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無職日記  作者: 松茸
77/113

9/18 アリとキリギリス

 アリとキリギリスは幼馴染おさななじみでした。


 でも性格は正反対。


 アリは堅実な性格で、キリギリスはお気楽な性格でした。


 高校を卒業した二人でしたが、アリが必死にバイトを掛け持ちして働いているかたわら、キリギリスはクラブで遊びほうけていました。


 キリギリスは無職でお金はありませんでしたが、歌や楽器が上手かったので、お金持ちに気に入られ、いつもタダで遊ぶことができたのです。


 アリはそんなキリギリスのことを見下していました。人気者でうらやましいという気持ちも少しありました。でもそれを認めたくなくて、つい上から目線で説教をしてしまいます。


「いつまでそうやって遊んでるつもりだい。そんなんじゃ将来必ず後悔するよ。遊んでばかりいないで、おれみたいに額に汗水たらして働きなよ」


 アリはお金を貯めてFIREするという夢がありました。

 その夢のために、いまは遊ぶのも我慢して頑張っていたのです。


 キリギリスは逆にアリのそんなところが心配でした。

 アリが自分の人生を楽しめていないように思えたのです。


「おれたちはまだ若いんだしさ、いまのうちからそんなに頑張ってちゃ息切れするよ。アリさんももっとゆっくりしたらどうだい? 働くだけが人生じゃないよ」


 キリギリスのこの言葉に、アリはカチンときてしまいます。


「ひとがせっかく親切で言ってやってるのに……もういいよ、おまえとは絶交だ!」


 それから3年が経過しました。


 キリギリスは音楽の才能が認められ、メジャーデビューして大成功していました。クラブで遊んでいたときの人脈のおかげで、トントン拍子に話が進んだのです。


 一方、アリは働きすぎで身体を壊してしまい、病気の治療のためにせっかく貯めたお金も全部使ってしまいました。


 困ったアリはキリギリスを訪ねます。


「やあ、アリさん。久しぶりだね」


 キリギリスは快くアリを迎えてくれました。


「身体を壊してたって聞いたよ。もういいのかい?」


 アリは頷きます。そしておもむろに切り出します。


「キリギリスさん、お願いがあるんだけど……」


 キリギリスは仕事が忙しくなって、新しいマネージャーを探していました。


 その話をアリは人づてに聞いていたのです。それで、自分をマネージャーにしてくれないか、と頼み込みました。幼馴染だし、昔はよく面倒を見てやったじゃないか、という思いもありました。


「なるほど、確かにアリさんはよく働くしね」


「じゃあ」


 アリは期待を込めてキリギリスを見ます。

 でも、キリギリスは首を横に振りました。


「悪いけど、自分の管理もできないのに、他人の管理ができるとは思えないな」



 ★


 

「……ということだよ。みんなわかったかな?」


 小学校の先生が子供たちに問いかけます。


「うん、わかった! やっぱり働いたら負けなんだ!」

「好きなことで生きていくんだ!」

「遊びが大切なんだね!」


 何かが違う。何かが違う……と思いながらも先生は頷きます。


 授業を視察していた校長先生も満足げです。


「この先生もようやく令和という時代に追いついてきましたね」


 時代と共に童話も変わっていきます。


 これが令和版の『アリとキリギリス』なんですね。


 

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