第11話 豆ダンジョン
「では、パーティー名は『道連れ』でよろしいですか?」
冒険者ギルド。
受付嬢が、ちょっと引きながら確認した。
「構わんよ。どうせ彼女は道連れだ」
「渋々ながら道連れにされてるわ……利益も大きいのが余計に……ああ、胃が痛い」
「で、では『道連れ』で登録いたします」
手続きは終わった。
さて、次のダンジョンへ行こう。
「おいおいおい、ちょっと待ちな」
「さて次は豆ダンジョンだったかね?」
「呼んでるわよ」
「余計な時間は取れない。行くよ」
「無視してんじゃねーよ!」
「ほら怒った」
「うるさいハエだね。
どうせたかるなら、他のクソにたかればいいものを」
「それだと自分もクソだけど、いいの?」
「どうせクソだよ。ハナクソだ。俺はまだまだ道半ば。未熟者も甚だしいからね」
「出た出た、全方位に喧嘩売っていくスタイル。
ダンジョンクリアしたAランクがハナクソなら、他の冒険者は何よ?」
「無視すんなって言ってんだろーが!」
「余計な時間は取れないと言っただろう?
用があるなら、さっさと話したまえ。歩きながらなら聞いてやらんこともないよ」
「こ……この……!
まあいい。用があるのは女のほうだ。
支部長室での話、大声すぎて筒抜けだったぞ。バフ山盛りで深層の魔物を倒した実力不足のくせにAランクに昇格だと? ふざけやがって。嫌々昇格するぐらいなら俺に代われ! こいつのバフがあればAランクになれるっつーなら、俺がなってやる」
「え? いいの?」
リリーは嬉しそうに尋ねた。
「うん、ドMの方?」
絡んできた冒険者が澄んだ笑顔になってしまった。
あんたじゃ無理だ、俺が代わろう――東京ドームの地下6階で言われた空手家は、激怒したが。
喜んじゃうリリーは、コケにされて喜ぶドMの変態に見えるか。ぷぷぷ。
「誰がドMよ!?
ヒサギ! あんたも笑ってんじゃないわよ!」
「まあまあ……そして名前も知らんが、あんた一緒に来るかね?
別にリリーを外さなくても、一緒に来ればいいじゃないか」
「え? いいのか?」
「うん、ドMの方?」
今度は絡んできた冒険者が喜んで、リリーが澄んだ笑顔になった。
リリーは自分が恩恵を受けている立場のくせに、何を言っているのだろうね。
恩恵を受けるのがドMとか、ちょっと何言ってるか分からないね。
「とにかく行こう。行けば分かるさ」
◇
「ぎゃああああああ! 死ぬ! 死ぬぅぅぅ!」
豆ダンジョン深層の魔物から攻撃を浴びて、絡んできた冒険者は泣き叫んでいた。
こんな可愛らしい豆鉄砲で死ぬわけないのに、騒がしい男だ。
「うるさいわよ! こいつのバフがあれば、そう簡単に死にやしないんだから、落ち着きなさいな」
リリーも煩わしそうに言う。
そういえばリリーから最初に言われたことが――
「ふむ……『うるさい』のは迷惑になるからダメ。だったね?
ではサイレンス。……沈黙のバフをあげよう。静かにしていたまえ」
「……! ……? ……!?」
「デバフぶち込むとか、容赦ないわね……」
「デバフ? 有利に働くものはバフだよ」
事実なるものは存在しない。あるのは解釈だけだ。
ニーチェの言葉は偉大だね。
「いやいやいや……あんたバカぁ?」
「わーお。ずいぶん懐かしい名台詞を聞いたね。
声も顔も髪型もなにひとつ似ていないのが残念だが……体型に至っては君の負けだし」
なにしろ男か女か分からない絶壁だからね。名前からすると女だろうけど、確認すると彼女が傷つくだろう事は、さすがに俺でも分かる。聞かないであげるよ。彼女のちっちゃい誇りのためにね。
しかし実際ぽっちゃり系男子のほうが、よほど「大きい」んだよ。リリーの名誉のために、何がとは言わないであげるけれどもね。
「ん何か分からないけどバカにされたのだけは分かるぅ! むかつくー!」
「静かにしたまえ。うるさいのはダメなんだろう?」
「誰のせいよ! だーれーのー!」
げしっ! げしっ! げしっ!
「や、やめたまえ。メイスで殴るのは、さすがに……」
最近リリーのレベルが上がりまくってるから、武器ありの攻撃は微妙にダメージが入るようになったんだよ。以前ひっぱたかれて反射的に「痛い」と言ってしまったときは、本当は別に痛くなかったんだが、最近は本当に痛いからね。
まあ、そうはいっても、まだまだ俺を倒せるほどではないがね。
「……! ……! ……!」
「おい。調子に乗って君まで殴るんじゃないよ、名無しくん。
気心のしれた相手からふざけて失礼されるのは愉快でも、初対面の相手からふざけて失礼されるのは、ただの失礼だよ?」
「いや、なんか必死なんだけど。全然ふざけてる感じじゃないわよ?」
「絶対安全なのに、肝っ玉の小さい男だね」
こいつを遊園地に連れて行って、絶叫系マシンに乗せてみたいね。
気絶しながらゲロ吐く愉快な姿が見られそうだよ。
「まあいい。このダンジョンもさっさとクリアしてしまおう」
◇
「やってられるかー!」
街に戻ってサイレンスを解除してあげると、絡んできた冒険者は半べそで逃げていった。
「Aランクになるんじゃなかったのかね……?」
「肝っ玉の小さい男だから仕方ないわ」
「リリー……君、言うね」
「あらやだ。ヒサギのが感染ったわ」
「人を病原菌みたいに言わないでほしいね」
まったく、やれやれだよ。




