7/18 焼肉とアルファード
焼肉を食べてきた。
私は無職のくせに行きつけの高級焼肉店がある。昔は週に1回くらいの頻度で通っていたが、無職のいまは月に1~2回というところだ。厳しい懐事情が足を遠ざけている。ただ焼肉屋の会計を圧迫しているのは実は肉ではなくて飲み物だったりする。
私は焼肉にはハイボールが一番合うと思っている。そしてハイボールといえば、誰が何と言おうが白州が一番美味い。山崎ももちろん美味いが、これは風味が強すぎて食事と合わせるものではない。その点、白州はすっきりと爽やかで、清涼感に溢れている。料理の味を邪魔せず、むしろ引き立ててくれる。最高の飲み物である。
だがこれが高い。いまは一杯1500円とかする。ふざけているのだろうか? 10年前は800円くらいだったような気がするが、あれよあれよという間にこんなに高価になってしまった。
私も昔はどこの居酒屋に行っても白州があればそれを頼んでいたが、こんな高級品になってからは大人しくレモンサワーを飲んでいる。無職にはレモンサワーで十分だ。あるいはそれでも贅沢すぎるくらいかもしれない。ただ焼肉の時だけは白州を飲む。昔より飲む量も減ったから、このくらいは許してもらえるだろう。
最近は何もかもが高価だ。
もちろん価値に見合っていればそれは構わない。だが価値とは結局はイメージにすぎないのかもしれない。ディオールの44万のバッグの原価は9200円だというニュースがあった。とんでもない差額を取っているわけだが、それでも人々が買うのはそこに値段に見合った価値を見出しているから。それはブランドイメージのなせる業だろう。
ハイブランドは自社のブランドイメージを守るためにすごく気を遣っている。ヴィトン、エルメス、シャネルなどはアウトレットでは売っていない。安売りするとブランドイメージに傷がつくからだ。商標権侵害、模倣品販売に関しては積極的に訴訟を行う。なかには無茶な訴訟もあるが、勝ち負けは二の次であり、これはブランドイメージを守る姿勢を示すために行っているのだ。このようにしてハイブランドは商品が高価であることに納得感を与えている。
企業の利益追求とブランドイメージの保護を同時に行うのは難しい。最近そう思ったのは車のアルファードの話を知ったからだった。私はペーパードライバーなので車にはまったく詳しくない。だがアルファードが人気であることは知っていた。いかつくて高級感がある。だが値段はそこそこする。一般人が簡単に買えるようなものではない。
一括で買う金はないが、アルファードに乗りたい。
そんな車好きの夢をかなえるのが残価設定型クレジット――通称、残クレである。これは購入時に数年後の残価(残存価値)を設定して、残価を除いた金額を分割返済するローンのことである。要はリースみたいなもので、ローンを払い終えてもまだ車が自分のものになるわけではない。だが月々安い費用で憧れの高級車に乗ることができる。巷でアルファードに乗っている若い家族をよく見かけるのはこれが理由であるという。
もちろんこれには落とし穴がある。月々の走行距離や車の状態には制限がかけられており、追加料金が発生する可能性がある。契約満了後に残価を支払えなければ車を手放すことになる――残クレで車を買う人間が何百万という残価を一括で払えるわけはないので、大抵はそうなる。
要は見栄のためにお金を払っているようなものなのだが、それもこれもアルファードが高級車である、かっこいい、というブランドイメージがあってこそのもの。しかしいまはアルファードといえば「残クレ」のイメージが根強くついてしまって、ブランドイメージは地に落ちている。
いまアルファードを見てもうらやましいと思う人間は少ないだろう。なんかマイルドヤンキーが無理して乗ってる車でしょ、というイメージが先行してしまうのではないだろうか。
これがブランドイメージを守ることの難しさだ。販売店は利益のために残クレを勧めるのだが、その残クレのためにブランドイメージを落としてしまう結果になってしまっている。
でも、本当に好きならそんな背景を気にせずに乗ればいい。
それが真の車好きというものではないだろうか。
白州だってそうだ。高価な金額を支払ってもそれを飲むのは、それが稀少であるからではない。高級感があるからではない。ただ美味いからだ。というわけで私は白州を飲む。1杯1500円でもやむを得ない。でもやっぱりちょっと……高すぎるかなあ。白州を値下げすることを公約に掲げる政党があれば、一目散にそこに投票するのだが。残念ながらそういった政党はまだ現れてはいない。今後に期待だ。