第九章 画家の魂などというもの
"夜は、さらに深まっていく。
生活の雑事を手際よく片付け、上杉唯が車椅子に乗ってバスルームに入るのを見送る。
「気をつけろよ」
「分かってるってばー」
普通の人が考えるのとは少し違うかもしれないが、両足が不自由だからといって、生活が全く自立できないわけではない。慣れてしまえば、特製のシャワーチェアが、障害を持つ人でも一人で入浴を済ませるのを助けてくれる。車椅子に八年も乗り慣れている上杉唯にとって、それは難しいことではない。
ただ、このチビは見た目がひどくか弱い。朝夕一緒に暮らしていなければ、彼女が日常生活をほぼ自立してこなせるとは信じられないだろう。
上杉信は壁に半ば寄りかかり、首を振ってすぐにバスルームの前から離れた。彼はリビングへ向かう。唯がいない間に、【フォービドゥン・イラストレーター】の効果を試してみるつもりだ。
この二枚のカードを引き当てて以来、彼は、これらが生活の中でどう使えるかを考えていた。
正確に言えば、どうにかして金儲けに繋げられないか、と。
先ほどの【マインドキャッチャー】の試用は、やや波乱含みだった。だが、カード自体の効果は否定できない。読心術は、どんなにショボくても人心を操る力だ。真偽を見極める手助けをするにせよ、秘密を探るにせよ、大きな役割を果たせるだろう。
だが、一つ問題がある。この能力……どうやって金にするんだ?
カジノへ行く?
たとえギャンブルを知らなくても、読心術があれば、ブラックジャックでは絶対に無敵だろう。誰も止められない。だが問題は、俺の読心術は60秒しか持続しないことだ。三画の令呪を全部突っ込んでも、せいぜい180秒。そんな時間で、何が賭けられるっていうんだ?
ビジネス交渉、セールスチャンピオン、パパラッチになってスターのゴシップを掘り下げる……一系列の、めちゃくちゃで突拍子もないアイデアが、流星群のように脳内を駆け巡った。だが、それらの流星は、例外なく全て、最後に墜落した。
時間制限があり、しかも令呪のように回復を待たなければならない読心術は、実に役に立たない。
こいつは、どうやら本当に、恋愛を補助するためのアイテムカードらしい。肝心な時に、意中の少女の心を読めたら、そりゃもう大変なことになるだろう?
仮に、恋愛が壮大な勇者対悪竜の戦いだとする。村一番の鎧と剣を装備し、一番の馬に乗って意気揚々と悪竜に突撃する。だが相手は火炎放射一発で、人馬もろとも黒焦げにしてくる。
攻略情報を見ると、すぐに驚愕する――『このクソドラゴン、どのイカれた奴が設計したんだ? ちょっと掠っただけで勇者のHP半分持ってかれるし、火炎放射の余波で即ゲームオーバーとか。しかもドラゴンがクソ賢くて、こっちが進めば退がり、退がれば進む。ゲリラ戦術の神髄を心得てやがる。明らかに、丸呑みにする気満々じゃねぇか』。
痛い目に遭って反省し、秘技コマンドの導入を決意する。『グウェン様は影響を受けない』。これで、悪竜の火炎放射は毎回Miss。ドラゴンがキレて大文字焼きを放ってきても、華麗にかわした後、ついでに中指立てて煽ることさえできる――『馬鹿め! こっちにはチートがあるんだよ!』
だが、それも恋愛限定だ。
「それなら、俺に5秒間の時間停止をくれよ」
俺は即座にこめかみに指を当てて「ハイ!」と叫び、振り向きざまに自分で自分に黄色いマントを手作りして、世界征服の準備に取り掛かるだろう。
読心アイテムカードは、一時的に冷宮送りとなった。そうなると、上杉信の視線は、自然と、新たに仲間入りした『画貴人』へと向けられる。
「ライトノベル・イラストレーター、か」
上杉信は幼い頃、ドラゴンボールやワンピースなどの大ヒット作を模写したことがある。子供の学習能力が高いからか、彼の模写はなかなか様になっていた。両親はそれを見て、抱き上げてはキスを繰り返し、「将来の大画家だね」なんてからかったものだ。
だが、大画家という夢は、結局のところ両親の口先だけの冗談に過ぎなかった。上杉信は絵を描くこと自体には、実は興味がない。ただアニメが好きで、中二病だっただけだ。もう少し大きくなると野球が好きになり、結局、美術を本格的に学んだことは一度もなかった。
当然、家にはペンタブレットも液晶タブレットもない。
テレビ台の引き出しから白い紙を数枚取り出し、さらに鞄の文具入れから鉛筆とサインペンを同時に取り出す。極めて粗末な画材だ。鉛筆に至ってはシャープペンシルで、芯を入れたらあとは適当に使い捨てる。
俺は維新派(?)だ。いかなる芸術家の魂も必要としない。
大イラストレーターへの第一歩が、今、幕を開ける!
やや儀式めかして手にしたサインペンをくるりと回し、白い紙をしばらく見つめた後、しょんぼりとシャープペンシルに持ち替える。これで少しは難易度が下がるだろう、と考えた。
だが、いざ描こうとすると、上杉信は困ってしまった。カードの「∞」の使用回数をちらりと見る。このカードは所持しているだけで効果が発動するはずだが、どうも実感が湧かない。ペンを持っても、相変わらずの下手くそだ。試しに、我らが太子様(※)の顔を描いてみると……うわっ! 上杉信は消しゴムで力任せに消し、この邪神が世に現れるのを阻止した。
彼は再び真剣にカードの説明を読み始めた――ライトノベルのイラストでなければならず、さらに兄妹テーマのシスコン・ライトノベルならボーナスが倍増する、と。
「ちっ、お前の悪趣味は、下水道のウジ虫みたいで、まったく同意しかねるな、愛ちゃん」
口では嫌がっているが、体は正直にスマホを取り出し、文庫サイトで現在人気のライトノベルを検索し始める。
「転生したら金狼……ちっ、お前に決めた」
ライトノベルを選び、適当にいくつかのシーンを流し読みする。すると上杉信は、脳内に微かな「振動」を感じた。その振動はどこからともなくやってきたが、まるで電流のように彼の神経を駆け巡り、何か玄妙な感覚を彼に注ぎ込んだ。
「……いける、のか? これ」
イラストレーター。
定義としては、イラストレーションを職業とする人。主な仕事は、書籍、雑誌、新聞、説明書、小説、教科書などの出版物のためのイラストや表紙を描くこと。また、グリーティングカード、ポスター、広告、スプレーアート、ユーモア画なども手掛ける。
イラストレーターの範囲は極めて広く、ライトノベルのイラストだけにとどまらない。上杉信の能力ボーナスは「ライトノベル」に限定されており、「ライトノベル」の内容しか描けない。
表紙、キャラクターデザイン、背景、戦闘シーン、イベント、お色気シーン……「ライトノベルのテキスト」さえあれば、彼はそれらのテキストに基づいて、様々なスタイルの絵を創り出すことができる。
「愛、お前の限界を見せてみろ!」
上杉信はシャープペンシルを握りしめ、さっき読んだライトノベルのシーンを思い出しながら、次第に目を伏せていく。
道具の粗末さは、彼の目にはもはや何の障害でもない。彼の脳内には、まるで冷たくて儚い粉雪が舞い始めたかのようだ。思考もまた、海面下に沈んでいく。微かな光が海面を通して差し込み、それに伴って冷たく澄んでいく。
瞳には、平穏な静寂が宿る。その粉雪は、タンポポの綿毛のように、彼の肩に舞い落ちた。
刹那、驚異的な技術、これまで全く知らなかったのに、この瞬間、完全に理解し融合した無数の知識と経験が、まるで彼を飲み込もうとするかのような恐ろしい勢いで押し寄せてきた。
そして彼は心の海を開き、その止められない津波を、果てしなく広がる精神の下で鎮めた。
上杉信は没頭していた。まるで蝶が花の蜜に身を委ねるように。ほんの一口試しただけで、甘い蜜が彼の心を完全に虜にし、彼は花の上にうっとりと身を伏せ、外界の全てを忘れてしまった。
人間の絵師では到底追いつけない驚異的なスピード。一本一本の線は、修正の必要がないほど正確。刷刷刷と、まるで雨だれのように降り注ぎ、傍観者には「これは絵を描いているんじゃない、プリンターが化けたんだ!」と疑わせるほどだ。
お前、チートだろ!
たとえ半人半馬の白い悪魔(※プッチ神父のこと)が全世界を加速させようとしても、上杉信には世界崩壊前に原稿を提出する自信がある!
――終わった。
全く人間業とは思えないスピードで、極めて短時間のうちに戦闘は終了した。
上杉信は長く息を吐き、自らの作品を鑑賞する。
憎むべき顔つきの雄大な地竜は、腹部に裂けた傷口を見せ、ほとんど腰斬りの状態で地面に倒れ伏している。横顔が端正な少年は革鎧を身にまとい、巨大な剣を手にしている。隊商の少女は驚愕に満ちた表情で、理解できない様子。まさに、小説の中で金狼とそのヒロインが出会った、あの場面だ。
怪物は獰猛でありながらも中二病的な威厳を失わず、背景はややぼかされており、まだ詳細には描かれていない。
だが、主人公とヒロインは精緻に描かれており、濃厚な二次元の美男美女風だ。
クオリティは、すでに合格ラインをはるかに超えている。
一流のイラストレーター……上杉信はこのイラストを見つめながら、なんだかぼんやりとしていた。
「一流、か?」
これが、一流のイラストレーター?
上杉信は、まだ何かが足りないような気がしていた。
以前の彼なら、気づかなかっただろう。
彼は、何の画力も学んだことのないただの一般人だ。絵画の分野では、ひよっ子以下。美術を少しでも学んだことのある芸大生なら誰でも、彼を吊るし上げて打ちのめせるだろう。当然、プロの審美眼など持っていない。
だが今、上杉信はシャープペンシルを握りしめ、イラストレーターカードが与える悸動を感じている。頭に叩き込まれた知識と技術は、この瞬間もなお存在し続けている。彼の瞳には、一瞬の迷いが浮かんでいた。
全ての技術が融合し、彼の画力は機械のように正確無比になった。几帳面なもの、奇抜なもの、天馬行空なものなど、あらゆる構図や画風を自在に切り替えられる。そのボーナスは、彼に自由な変換を可能にさせた。
例えるなら、もし画家に六角形のステータスグラフがあるとしたら、彼は速度が突出していて、他の数値が7で維持されている、変異型の六角形戦士のようなものだろう。速度を除けば、世界には間違いなく、ある特定の分野で彼より優れた人間がいる。だが、彼の強みはオールラウンダーであること。そして、あらゆるスタイルを使いこなせることだ。まるで、それぞれの分野で数十年間研鑽を積み、生涯を絵画に捧げてきたかのようだ。
この境地にあって、彼は筆下の作品を見つめ、ふと気づいた。この精緻な絵には、あの極めて重要な部分が欠けている、と。
彼の絵には、魂がない。
あるいは……彼の内面には、何の感情の波もない。
彼自身にすら、何の感想もないのだ。
まるで、食事や水を飲むのと同じくらい簡単な作業を終えたかのようだ。喜びもなければ、感動もない。
一流のイラストレーターとは、一体何を意味するのだろうか?
一流と称されるには、技術以外に、その個人的なスタイルもまた、頂点を極めている必要があるだろう。写実的で繊細なもの、ミニマリズム、天馬行空な想像力……。全てのイラストレーターには、それぞれ得意な分野があり、彼ら自身のインスピレーションと魂がある。
では、俺は何だ?
高度な技術を備えた、無情なプリンター。
イラストレーターカードは、俺に必要な技術と経験を与えてくれるが、魂までは与えてくれない。
俺は、ライン作業のように、ライトノベルのテキスト描写を絵の形で再構築できる。だがそれは、頭の中から適切な技術を選び出して、素早く印刷しているだけだ。俺は、千年間イラストを描き続けて、心が鉄のように冷え切ってしまった、感情のないライン作業そのものだ。
「まあ、売る分には問題ないか」
上杉信は呟き、手の中のシャープペンシルが音もなく回転し始める。
無意識のうちに唇を舐め、あの追加の説明文――『兄コン・妹コン要素のあるライトノベルに対しては技術力ボーナスが倍増する』――に目を向けた。
……これは、愛ちゃんの限界じゃない。
通常時の技術力補正ですら、俺をこの境地に至らしめた。ならば、技術力ボーナスが倍増したら、一体どんな景色が見えるのだろうか?
上杉信は心の中の好奇心を抑えきれず、指が『妹コン』タグに触れるのを少し躊躇った。やや後ろめたそうにリビングの入口を一瞥する。上杉唯の入浴はいつも長い。まだバスルームから出てきていない。
彼は深呼吸し、我慢強く、いわゆる『妹コン』ライトノベルを読み始めた。
奇妙なことに。
彼がライトノベルを読んでいる間、技術力のボーナスはずっと有効だったが、今回の閲覧は、以前とは少し異なっていた。
もし以前が、ただライン作業のように来るもの拒まず、どうせただの文字なのだからどう描いても構わない、という態度だったとしたら、今回は彼のインスピレーションが、かすかに騒ぎ始めていた。特定のテーマの小説を読む際には、鮮明な個人的批判の色合いを帯び、中にはタイトルだけで捨てられたものさえあった。気に入らなければ、クリックする気さえ起きない。
そんな中、一冊の、まだ文字数が少なく、連載中のライトノベルが目に留まった。
『世界でいっちばん可愛い妹!』
なんとも幼稚なタイトルだ。口に出せば、腹を抱えて笑われるだろう。一体どこのキモオタの妄想作なんだ、と批判したくなる。
作者IDも見てみる。
「我は迫りくる嵐なり……なんだこの名前?」
はっ、やっぱりただのクソ中二病か。
上杉信はクリックして、少しだけ読んでみた。
物語は、両親を亡くしたある家庭の話。
兄コンの妹は幼い頃に重病を患い、その結果、家に引きこもり、部屋のドアから一歩も出ようとしない。普段、兄と話すときでさえ、ドア越しだ。一方、主人公である兄は、情熱的で明るく、ハンサムで、バイトで家計を支え、自分では普通だと思っているが、実はシスコンであることを認めようとしない、完璧な兄。
途中には、お約束の幼馴染や、天降りの美少女、転校生の小悪魔、あるいはツンデレロリなどのエピソードも挟まれている。
ぱっと見は、この初心な作者がハーレムものを書こうとしているのかと思うだろう。だが、よく読んでみると気づく――ちくしょう、作者本人が、ゴリ押しで兄妹カップリングを進めているじゃないか! 本当に、規制の神の爪を恐れないのか!
上杉信は息を呑んだ。本当に妹がいる人間として――たとえ義妹であっても――彼はこの手のテーマには理解が追いつかない。
いいだろう、兄貴。お前がいつ編集者に平手打ちされ、規制の神に打ちのめされて、兄妹から義兄妹へと設定変更させられるか、見ててやるよぉ~。
初心の妄想力も、なかなか豊かじゃないか。
よし、これに決めた。こんなにも変態的な兄妹力が溢れ出ているなら、イラストレーターカードが騒ぎ出すのも無理はない。
上杉信は眉をひそめ、目を凝らし、シャープペンシルを颯爽と振るう。その瞬間の気迫は、まるで金猴が棒を振るうかのようだ。空全体が静まり返り、まさに天啓を得たかのような、豁然とした開眼。
この一筆は、神がかっていた。理性を打ち砕かんばかりの強烈なインスピレーションの閃光が、狂ったように明滅する。もしさっきの絵が、生命のない石ころだったとしたら、今の彼は、その石ころを打ち破り、師に学びし後の孫悟空だ。金箍棒を手にした瞬間、海をかき回し、川をひっくり返し、最後に傲然と大笑し、振り向きざまに次の舞台、天宮での大暴れへと、雲に乗って飛び立っていく!
上杉信は、描き出した。
彼自身の心の中にある、あのインスピレーションと衝動が、まるで神来の一筆のように、蒼白な画用紙の上に点描されていく。
少年の瞳には、全神経を集中させた光が煌めいている。その意気軒昂さ、その没頭ぶり。瞳の中には、まるで璀璨たる星々があるかのようで、光を失った夜空を照らし出す。
華奢なか細い肩、水のように流れる長い髪。
絵の中の少女は、磁器のように精緻で脆く、まるで燃え尽きようとしている一輪のキキョウの花のようだ。
彼は見ている。
集中し、陶酔している。
絵の中の人物を審視しているのではない。その人物を通して、現実を覗き込んでいるのだ。
ビリッ!
しばらくして、彼は描いたもの全てを消しゴムで抹消し、続けて画用紙をくしゃくしゃに丸めて引き裂いた。紙屑が、吹雪のようにひらひらと舞い落ち、傍らのゴミ箱へと吸い込まれていく。
彼は苛立ちと冷たさの入り混じった声で、短い言葉を吐き出した。「クソッ、全部トラップじゃねぇか」
罠どころじゃない。底なしの深淵だ。
人をシスコンに仕立て上げるつもりか?
上杉唯が、機嫌良さそうにバスルームから出てきた。
車椅子が静かに転がり、上杉信がテーブルの前で物思いに耽っているのを見て、その横顔にふと真剣な色が浮かんでいるのに気づく。
「兄ちゃん、何してるの?」
上杉信は白目を剥いた。「ぼーっとしてる」
上杉唯の濡れた髪を見て、彼は立ち上がり、唯のためにドライヤーを取りに行った。
「ありがと~、さっすが私の良いお兄ちゃん~」少女は甘い微笑みを浮かべた。
上杉信は彼女を無視した。
夜は静かに、水のように流れていく。
上杉信と上杉唯は、主寝室で寝ている。
見渡すと、主寝室のスペースは十分に広い。ダブルベッドが一台、窓際に置かれ、ベッドサイドテーブル、その上のテーブルランプ、収納棚、クローゼット、さらには母親がかつて使っていたドレッサーまで、全てがきちんとここに保管されている。
この部屋は以前は両親が使っていた。親父が亡くなった後、オフクロは唯の世話をしやすいようにと、唯を呼んで一緒に寝るようになった。そして今、オフクロも亡くなり、上杉唯の世話をする人間は俺になった。俺も同様に、便宜のために、唯と一緒に階下の主寝室で暮らしている。
唯はベッドで寝て、俺は部屋で布団を敷いて寝る。
上杉信は部屋に入るとき、無意識のうちに壁に掛けられた写真を見た。その中で一番大きいのは、父と母の結婚式のウェディングフォトだ。
彼らは静かに壁に掛かり、上杉信と上杉唯――息子と、養女を――見守っている。
上杉唯をベッドに運び、このチビに布団をかけてやる。少女はなおも、俺とあれこれと言葉を交わしている。寝る前の会話はかなり長く続くことがある。まるで、彼女を寝かしつけるための子守唄のようだ。
月光がガラス窓を通して室内に差し込む。俺がカーテンを引こうとすると、上杉唯がそれを制止した。
「引いたら真っ暗になっちゃう。信が見えなくなる」
「兄ちゃんと呼べ。兄貴の名前を呼び捨てにする妹がどこにいる?」
「べーだ。信、私は信って呼ぶの! ぷぷっ……」彼女は途中で吹き出した。「なんか、それってアホみたい……」
彼は床の布団を整え、横になる。
床は硬いが、幸い布団は柔らかい。いくらかの心理的慰めにはなる。
寝る前、上杉信はふと一つのことを思いついた。
俺はライトノベルの絵しか描けない……なら、俺自身がライトノベルを書けばいいんじゃないか?
自分で書いて、それを発表する。
読者がいるかどうかは関係ない。俺に必要なのは、ただの踏み台だ。俺はテキストで情景を描写し、そしてイラストレーターカードが付与する画力で……頭の中にある絵のような情景を、複製する。
そうなれば、俺の画力は、もはやいかなる制限も受けない!
少年の目は、ますます輝きを増していく。
「信、寝た?」
「まだ。でも、もうすぐ」
「私もまだだよ」
「早く寝ろ」
「信も早く寝てよ」
「……もういい。おやすみ」
「はーい。お・や・す・みー」
……。
……。
クソが。
午前2時。上杉信は、まだ彼の『ライトノベルとイラストレーター、二つの命魂の覚醒』大計画について考えていた。
興奮しすぎて、眠れない。"