表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無職日記  作者: 松茸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/141

11/9 ロレックス

 珍しく朝まで麻雀を打っていたので起きたら10時だった。


 体が痛い。もう歳なのだ、無職は。


 昔は朝まで麻雀を打ってそのまま仕事に行ったりすることもあったが、いまでは考えられない。体力はどんどん落ちてくるし、人間というのは衰える生き物である。


 今日は事前に日記を書いていなかったので、何を書こうか悩んでしまう。酒も入っているから何も考えられない。無職の日常は退屈そのものなので、わざわざ書くこともないような気がする。


 最近は味噌汁をよく作っている。


 リュウジの動画で観たほんだしとこんぶだしを合わせて、味噌を溶くだけの簡単なものだ。大根はえらい食べ物で、半分くらい買っただけでもしばらく持つ。味噌をどのくらい入れればいいのかいつもわからない。味見をしても、どれくらいが適量なのか判断できないのだ。舌も衰えてきているのかもしれない。


 猫のトリミングサロンの動画をよく観る。


 猫の毛を切るなんて考えたこともなかったけど、そういう仕事もあるのだ。長毛の猫を短毛みたいにしたり、恐竜みたいなデザインカットなどもあったりする。尻尾の形も変えられたり。世の中にはいろんな仕事があるものだ。


 ロレックスの創業者についての動画を観て久しぶりに泣いてしまった。とても感動した。


 ハンス・ウィルスドルフという人だ。


 人々は時計を買っているのではない。時間を買っているのでもない。信頼を買っているのだ。約束を守るための道具を買っているのだ。若きハンスはこのことに気が付いた。誰も腕時計などしていなかった時代に、誰もが腕時計をする時代が来ることを確信していた。時間を守る道具が嘘をついてはいけない。彼が徹底的に精度にこだわったのは信頼のためだった。人々の約束のためだった。時計は単なる機械ではない。人生の羅針盤なのだ。彼は決して妥協しなかった。利益のために品質を落とすことをしなかった。


 彼は教育支援や社会貢献のための財団を設立した。そしてロレックスの全株式を財団に移譲し、数十億ドルの個人資産のすべてを財団に寄付した。彼はすべてを手放した。彼は知っていた。所有は幻想であることを。何も持たないものこそが真に豊かであることを。ロレックスが独立性を保ち、高い品質を維持し続けているのは株主に配当を支払う必要がないからだ。利益のために妥協する必要がないからだ。だからこそロレックスは最高の時計ブランドなのである。


 私も時計が好きでロレックスを何本か持っていた。いまは一本しかない。だが一本あればそれで十分だ。時計はただの道具ではない。それは哲学を形にしたものだ。信頼と約束のためにそれはある。


 無職がいくら生活に困っても、この最後のロレックスだけは売らないようにしよう。


 改めてそう誓う無職であった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ