7/17 トリイさん
今日はトリイさん(仮名)に会う。
トリイさんは私の友達というか、知り合いというか、顔見知りなのだが、非常に興味深い人物だ。年齢は35歳くらいだ。雀荘で働いている。休みはほぼない。雀荘で働くのは大変だ。麻雀で負けると自分持ちになる。だから負ければ負けるほど給料がなくなっていく。勝てば増える計算だが、そうそう勝てるものではない。大抵は負ける。それもこっぴどく負ける。だから雀荘の店員は大体金がない。そのへんは無職と同じだ。
トリイさんはイケメンである。鼻筋が通っていて、シュッとしている。目もキリッとしている。男前である。スポーツマンでもある。昔はバスケでちょっとしたものだったらしい。プロ選手にも知り合いがいるとかいないとかという話だ。ダーツも上手いらしい。こちらも大勢のプロと知り合いというまことしやかな噂がある。まさに完璧超人といった感じだが、不思議なことにあまり女性にはモテないらしい。これは千葉の七不思議のひとつである。
トリイさんの唯一の欠点は語彙力が壊滅的なことだ。恐らく私の五分の一くらいしかない。まあ私がトリイさんに勝てるのは語彙力くらいのものなので、あとはすべて完膚なきまでに負けていることを考えれば、トリイさんにとって語彙力がないことくらいは大した問題ではないだろう。
めちゃめちゃ、という言葉をめちゃめちゃ使う。
ひとつの文章のなかで2回使うこともある。画期的だ。なんかめちゃめちゃヤバくて~めちゃめちゃヤバいんすよね。このように使う。この場合はヤバいも被っているのでツーペアだ。かなりポイントが高い。ラーメン屋ではつけめんしか食べない。なぜつけめんしか食べないのか訊いてみると、こんな答えが返ってきた。
「なんかつけめんってめちゃめちゃ美味くないすか?」
人生楽しそうで何よりだ。
当然だとは思うが、トリイさんは自分のことが大好きだ。わかる。私も自分がトリイさんだったら自分のことを大好きになるだろう。それは自然の成り行きである。世界中の全員がトリイさんになれば、世界から戦争はなくなるかもしれない。
そんな自分大好きなトリイさんだから、自分語りがやっぱり多くなる。おれがおれが、という感じだ。あだなはトリック(仮名)なのだが、オレックと呼ばれることもある。会話は基本的にあまり成立しない。こちらが投げた球はいつの間にかどこかに消えてしまう。気づけば途中から「おれ」の嵐がやってくる。
私はその嵐の中から話のネタを探す。そのときは面白いと思えるものもある。トリイさんのおれ話をまたひとつ発掘してしまった、と思う。でもそれを誰かに話す段になると、その話の魅力は急激に失われてしまう。「へーそーなんだ」で終わってしまうつまらないよくある話になってしまう。それがとても不思議だ。トリイさんのおれ話は賞味期限が極めて短い。
だから仮に今日ネタを仕入れたとしても、明日日記に書くことはできない。そのころにはもう鮮度が失われている。それがとても残念だ。