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無職日記  作者: 松茸
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7/12 浅草キッドとガールズバー

 ビートたけしの浅草キッドという歌が好きだ。


 私がわざわざ言うまでもなくあからさまな名曲で、いろんな歌手がカバーしている。でもいくら歌が上手くても、この歌の根底にあるものを表現することは難しい。なんとも言えない切なさ、哀愁、虚無感、儚い希望、そして失望、かそけき光、かぼそい期待、絶望と祈り……そんなものを本人以外の誰が表現できるだろう。私もカラオケで歌ってみてわかった。これは個人的な歌なのだと。誰かが代わりに歌うような歌ではない。これはビートたけしという光の影を担う歌なのだ。


 私は正直ビートたけしのことはよく知らない。漫才を見たこともない。映画を観たこともない。凄い人間であるらしい。でもどう凄いのかは知らない。私に分かるのはテレビで見た印象だけだ。その印象も上手く言葉にすることはできない。なんとなく浮かんできたのは韜晦とうかいという言葉だった。これは自分の本心や才能、地位などを包み隠すこと、という意味だ。あえて露悪的に振舞うのは正しすぎる本性を包み隠しているため。野卑に振舞いながらもその実は高潔であり、そこに人々は奥ゆかしさと深い知性を感じる。それが彼に対する好意に繋がっているのではないだろうか。そんな風に思う。それが正しいかどうかはわからないが。


 ところで、先日ガールズバーで二名の刺殺事件があった。犯人は41歳無職であるという。また間違った無職が痛ましい事件を起こしている。YOUTUBEの動画コメントに「41歳で無職とか終わってる」とあったがそれは偏見だ。そんなことを言ったら44歳で無職の私はどうなるというのだ。終わりをすでに通り越しているとでもいうのだろうか。


 犯人は家賃26000円のアパートに住み、週に1~2回飲みに出かける。一緒に飲む相手はいない。全身に入れ墨を入れ、服装などにはそれなりに気を遣うが、お金がないためにクロムハーツの偽物を着用していたという。性格は短気で、目下の人間にはすぐにオラつくが、目上の人間にはペコペコする。


 こういう人間はどこにでもいる。夜の街にはこういった寂しい人間が溢れている。彼らは虚飾に身を包み、虚栄の海を泳いでいる。性格に難があるために実社会でまっとうな人間関係を築けない。若い女性に相手をしてもらうには夜の店に出かけるしかない。だが彼女たちはそもそも客のことなんてなんとも思っていない。金のない客であればなおさらだ。


 それでもそう感じさせない接客をするのが彼女たちの職業義務なのだが、昨今の夜の店のキャストは単に高給に惹かれて腰掛で働いているだけで、その高給に見合う責任感や職業意識は持ち合わせていない。彼女たちの頭にあるのは適当に話を合わせていかにドリンクを頼ませるか、同伴させるかといったことだけだ。底意は見え透いている。それが男のプライドに障る。かくして事件は起こる。


 犯人を擁護するつもりはない。だが「小馬鹿にされたから」という理由は本心だろう。これを聞いて多くの人間はくだらない理由だと思うだろう。だが私はそうは思わない。プライドは男性が生きていく上での最後の拠り所なのだ。他に何もない人間にとっては、それは人生のすべてと引き換えにする価値のあるもの。それを傷つけられたら、ひとはどんな行動に出るかわからない。


 そういったリスクがあるのが夜の店だ。高給にはそれなりの理由がある。学生が小遣い稼ぎにやるようなものじゃない。昨今はキャバクラが高すぎるので金に余裕のない客はガールズバーに流れている。ガールズバーのほうが値段は安い。キャストの時給も安い。だから当然意識も低いだろう。しかし男性客が求めているものはキャバクラと変わらないのだ。その意識の乖離かいりが問題を引き起こす。これが昨今ガールズバーでの事件が増えている背景だと思う。


 夜の店なんて行ったって何も生まれない。私も昔キャバクラで一晩に50万使ったことがあるが、残ったのは虚無だけだった。それにガールズバーというのはカラオケを歌うところだ。可能性のない女性に入れあげるところではない。数人で行って、適当にカラオケで騒いで、延長せずにスパッと帰る。


 それが正しい無職のおじさんの飲み方だと思う。




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