表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/19

第15話 リリーの受難

 不思議な感覚だった。

 意識はハッキリしているのに、体がまったく動かない。

 脳とそれ以外の部分との連結が切れてしまったかのようだ。

 それでも心臓は動くし、呼吸はできる。

 目も見えるし、耳も聞こえる。


「む? 何の冗談かね?」


 地面に倒れたリリーは、頭を打った。

 痛い! と思ったが、ヒサギの反応は間抜けなものだった。


「すまないが、そのジョークは分からないから、やめたまえ」


 この節穴め! お前の目玉は飾りか!

 それでも、あのヒサギが「すまないが」なんて言うのは初めて聞いた。

 ……もしかして、これで「謝っているつもり」なのか?

 あ……あり得そうだ……常識的に考えてあり得ないのが、逆にヒサギっぽい。


「リリー。おい、リリー……おや?」


 ようやくヒサギが異変に気づいた。

 いったいリリーの身に何が起きているのか。


「……胞子による寄生かね」


 ヒサギが焼き払ったから安全だと思ったのに。

 炎の範囲外に飛散していた胞子があったのか? それとも焼け残った胞子があったのか? いずれにせよ、状況は絶望的だ。

 ヒサギなら「よろしい。もうお前に用はない」と容赦なく捨てていきそうな気がする。そうでなくても、たとえ地上へ運び出されたところで、いったい誰がこの状態を治療できるというのか。

 胞子の寄生は、状態異常とは異なる。毒などと違って「薄めれば無毒化できる」とか「自然に排出されるのを待てばいい」とかいうものではない。むしろ時間とともに増えるので、状況は悪化する一方だ。

 ならば、どうするか?

 現実的なところでは、せいぜい「宿主もろとも焼き殺す」というのが関の山だろう。

 いやだ……死にたくない……!


「ふむ……回復系の魔法研究はまだこれからなんだよ。

 まあ、いくつか方法は思いつくが……しかし自ら実験台に志願してくれるとは、君もずいぶん協力的になったものだね」


 冗談じゃない!

 いや、むしろ、それが唯一の希望か。

 なんという皮肉。

 ヒサギの実験台に志願する。絶対にやりたくない事のナンバーワンが、今となっては助かるための唯一の希望。志願するしかない。


「防御魔法を罠化して設置。常時発動型に改造しておこう。

 それから迎撃用に、攻撃魔法も罠化して設置しておこうかね」


 なんか悪い顔して笑っている。

 ヒサギにとって今の状況は、大きな利益があるという事なのだろう。

 いや、先に心配しろよ! 少しでいいから!

 治ったら1発ぶん殴ろう。お礼を言うのは、その後でいい。


「外科手術でもないし、場所の確保はこのぐらいでいいだろう。

 さて、それでは魔法による微視的探知の実験から始めよう」


 始まった。

 本格的に実験台あつかいだ。

 もはやヒサギが何言ってるのか理解できない。


「あーして、こーして、そーして、どーして……うーん……意外と難しいね」


 おいおい、頑張れよ!? 諦めるな! あと少しだってば! しらんけど!

 ……はっ!? ま、マズイ……! す、すごく……トイレ行きたい……!

 うぐぐぐぐ……! が、我慢……ダメ……体が動かせない……!


「やれやれ、こんな所で何日も足止めとは……おいおい……まあ、そりゃ何日もたてば、意識がなくたって出るものは出るがね」


 ぎゃああああああああ!

 殺せ! 殺してくれ! なんでアタシがこんな事にィィィ!

 畜生めぇぇぇ! フングスなんか大ッ嫌いだ! バーカ!

 きのこダンジョンとキメラダンジョンには、二度と来るもんか!


「まあいい。医療とくれば看護はつきもの。看護とくれば介護もつきものだ。今回が複合的な実験になるのは、最初から分かっていた事だよ」


 えっ? ちょ……いぎゃあああああ!? し、下の世話されてるぅぅぅ!?

 やーめーてー! アタシの尊厳! 人としてのプライドがあああ!

 ううっ……! も、もうお嫁に行けない……!

 こうなったら、ヒサギに責任とらせて……うん?

 …………………………。

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 ……。





 え? てゆーか、こいつは、どーしてこんな献身的にアタシの世話を?

 下の世話ったって、別に焦げた鍋を洗うような乱暴な手つきじゃあない。

 まるで高級なガラス食器でも扱うような手つきだ。

 いやらしい感じもしない。赤ん坊の世話をする親のような慈しみさえ感じる。

 ――奇妙だ。

 実験器具を扱うような事務的な感じでもない。

 人型の物体を扱っている、という感じがしない。

 きちんと「人間」を扱っている感じだ。まあアタシはエルフだけど。


『ふむ……回復系の魔法研究はまだこれからなんだよ』


『うーん……意外と難しいね』


『やれやれ、こんな所で何日も足止めとは……』


 あのヒサギが? 余計な時間は取れないと言い張って、受付嬢が呼び止めるのも聞かずにギルドを出ていく奴が? 絡んできた冒険者を無視するこいつが?

 ……もしかして、なんとか助けようと奮闘している? アタシのために――?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ