7/7 七夕とワンピース
七夕とタナボタって似てるよね。
大昔に七夕をテーマに短編小説を書いた記憶があるが、探しても見つからなかった。きっと捨ててしまったのだろう。わりに気に入っていたのでなんかちょっと残念だ。これに限らず、衝動的に処分してしまって後悔することは結構ある。漫画とかね。たまに読み返したくなってもいつの間にか処分してしまってなくなっているのだ。
まあ漫画って古くなると汚れてくるから、長い間は置いておけないというのがある。いまは電子書籍とかもあるけど、あれを定価で買うのは抵抗がある。ただのデータだし。全部半額とかなら結構売れると思うけど、作者に入るお金のこととかもあるから、なかなか値下げするわけにもいかないのだろう。
漫画と言えば、最近YOUTUBEでワンピースの批評動画を観るようになった。何かのタイミングでオススメにあがってきたのだと思うが、何気なくそれを観てみると、なるほど、と感心させられることが多かった。それはいわゆる批評というよりは批判であったのだが、その指摘は実に的を射ていた。私の他にもそう感じるひとは多かったのだろう、そのチャンネルはいま凄い勢いで伸びているらしい。そのチャンネルの名前は『なべおつ@ワンピースがつまらなくなった理由』という。
一般的に批判というのは褒めるよりも簡単で、書評家とかが偉そうに小説や漫画を批判することはよくある。完璧な作品なんてものは存在しないし、どんなに素晴らしい作品であってもケチをつけようと思えばいくらでもつけられる。自分に理解できなければ「わかりづらい、表現が難解」と言えばいいし、展開が速いと感じれば「性急すぎる、描写が足りない」、遅いと感じれば「冗長で退屈、テンポが悪い」と言えばいい。要は評論する側の匙加減ひとつなわけだ。
しかしこのチャンネルの指摘は違った。それは単なる批判のための批判ではなかった。ダメ出しに明確な理由があった。的確に言語化されていて、納得感があった。みんな心の中では薄々思っていた。
最近のワンピースってなんかつまんないよな……?
最近と言ってももう10年以上前からかもしれない。いわゆる『2年後』のあたりから、明らかにおかしくなった。なんかキャラの性格がブレまくってるし、絵は雑になったし、説明口調が増えて会話が成立してないし、モブはずっと騒いでるし、誰も彼もすぐに泣いて鼻水垂らすし、全然ウケてないつまらないギャグを連打してくるし……
私も惰性でコミックスを買ってはいたが、『ワノ国編』でさすがに見限った。みんなモヤモヤしていたのだ。つまらないけど、国民的漫画だし、つまらないと言い出せない空気があった。このチャンネルはそういった人々に光を与えてくれたのだ。
このチャンネルの何がすごいって、1話ずつ批判していくわけだけど、それが1時間とか2時間とかあることなのよ。すごいのよ。熱量が。なぜかというと、この人は元々はワンピースの大ファンだった。それが駄作になったことが許せなくて、反転アンチになった。だからこその熱量。上っ面ではない、心の底からの怒りが溢れている。悲しみが溢れている。そういったものに触れるとやはり感じ入るものがある。あらゆるものは衰え、腐敗していくという厳然たる事実。そのことを思って居たたまれなくなる。
ワンピースに限ったことではない。長く続いているものはいつかは駄目になっていく。それは人が作るものである以上、避けられないことなんだろう。私も40年以上生きてきて、いろんなものが駄目になっていく過程を見てきた。「絶対権力は絶対に腐敗する」という言葉があるが、政治が腐敗するのはよく知られているけど、エンタメだって同じように腐敗していく。
漫画なんて100巻を超えればどうしたってクオリティは下がっていく。新人作家は大作家になり、編集も口を挟めなくなっていく。漫画界の天竜人となった尾田先生に誰が意見できる? できるはずがない。結果、好き勝手描いて整合性を失った話が何の修正もされずに発表される。話は破綻し、キャラは崩壊し、一話単位で矛盾を生み出し続けてもう取り返しがつかない。出版社からすれば売れれば内容はどうだっていいんだろうけど、昔からのファンはそれは悲しむだろう。
だから批判っていうのは愛ゆえなんだよね。作品を愛するばかりに批判せざるを得ない。興味がなければ関わらなければいいわけで、それができないのは深い愛情があるから。声を上げることで改善されるのではないかというはかない望みがあるから。そのことが何とも言えず悲しいですよね。
今日は七夕。
天の川では織姫と彦星が離れ離れにされているわけですが、尾田先生とファンの関係も似たようなものかもしれない。ファンの声はもう尾田先生には届いていない。せめて年に1回でもその声が届く機会があればいいなと思う。本当にそう思う。