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無職日記  作者: 松茸
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9/9 ツイていない日

 ツイていない日というのはある。


 やることなすこと、すべてが裏目に出る。


 道を歩けば棒に当たり、鳥の糞が頭に落ちてきて、バナナの皮ですべる。駅に行けばぶつかりおじさんに肩をぶつけられ、ホームでは奇声を発しているひとに絡まれる。電車に乗れば痴漢に間違われ、降りるときに荷物を忘れる。改札を通ろうとするとスイカの残金が足りないが、チャージしようにも財布を忘れている……


 そういう日もあるだろう。


 いや、ないか。


 さすがにここまでひどい日はそうそうないだろう。


 でも近い日はある。私のようなものにはそういう日は日常茶飯事だ。電車は目の前で発車する。駅のホームではエスカレーターが故障中で、イオンのペットショップに行けばちょうどペットたちは休憩中ですべてのケージにカーテンが降りている。漫画喫茶に入れば隣の人間がずっと菓子を食べている音がする。


 そういうのは割といつものことだ。


 私のような無職の人間は、人生が上手くいかないことに慣れている。むしろそれが当然だと思っている。不運なのが当たり前で、思いがけない幸運が来たら逆に驚いてしまう。だからまあ、ツイてなくたって別に構わない。


 そんなものは和幸でしじみの味噌汁を飲めば忘れられる。


 いつかの美味しんぼのとんかつの話でも話したが、和幸のとんかつ定食についてくるしじみの味噌汁は美味い。酒を飲んだ次の日などにいい。身体に染みわたる。しかもお代わり無料だ。


 もちろんここでも私はツイていない。隣の席のおじさんが行儀の悪い人間で、食事中ずっとスマホをいじっている。何かをブツブツしゃべっている。屁をこく。会計に立つとタイミングが悪く、前に会計待ちの人間が3人も並んでいる。


 でも構わない。これが日常なのだから。


 私の尊敬する人間が言っていた。


「不調こそ我が実力なり」と。


 誰もが好調の時を基準に考える。自分を過大評価する。おれはこんなものじゃない。もっとやれていいはずだと。そう考える。でもそれは間違いなのだ。いいときを基準に考えてしまうと、ずっとツイていないことになってしまう。本当はそこに幸運があるのに気づけなくなってしまう。


 だから最低の状態を基準にしたほうがいい。


 そうすればちょっとした幸運でも喜べる。


 しじみの味噌汁が美味いとか、ただそれだけのことで。



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