第14話 キメラダンジョン
最も危険だと言われるダンジョンにやってきた。
複数の生物の特徴をもつ「キメラ」が出るダンジョンだ。
「うわ! 出たわ、ポイズンブルよ!」
「おお……! ムーシュルームじゃないかね」
背中にきのこを生やした牛がいた。
超有名なサンドボックスゲームに出てくるキャラクターだ。
そして牛ダンジョンの牛と違って、ミノタウロスではなく、普通に牛だ。
違いは、敵対的に行動すること。
「モオオオオオ!」
ドドド……!
ポイズンブルが猛然と突っ込んでくる。まるで闘牛だ。
しかし闘牛士のように引き付けてからギリギリで避けるというのは悪手。なぜなら体当たりの衝撃力や、角による突き刺しだけが脅威ではない。背中のきのこはフングスという魔物で、猛毒・幻覚作用・寄生などの効果を持つ凶悪な胞子を撒き散らす。
つまり、近くを通るだけで危険なのだ。
「さて、閉鎖空間で火炎系の行動はダメ、だったね?
では今回のような開けた空間なら問題ないわけだ。ファイヤーストーム」
火炎放射器みたいな魔法を使って、胞子もろとも背中のきのこを焼き尽くす。
こうなると、ただの牛モンスターだ。
「さあ行け、リリー! 自慢のバッティングを披露したまえ」
「バッティングって何!?」
「ああ……確かにバットじゃないからバッティングではないか。
さあ行け、リリー! 自慢のメイシングを披露したまえ」
「メイシングって何!?」
「うん、確かに。なんだろうね?」
「言った本人が!?」
「今度バットを贈ることにしようかね」
「モオオオオオ!」
「いやああああ!」
カキーン!
「打ったー! これは大きい! 入った! ホームラン!」
「入ったって、どこに!? ホームランって何!?」
「野球の話は今度じっくり教えてあげよう。
さあ、ダイヤモンドを1周してきたまえ」
「何もかも分からないわよ!?」
ぐらり……ばたっ。
じゃれていたリリーが、突然倒れた。
「む? 何の冗談かね?」
異世界人のジョークセンスが謎すぎて分からない。
などと思いながらリリーを見ていると、いつまでたっても起きない。
「すまないが、そのジョークは分からないから、やめたまえ」
詫びてみたが、反応がない。
そんなにそのジョークが通じないことがショックなのかね?
「リリー。おい、リリー……おや?」
意識が曖昧なようだ。
まるで泥酔しているような、だらしない顔になっている。
「……胞子による寄生かね」
焼き払ったはずだが……牛の部分に残った「根っこ」の菌が、打撃で飛び散って付着したか。
つまり返り血を浴びたせいで感染した、という事らしい。
「ふむ……回復系の魔法研究はまだこれからなんだよ。
まあ、いくつか方法は思いつくが……しかし自ら実験台に志願してくれるとは、君もずいぶん協力的になったものだね」
地上へ連れ帰ると、感染が拡大しかねない。ここで治療してしまおうかね。
しかし、そのためには、まず周囲の安全を確保しなくては。
「防御魔法を罠化して設置。常時発動型に改造しておこう。
それから迎撃用に、攻撃魔法も罠化して設置しておこうかね」
複合的な実験になりそうだ。
これは楽しみだね。ゲヒヒヒヒヒ……!
「外科手術でもないし、場所の確保はこのぐらいでいいだろう。
さて、それでは魔法による微視的探知の実験から始めよう」
リリーの体を、顕微鏡でじっくり観察するようなレベルでもって、MRIみたいに全身をスキャンする。
探知によって寄生している菌を正確に特定すれば、あとは攻撃手段を用意するだけ。その攻撃手段も、微視的探知の応用で行けるはずだ。
水魔法でいいだろう。人間の体は、7割ほどが液体だからね。
「あーして、こーして、そーして、どーして……うーん……意外と難しいね」
全身を探知するという「広域」の方向性と、菌を探知するという「微視」の方向性が、うまく噛み合わない。
落としたコンタクトレンズを探すのに、指1本でくまなく地面をなぞっていくような作業だ。あるいは点描画で壁一面に何かを描くような作業といったらいいか。とにかく時間がかかる。
「やれやれ、こんな所で何日も足止めとは……おいおい……まあ、そりゃ何日もたてば、意識がなくたって出るものは出るがね」
そのままにしておくわけにもいかないか。皮膚のかゆみ、ただれ、あるいは尿路感染による発熱など、体調不良の原因になるからね。正確な実験をおこなうには、そういったノイズが混じるのは避けたいところだ。
実験結果に「別の原因」だの「偶然の影響」だのが交じると、信用できなくなってしまう。特定の病症に対する研究においては、目的とする病症以外の病症が混じっている状況は避けなくては。
「まあいい。医療とくれば看護はつきもの。看護とくれば介護もつきものだ。今回が複合的な実験になるのは、最初から分かっていた事だよ」
下の世話なんてのは、やればいいだけで、どうってことはない。
それより、どうやって栄養を与えるかが問題だ。特に水分の補給は急務だね。点滴するのは無理だし、経管栄養みたいに口から胃袋まで水魔法で流し込んでしまおうか?
しかしミキサーもないのにペースト食を手作りする……? 気が遠くなる作業だね。それ用の魔法も開発しなければ、とてもじゃないがフングス菌の感染に対する治療法の実験どころじゃないよ。やれやれ……タスクが多くて、やり甲斐があるね。




