第13話 淡水魚ダンジョン
フロミズニーシー伯爵領には、魚ダンジョンがたくさんある。ベジタブルヘルズ伯爵領で玉ねぎダンジョンと長ネギダンジョンが別々に存在しているのだから当然だね。
しかし海藻と蟹が同じダンジョンに出たりして、結構入り組んでいる。蟹なら蟹だけのダンジョンというわけではないから、蟹ダンジョンとは呼ばれない。そして、どういう区分なのかよく分からない。
だから、どこのダンジョンも「魚ダンジョン」とひとまとめに呼ばれる。海ダンジョンとは呼ばれない。なぜなら――
「おや、鮎じゃないかね?」
川魚系のダンジョンに来た。
といっても、さっきウニとか出てきたから、川魚限定のダンジョンというわけでもなさそうだ。
とはいえ川魚が多いのは事実。故郷に大河があったというリリーが、漁師顔負けの大活躍である。
「えいっ」
可愛らしい掛け声に反して、振り下ろされたメイスの一撃は巨大な水柱を打ち立てた。
ドォン!
爆発音が轟く。全然かわいくない。
衝撃のせいか轟音のせいか、気絶した魚が浮いてきた。
ちなみに姿は魚でも水魔法で攻撃してくるので可愛くない。この世界では熱帯魚を飼育して鑑賞するような趣味は流行らないだろうね。
まあ、それはともかく。
俺は飛び散った水を浴びてビチャビチャになりながら、リリーに抗議した。
「うるさいのはダメじゃなかったのかね?
あと、その漁法は生態系に悪影響だからやめたまえ」
魚が気絶するだけで他に影響はない、などという便利な漁法ではない。日本で禁止されているのは、生態系を守るためだ。決して「取れすぎるから」ではない。
「急激にレベルが上がったせいで加減が分からないのよ。そして急にレベルが上がったのは、あんたに連れ回されたせいだから、要するに悪いのはあんたね」
「なんという暴力的な三段論法だ。
品格までは売らないという話は何だったのかね」
「まだそれを言うの?」
「俺は君の下に草鞋を脱いでいる。
ちゃんと教わったことは吸収しようと努力しているのだよ。
その君が無茶苦茶して、俺が『教わった事と違う』と言うのでは、もはやどっちが教師だか分からないね」
「ぐぬぬ……! 加減が分からないだけなのに」
理不尽だ、と言わんばかりに俺をにらんで歯噛みするリリー。
いや、理不尽はどっちだね。防御魔法で身を守りながら手づかみ漁法に挑むとか、他にも方法はあっただろうに。
「それはそれとして、鮎といえば、やはり塩焼きだろうね。ふふふ……じゅるり」
にがりを作ったときに、ついでに塩もたくさん手に入ったからね。せっかくだから、ふんだんに使おうじゃないか。
波打つように串を打ち、泳ぐ姿をそのままにというのが風流というもの。となれば当然その皿は水流を思わせるようなデザインでなくてはならない。心得たもので、この街では枯山水みたいな模様の皿が売っていた。
調理法はシンプルそのもの。唐揚げの衣かというほどたっぷりの塩を塗って、炭火でじっくり焼くだけだ。お好みで竜田揚げ程度の塩量にするのも良いだろう。焼けてきたときに流れ出す脂で、塩もかなり洗い流されてしまう。多すぎるぐらいで丁度いい。
うなぎの蒲焼なんかと違って、焼き目をつけたらもう一度塩をつけて……なんてことをすると塩辛くなりすぎる。タレと塩は扱いが異なると心得て臨みたまえよ?
なおフライパンで焼くときは、塩加減をめっきり控えないと、流れた脂がそのまま残るから、ぼだっこみたいな味になってしまう。注意したまえ。
「はふっ……うむ、これこれ。これだよ」
「はわわわ……! な、なんて繊細な味なの! 白身魚がこんなに美味しいなんて知らなかったわ!」
「ゲヒヒヒヒ……! 美味かろう。
ちなみに他の白身魚では、こうはいかない。なぜだと思うね?」
「え? 分からないわ。なんで?」
「鮎は草食で、しかも水がきれいな場所にしか住まないからだよ。
食べる草も綺麗な水で育つから、雑味の生物濃縮が起こらない。だから内臓まで美味しく食べられる。白身の本来のポテンシャルを引き出す唯一無二の魚というわけだ。もはや食べるために存在すると言っても過言ではないだろうね」
「へぇ~……いや、それは過言だと思うわよ?」
「比べて肉食の動物は、内臓が不味い。
売ってないのは、そのためだよ」
「無視!?」
「で、だ。
つまり植物系の魔物なら、同じく内臓まで美味しく食べられるわけだ。どこが内臓なのか分からないがね。
というわけで、さすがに食べられない鮎の頭や骨を煮出して、ここに海藻と味噌を加えれば、ほら味噌汁だよ」
「絶対にノー! さらっと勧めてこないでよ、変態!」
「やれやれ……ひどい言われようだね」
「ひどい事するからよ!」
「味噌は魔物の糞じゃないのに……」
そんなに拒否すると泣くよ?




