快楽と絶望の果てに
「あんな若い子にまで手を出すなんて、ほんと、最低な男ね」
彼女は今日も僕の働く店に閉店間際に来て、モカを注文した。繁華街の入口にあるコーヒーの専門店。カップを持つ指のマニキュアの赤が、派手な服装をより際立たせている。
「まあ、このあたしでも満足できないんだから、仕方ないわね」
数日前、彼女の店に行き、浴びるほど酒を飲んだ。記憶が曖昧なまま、目覚めるとホテルのベッドにいた。服は着ていなかった。ベッドサイドには、彼女の残した店のカードと、真っ赤な口紅のついた吸い殻。眩暈がした。頭が割れるように痛い。
昨夜は、店のバイトの女の子と一夜を過ごした。悩みがあるという彼女を誘って夜の街で酒を飲み、話を聞いた。優しく肩を抱くと、彼女は甘えるように僕の肩にもたれてきた。
「今のあなたのそんな姿を、あの子が見たらなんて言うかしらね」
彼女は思わせぶりな視線を僕に向けた。コーヒーを淹れる手が思わず止まる。
まさか……彼女は知っているんだろうか、あの人の行方を――。
数年前、まだバーテンダーをしていた頃、僕は恋をして、そして深い深い闇に堕ちた。今にも消えてしまいそうな白い肌、艶のある黒い髪。息もできないほどの苦しさを味わいながら、それでも、彼女だけを見ていた。ただほんの少し目が合う、それだけでよかった。
「……知ってるのか。あの人が今、どうしているのか」
彼女はふっと鼻で笑うと、コーヒーを飲みほした。唇の赤が妖しく動く。「知りたい?」
どんなことでもいい。知っているなら教えてほしい。彼女は吐き捨てるように言った。
「それなら、もう一度店に来て。教えてあげる。あの子のこと」
彼女の店は相変わらず混んでいた。正直、酒を飲む気になれなかった。あの人のことが知りたい。何の意味もなくても。そんな僕をあざ笑うかのように、彼女は次々に強い酒を勧めてきた。言われるままに数杯を一気に飲み干すと、彼女は満足そうに目を伏せた。
「あの子は……死んだわ。半年前に。刺されたのよ、男に」
死んだ? あの人が……。目の前がぐらっと歪んだ。噓だ。まさか、そんな……。
「もう、過ぎたことは忘れて。あたしがいるじゃない」
何も考えられないまま、ただ出された酒を呷った。そして、僕は再び彼女を抱いた。まるで恨みを晴らすかのように。苦しかった。もう何もかもがどうでもいい。
目覚めると、ぼんやりと天井を見上げた。彼女は横で、おいしそうに煙草をふかした。
「好きなのよ、あなたのこと。……馬鹿みたいね」
乱れた髪をかき上げる。頭が、割れるように痛い。闇はどこまでも深く続いていた。




