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無職日記  作者: 松茸
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7/19 900連休とクレーマー対策

 世間は3連休であるという。


 うらやましい話だ。毎日が休みの無職からしてみれば、もはや休みのありがたみなどわからない。休日というのは働いているからこそ価値がある。自由というのは不自由の中にしかない。完全な自由というのは完全な不自由と同義なのである。


 もう二年半以上休んでいる私は現在900連休以上を消化していることになる。自分で書いてみてワケわからん数字だと思う。なんだよ900連休って。そんなことがありえるのか? ありえるんです。自分でも恐ろしい。このままどうなってしまうのか。私はどこへ向かっているのか。誰もわからない。私もわからない。私はただ粛々と休み続ける。そして日々は続いていく。


 こんな私だが、働いていた頃は休むことに抵抗があった。休みの日でも自分の店舗に行ってしまうくらい休むのが下手だった。こういう人間は結構多い。私の知り合いにもわりといる。仕事人間、というわけではないが、なんとなく心配というか、不安になる。自分がそこに携わっていないと。これは他の人間を信頼していないとかそういう話ではまったくなくて、純粋に自分の心の持ちようの問題なのだ。わかる人には多分わかってもらえる。でもわかんない人には永遠にわからないだろう。


 そんなわけで、私は働いていた頃は完全に仕事を忘れて楽しむということができなかった。いまは何も考えなくていいので楽なような気もするが、何か物足りない気もする。人間というのは面倒なものだ。


 昔、休みの日に店舗から電話がかかってきたことを思い出す。


「薬局で暴れている人がいるんです!」


 私はすぐに向かった。店舗は自宅から歩いて行ける距離なのだ。だが私が駆けつけたときにはもう暴れていた人間はどこかに消え去っていた。幸いなことにうちのスタッフに怪我などはなかった。だが怖い思いをしただろうからしばらく残ってひとりひとりをねぎらった。薬局というのはスタッフに女性が多い。私が休みの日は他のスタッフは全員女性なのである。だからそういう意味でも心配はあった。日本が不景気になるにつれてクレーマーなどが増えてきた時期であったのだ。


 私もいろんなクレーマーを見てきた。


 クレーマーは基本的には高齢男性に多い印象だが、どんな人間でも機会さえあればクレーマーになりえる。大切なのはその機会を与えないこと、こちら側が隙を見せないことだ。丁寧な仕事、プロの仕事を常に行うことが一番の防御策になる。こちらに非がなければ、相手が何を言ってきても堂々と渡り合えるのだから。


 クレーマーの分類でいうと、ネチネチ系は40代以上の男性でそれなりに社会的地位があるっぽい人間に多い。狭い世界で得た立場が社会の外に出ても通用すると思っているタイプで、女性や若い相手に対して理詰めでマウントを取ってくる。これは結構面倒くさいタイプで、お偉いさんが出て行って謝るとすぐに満足して矛を収めるが、現場で解決する場合は彼以上の論理でもって撃退する必要がある。曖昧なことを言うとすぐにそこを突かれるので、正確な知識を武器に論理を構築するといいだろう。


 ガミガミ系は60代以上の男性かな。これは理屈が通じない感情のみで騒ぐタイプで、ひとしきりしゃべらせたらそのうち自分が何に怒っているのかも思い出せなくなる。だから怒鳴っている間は口を挟まないほうがいい。人間ずっと怒り続けることはできない。疲れたところを見計らって妥協案を出してやる。そうすればすぐに飛びついてくる。


 女性のクレーマーなんかも感情系が多いが、これはもう話を聞くことに徹して、共感の態度や心配する姿勢を打ち出していくことが解決の鍵だ。親身な感じで話を聞いていれば最初は怒っていたのに、最終的にはありがとうと言いながらこちらに感謝して帰ることになる。よくわからないが、解決できたのであればまあいいだろう。


 いろんなクレーマーがいるが、その相手をするのは大変だ。だからサービス業で働いている人間はクレーマーの恐怖に怯えているのだと思う。最近でこそカスハラという言葉が一般的になり、強気な対応ができるようになったが、昔はお客様第一で従業員に非がなくてもとにかく謝れという指導をする会社も多かった。社員を守れない会社や上司なんか何の価値もない。そんなところはサッサと辞めたほうがいい。


 無職になれば、誰にも謝る必要はなくなる。

 それがあるいは無職の唯一の利点なのかもしれない。





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