第10話 冒険者ギルド
ある日、冒険者ギルドを訪れると、支部長に呼ばれた。
「なかなか連絡がつかなかったが、ようやく捕まえたぞ。
あちこちの支部で、受付嬢が『待ってくれ』と言ったはずだが、よくもまあ、ここまで綺麗に無視したものだな」
支部長は、にっこり笑っているが、その目は怒りに満ちていた。
「本当にこいつは……すみませんね、支部長。
このバカ、自分の用事が済んだらさっさと出ていっちゃうので」
「どうせ何か頼み事でもされるのだろう?
そして俺の答えは決まっている。先を急ぐから、よけいな時間は取れない。
買い取りの手続きに支部長の面談が必要だと言うから来ただけだ。さっさと買い取ってくれると助かるんだがね」
「はァ……」
「苦労しているんだな……」
「分かります?」
「とにかく、先に連絡をくれて助かったよ。
多数のダンジョンをクリアした報告を受けている。Fランクのままで、な。
ギルドのランク制度をコケにするのも大概にしろよ、お前。Aランクだ。古い冒険者証を返却しろ」
だんっ、と叩きつけるようにテーブルへ置かれた「2つの」冒険者証。
そこに「Aランク」の刻印があった。
「……え?」
エルフの神官が、目を点にしている。
「ゲヒヒヒヒ……! おめでとう。Aランクだとさ」
冒険者証を拾って、片方を彼女(?)に渡す。
そして古いほうを、さっさとテーブルへ置いた。
別にランクなんてどうでもいいが、Fランクにこだわっているわけでもなければ、Aランクを拒否しているわけでもない。ダンジョンに挑むために冒険者という身分が必要なだけだ。
「んなんでぇぇぇ!? アタシ実績ないんだけどォ!?」
エルフの神官は、手のひらの冒険者証と支部長を交互に見ながら叫んだ。
「いくつもダンジョンをクリアしておいて、何を言うんだ。君までランク制度をコケにするつもりか?
いいか? ランクは実績で変動する。どうやって成し遂げたのかは問題ではない。ゆえに、その逆――登録直後は全員がFランクだ。宮廷魔術師だろうと世界最強の剣豪だろうと関係ない。一切の例外なし。この徹底した実績主義が、今の冒険者ギルドを支えている屋台骨だ。文句は聞かん」
「つまり我々にとってランクなど飾りにすぎないという事だよ。
さっさと受け取りたまえ」
「アタシこいつに連れられて、荷物持ちみたいに後をついて行っただけよ!?」
「ちゃんと敵も倒していたじゃないかね」
「あんたのバフを山盛りもらった状態でね!
アタシひとりじゃ深層の魔物の1体だって倒せやしないわよ!」
「君は情けないことを自信たっぷりに言うね」
「誰のせいよ!?」
「仲間の力を借りて活躍するのも、冒険者には大事なことだ。
いい仲間を持ったな」
「「仲間?」」
俺とエルフ神官の声が重なった。
常識を教わっている師弟関係ではあるが、冒険者として戦闘面で助け合う関係ではない。どっちを見ても、極めて一方的な関係だ。仲間というのは共生関係のことをいうのではないか? 俺とエルフ神官の関係は、どちらかといえば共依存だ。必要な時期が終わったら別れるべきだろう。
「息ぴったりじゃないか」
「ぐぬぬ……! こいつとの付き合いも長くなってきたわね」
「やめてくれ、気持ち悪い」
「気持ち悪い!? ぐっさー! 傷ついた! アタシ傷ついた! この性悪男め! さんざんアタシを連れ回しておいて、今さら『気持ち悪い』とはどういう了見よ!?」
エルフ神官はメイスを振り上げて、フルスイングの構えだ。
「落ち着きたまえ。そこはバッターボックスじゃないぞ」
「これが落ち着いてられますかっての!」
「じゃあ聞くが、お前、俺の名前を知っているのかね?」
「……え?」
「ちなみに俺は、お前の名前を知らない」
「…………………………。
……………………。
………………。
…………。
……。
そういえば知らないわ」
すとん、とメイスが力なく下ろされた。
「だろ?」
お互いの認識をすり合わせた。
とたんに、支部長が噴火した。
「『だろ?』じゃねーわ! アホか、お前ら!? 名乗り合いぐらい最初に済ませておけよ! 自己紹介のやり方も知らんのか!? 俺から紹介してほしいのか!?」
「「自己……紹介……?」」
え? 今さら?
エルフの神官も、そういう顔をしている。
俺も同じ顔をしているのだろうね。
「そこで息ぴったり!? チクショーッ! こいつら! やってられねェ!
このアホ男はヒサギ! 魔術師だ!
こっちのバカ女はリリー! 神官だ!
職業は知ってるだろーが、名前と職業! これが冒険者の自己紹介だ! パーティーを組んでるなら、パーティー名もな!
そうだ、お前らもうパーティー組め! ほら名前は何にするんだ!? 『バカとアホ』なんてオススメだぞ? それとも『お互いの名前を知らずにダンジョンまでクリアした伝説の間抜け』とかにするか? 名乗らなくても周りが勝手に呼んでくれそうだがな!」
「「ぐぬぬ……!」」
また声が重なった。
好き放題に言われてしまったが、反論できない事実だ。
……いや、待てよ?
「お互いの名前を知らないままでもダンジョンくらいはクリアできる。
周りが『それは無理だ』と言うのなら、それは周りの程度が低いだけではないかね? 我々は『できた』んだがね」
事実なるものは存在しない。あるのは解釈だけだ。
ニーチェの言葉だったかな。
なんか支部長がイラッとしたようだが、ざまぁというやつだ。先にバカにしてきたのは支部長だからね。
さて、パーティー名か……何にしようかね?




