8/7 短編についての解説1
このサイトに上げた短編を昨日ざっと読み返してみた。
長編は普通いろんなテーマが密接に絡み合っているものだが、短編というのは大体ただひとつのテーマなりアイデアなりでの一点突破という感じで作られることが多い。私の短編もそうだろう。自分でもよくわからないのが小説の厄介なところだが、恐らくそうだろうとは思う。
『短編と呼ぶにはあまりに短くて』はショートショートに毛が生えたような長さのものを短編集としてまとめたものだが、それについての解説を少ししてみようと思う。
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EP1『マッチョ売りの少女』
これは私が20年くらい前に書いたものに手を加えたものになるのだが、このときはマッチョは流行ってなかったんだよ。ジャニーズ系の細いのが主流でね。ゴリゴリのマッチョは嫌われていた。でもそれから時代は変わってジムがすごいブームになって、みんな筋トレ始めちゃって、私がこの小説で予言したとおりになって、逆に小説としては時代に合わないものになってしまった。
『人々は移り気なものだ。いつかまた、マッチョが人々の好みに合う時代がきっとやってくるさ』
駅員さんの言葉が身に染みるね。
時代は移り変わり、人々の嗜好は変わる。それがテーマなのかな。
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EP2『やがて失われる世界』
これは大学時代mixiに書いたやつじゃないかなと思う。
若さゆえの熱みたいなものが感じられる。
文章もちょっとカッコつけてるけど、いま読んでもなかなかいい文章だ。尖ってる。
『それは命の拍動を告げる血潮のように熱く、私の心を焦がしていく』
なんて今じゃ思いつかないもんな。
『熱くにじむ世界の壮麗さが耐えがたく私の胸に迫る』
とか、若さが溢れてるよね。このころはきっと自然とか世界とかに対する関心がいまよりもずっと大きかったのだろう。
『大いなる変遷のなかで音もなく消えていく名もなき命もまた、世界を形作り、決定づけていく、変化を構成する重要な要素のひとつである。意味なくして生まれる命などひとつもなく、意味なくして失われる命などひとつもない。誰に顧みられることもない野の花のあろうと、その生涯には大きな意味がある』
なんてね、若き日の私はきっと自分を、世界を肯定したかったのだろう。少なくともそういった希望を持っていた。大人になるとそういうものは失われていく。だからこその『やがて失われる世界』なのかもしれない。
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EP3『楽園の終わり』
これは私が初めて薬局に勤めた際、その薬局が2か月くらいで潰れることになって、そのときのことを思い出して書いたんだった。薬局というワードはまったく出てこないから誰もわからないと思うけど。そこは確かに楽園だった。通常の外来患者がまったく来なくて、老人ホームなんかの薬を作る工場みたいなところだった。自由でね。楽しい職場だった。ラジオで爆音で音楽を聴いたりして。まさに楽園だった。でもそういうのは長くは続かない。そのことを書いたんだね。
『いくつもの偶然が重なって、私たちは楽園の住人になった。そしていま、私たちは楽園を追われる。これは必然よ。悲しいけれど、仕方のないことなの』
と語られている通り、楽園というのは私たちの人生においてはほんのわずかな期間だけ、たまたま現れるものにすぎない。それはいつかは消え去ってしまう。だからこそ尊いのだろう。だからこそ瞬間を大切にしなければならないのだろう。私はそのことを経験によって知ったのだ。
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EP4『NHKのおじさんの話』
これは私が初めて書いた短編だったかもしれない。そんな記憶がある。みんなに疎まれているNHKの受信料を徴収して回っているおじさん。彼をなんとかして救おうと考えたのだろう。
『おじさんは大事そうにマドレーヌをひとつ取り出し、食べるのがもったいないとでもいうように、しばらくのあいだ眺めていた。その目にはうっすらと涙がにじんでいる』
マドレーヌがいい仕事をしている。せんべいやおはぎではこうはいかない。
他人に嫌われてもやらなきゃいけないことってあるよね。
『誰かがやらなきゃいけないんです――だって、必要なことなんですから』
おじさんはそれを教えてくれる。
まあNHKがそもそも必要かどうかという議論はさておきね。
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さて、今日は4話について解説した。まだ短編はたくさん残っている。
続きはまた明日にしよう。