? どうするっての?」
「今の発言を撤回したまえ。
さもなければ、君が全責任を取るという形で、実際に見せてあげることになるよ」
「あっそ。
じゃ、見せてもらおうじゃないの。
せいぜい頑張りなさいな」
「よろしい。ならば戦争だ」
◇
というわけで、まずは支部長室。
「押しかけてきたと思ったら、どういう話だ、それは?」
「何が起きても、責任はすべてリリーにある。
そのことだけ承知してほしいという、それだけの話ですよ。
ですから支部長には、その責任の所在を確認するための保証人になっていただきたい。
まあ、決闘の立会人みたいなものです」
「冒険者同士で決闘ねぇ……」
「殺し合いにはなりませんよ。
攻撃をひとつ披露するだけで、狙う相手はリリーではありませんし」
「ねえ、ちょっと……なんでそんなガチで責任おしつけようとしてくるわけ?」
「宣言通りだよ、リリー。
君は発言を撤回しなかったからね」
「いったい何をする気だ?」
「ダンジョンをひとつ、破壊します」
「「はぁ!?」」
「このおたんこなすに、物理攻撃の暴力というものを見せてやらなくてはね。
己がいかにハナクソなのかということを、よく教えてやらないといけない」
「な、なんか、怒ってる……?」
「さあ、これで支部長に話は通した。
ではダンジョンへ行こうじゃないかね」
「ねえ……なんか、すごく嫌な予感がしてきたんだけど」
◇
「まずは厳重な封鎖からだね。影響を外へ漏らしてはいけない。
衝撃の遮断、熱の遮断、光の遮断、その他もろもろ……完封するのは無理だから、上へ逃がすようにしようか。100kmほど上空へ……余裕を持たせて200km送れば十分かな?」
いくつかの防御結界を、反転して封印結界に改造し、筒型に展開する。
地上に健康被害を出さないようにするため、筒型封印結界は熱も光も電磁波も完全に遮断する。
そのため、見た目はただの黒い棒だ。
「では始めようか。
よく見ていたまえ。物理の暴力というものを」
メテオを魔改造したものだが、完全オリジナルの魔法といっていい仕上がりだ。
まずは適当な小石を拾って、目標地点へ投げる。
特に意味はないが、リリーにも「物理の暴力だ」と分かるように、加速魔法をかけて超高速で投げることにしよう。
筒型封印結界は、結界の基本的な性質としてマジックミラーのように一方通行だ。つまり、外から中へは自由に入れるが、中から外へは絶対に出られない。ブラックホールのように、と言うべきかもしれないね。
そして中へ飛び込んだ小石は、燃料として消失する。
直後、破壊的なエネルギーが放出される。
非常に有名な公式だ。
E=mc^2
「核熱の極撃」
今回なげた小石は11gほど。
変換されたエネルギーは、約10^18ジュール。
つまり、台風1個分の総エネルギーに等しい。
もっと分かりやすく言うなら、広島型原爆10万個分ほどの破壊力だ。
200kmの筒型封印結界の出口に、第2の太陽が輝いた。
「ざっとこんなものだよ」
放射線による汚染を、微視的魔法制御でもって除去してから、筒型封印結界を解除する。
あとに残ったのは、底が見えないほど深い穴だ。
ダンジョンが完全に消し飛んでいる。
これが純粋な「火力枠」の実力というものだ。神官は「回復枠」だから、攻撃力に期待するような職業ではない。
「……な……なんてことを……!
ダンジョンからの収穫物が、この街の経済の根幹なのに! 無限の資源鉱脈を消し飛ばしてしまったぞ!? 領主様にどう報告しろと!? 職人ギルドも商人ギルドも黙ってないぞ!? 資源枯渇だ! こんなの……街はもう終わりだ! いったいどれだけの失業者が……! 経済が……! ギルドの運営が……! あうっ……! あうっ……! こんな……平穏が……無事に引退してのんびり暮らす計画が……!」
残り少ない頭髪が、支部長の頭から、はらりと落ちた。
バーコード頭が、一気に落ち武者ヘアだ。
痩せ型の支部長には、どっちも妙に似合う。
痩せ型というか、なんかもう一気にやつれてきているが。
「支部長。事前に確認した通りですよ。
起きたことの責任は、すべてリリーに」
「…………」
支部長が、ほんのわずかな期待を込めて、壊れた風見鶏みたいにぎこちない動きでリリーを振り返った。
リリーと目が合う。
とたんにリリーがビクッと震えた。ダラダラと大量の汗をかく。
「あ……え……?
い……う……?
え……お……?
あ……おぅ……っふぅ~ん……」
ぐらり……ばたっ。
リリーは白目をむいて倒れてしまった。




