第五章 両親は他界、妹と家はあり
"九月になったばかり。初秋の風が吹き抜けて、ひんやりと心地いい涼しさを運んでくる。
ここ冬雪市は四季がはっきりしていて、九月に入ると気温はすぐに爽やかなレベルまで下がる。夏の蒸し暑さとはおさらばで、おまけに秋に入ったばかりで昼夜の寒暖差もまだそれほどじゃない。まあ、雨と台風が多すぎるのを除けば、欠点のない季節と言えるだろうな。
吉田先生のタグは深緑色だった。
上杉信が職員室を出たのは、15時46分ごろのことだ。
職員室での吉田先生との会話を思い出す。想像していたような厳しい叱責じゃなく、それは年長者から若輩へ、担任から生徒へ向けられる、まあ、心配ってやつだった。
吉田先生は、見た感じカタブツで厳格そうな中年……まあ、『老いぼれ』って表現は間違っちゃいないか。ただ、そのカタブツで厳格な面は授業中にしか見せない。授業後の吉田先生は、どちらかというと俺が苦手とするタイプのお人好し、ってことになる。
「ツイてねぇ……」
今回の話の中心も、授業中の上の空についてじゃなかった。もっとクリティカルな問題――バイトについて、だ。
上杉信は、いわば新世紀のバイト戦士である。
上杉信の少年時代を要約すると、今日までをざっくり八文字で表せる――『両親他界、妹と家あり』。
まだガキで、何も分かっていなかった頃。記憶の中の、とても優しかった眼鏡の男――つまり親父は、交通事故であっけなく死んだ。それからは、机の上に置かれた一枚の写真になった。大事な行事のたびに引っ張り出してきて拝んだり、あるいは何かにつけて線香を上げてみたり。この若さで逝っちまった親父が、残された俺たち家族を守ってくれるようにって祈りながら。
だがどうやら、冥府に入りたての親父には発言権なんてなかったらしい。閻魔様に「ウチを見逃してくれよ」って頼んでも、聞き入れてはもらえなかったようだ。
そんな子供時代が、なんだかんだで二年ほど過ぎた。ムカつくクソ野郎にも出会ったし、深く付き合えるダチにも巡り会えた。だけど、『弱り目に祟り目』とか『泣きっ面に蜂』とか言うように、不幸ってのは重なるもんだ。この片親家庭がなんとかギリギリやっていけるかどうかって時に、俺をこの『地球オンライン』とかいうクソゲーに引きずり込んだ女性プレイヤーは、残念ながらログアウトしちまった。
……このゲーム、マジで面白いな。
まだ小学生だった上杉信は、なんだかよく分からないうちに家の大黒柱になっていた。顔を上げれば両親はもういない。下を見れば、四つ年下の妹がピーピー泣いてる状態だった。
彼女は義理の妹だ。血の繋がりはない。それでも、俺が認めた妹だ。そして、俺の社畜ライフもとい奴隷生活は、こうして幕を開けたのである。
こう言う奴もいるだろう――「え、貯金とか保険はなかったのかよ? 家だってあるんだろ?」って。
そこがまあ、この『不幸体質』の真骨頂ってやつでな。
上杉信の親父は交通事故死だ。だから、確かにウチには保険金が支払われた。だが不運なことに、あの四つ下の妹も事故った車に乗っていたんだ。奇跡的に助かったものの、両足に障害が残っちまった。そして、数年間、身を粉にして家庭を支えてきた母親も、ついに過労が祟って病に倒れ、そのまま起き上がれなくなった。
聞けば、もっと早く医者にかかっていれば治る病気だったらしい。だが、家で倒れてからじゃ、もう手遅れだった。
どんな治療も死を引き延ばすだけ。高額な治療費を払っても、オフクロを引き止めることはできなかった。いや、むしろオフクロは死ぬ間際に自分から治療を諦めたんだ。家に、最後の貯金を残すために。俺と妹が無事に高校を卒業するまで、それでなんとかやっていけるだろうって思ってたんだろう。……だが、その計算は、オフクロも読み違えていた。
元々十分じゃなかった金は、葬式一回でさらに目減りした。まさに雪の上に霜、だ。
上杉信が中学生の頃には、その貯金はもう不安になるほど減っていた。中学の段階で、すでに生計を立てることを考えなきゃならなかった。それに、毎日、家の貯金が減っていくのを目の当たりにする恐怖感と言ったら……何かせずにはいられなかった。マジで気が狂いそうだったんだ。
じゃあ残された家は、って? それも大した価値はなかった。
なんでも親父は若くして才能があったらしく、かなりの実績を上げていたそうだ。事故に遭う前には、家族でタワマンに引っ越す計画まで立てていたらしい。残念ながら、親父は早死にしちまったから、タワマン暮らしを試す機会もなく、俺たち家族は結局、かなり古いこの一戸建てに住み続けるしかなかった。
一戸建てなんて値がつかない。ましてやウチは市の中心部から少し離れてる。この家は、自分たちが住む以外に、ほとんど価値なんてなかったんだ。
それに、家を売って田舎の実家で暮らす、っていう選択肢は……妹の状況を考えたら、本当にどん詰まりになるまで、選べるはずもなかった。
そして、こんな特殊な背景の下、彼の『新世紀のバイト戦士』伝説は、堂々と連載を開始したわけだ。
中学の頃から部活は辞めて、学校に通いながらバイト漬けの日々。高校に入っても、雨宮霧は相変わらず耳元で「なあ、一緒に野球部入ろうぜ」なんて囁いてきたが、俺たち二人の状況を考えろってんだ。一人はバイト戦士、もう一人は怠惰な魔王様(?)。本気で入部したところで、先生にも自分たちにも迷惑かけるだけだ。結局、その話も立ち消えになった。
そして高校一年、バイトを始めて数日も経たないうちに、吉田先生に御用となった。
最初、上杉信は理屈で対抗した――日本の高校生はバイトできるんだ、法律で決まってる。週のバイト時間は28時間以内、一日のバイト時間は8時間以内。俺はバイトしまくりで絶好調、生まれついての社畜体質だ。それに学校も生徒のバイトを禁止してない。だったら担任が口出しすることなんて何があるんだ? ってな。
すると吉田先生はビジネスバッグを提げて、俺のバイト先数カ所を実地調査しやがった。そして結論として、俺のバイト時間が著しく超過していることを突き止めた。
28時間? 誰をナメてんだ? 俺は週末だけでそれをこなしてたぞ。どんな悪ガキだって、俺の働きぶりを見たら尻尾を巻いて逃げ出すレベルだ。
こうなっちゃ、もう何も言えない。
俺の初期の二つ名、『廊下立たされ神』はこうして生まれた。あの頃は夕方のバイトだけじゃなく、時々こっそり夜間バイトにも繰り出していた――これは違法だ。だが、人間、生きてりゃなんとかなる。まあ、収入は少し低かったけどな。
一通りの議論の末、吉田先生は俺がバイトすること自体には反対しなかった。反対したのは、俺が『過重労働』していること。先生としては、俺の学力は悪くないんだから、もっと学業に専念してほしい、と。他の先生からも俺が授業中に居眠りしてるって報告が上がってるらしい。これじゃ本末転倒だ、ってわけだ。
上杉信の返事もまた、簡潔だった――『家計逼迫、御意に沿えず』。
貧乏が、俺の青春の日常を制限していた。俺だって、雨宮霧の提案みたいに野球部に入りたかった。だが、そのことを考えるたびに、三度自問自答する羽目になる――『そこは俺が入れる場所か? 俺に入る時間があるか? 俺に他の部員と遊ぶ金があるか?』
中学の時、俺はさっさと野球部を辞める申請を出したんだ。生活がかかっていなければ、わざわざバイトに出る必要なんてなかったんだから。
俺の家の状況を知り、さらに生活が困難な妹がいることを知った後、吉田先生は完全に黙りこくっちまった。
それ以来、吉田先生と俺の間には、紳士協定が結ばれた。
あの老いぼれ、意外にも『徐々に攻める』ってことを知ってたらしい。最初の要求は厳しくなく、ただ夜21時以降のバイトを辞めろってだけだった。それから少しずつ、この無力な子羊に対して牙を剥き出し始めやがった。学校で俺が困っていると何かと助けてくれ、俺の苦労を常に気遣ってくれた。徐々に、暗示的な方法で楽な単発バイトを紹介してくれるようになり、むしろ俺のために合理的なバイト時間を計画してくれたんだ。
吉田先生が固定の単発バイト先まで手配してくれていたことに気づいたあの夜、上杉信は一晩中、寝返りを打ちながら考え込んだ。
翌日、俺は勇気を振り絞って吉田先生のところへ行き、こう言ったんだ。「先生、もし見捨てぬとおっしゃるなら、信、貴方を義父と仰ぎたいのですが」と。……まあ、この話は実現しなかった。今でも、結構残念に思ってる。
その後、学業成績が少しずつ上がってくると、吉田先生はまた俺に奨学金を狙えと唆してきた。今では奨学金もなんとかゲットできた。高一の奨学金が支給された日、俺のプレッシャーは確かにかなり軽くなった。今の適度なバイトと合わせれば、経済的なプレッシャーはようやく少し和らいだんだ。
ただ、ちょっと考えたくないのは、あの老いぼれが次に何を考えてるかってことだ。まさか、学年トップクラスの秀才や天才たちに挑戦させようとしてるんじゃあるまいな?
あるいは、学園アニメの展開みたいに、俺に部活を押し付けてバランスの取れた成長をさせようとか……いや、それはないだろ? 俺はもう高二だ。高一の新入生じゃないんだぞ。どの部活が俺を歓迎してくれるってんだ?
昔のことを思い出すと、思考はすぐに散漫になる。上杉信は鞄を提げて街を歩きながら、頭の中には職員室での吉田先生の教えが浮かんでいた。
吉田先生は、俺がまたこっそり過重労働をしていると思ったんだろう。俺に対して、口を酸っぱくして何度も忠告してくれた。
じゃあ、俺はどうすりゃいいんだ?
結局、そこで神妙に非を認め、二人の紳士協定はまだ有効だと表明するしかなかった。俺は俺の信用にかけて誓った――授業中は単にぼーっとしてただけだ、真面目に聞いてなかった。家に帰って自分で教科書を数回書き写して、明日、先生に提出します、と。
この大逆不道な言葉を聞いて、眼鏡をかけた中年男の目は殺意に満ち溢れていた……。上杉信は、本気で自分が職員室から生きて出られないかと思った。
だが、吉田先生は結局のところお人好しだった。首を振って俺の罰を免除し、バイトならバイトへ行け、勉強なら勉強しろ、と送り出した。ただし、これから一ヶ月、俺の授業は安穏とはいかないだろう。毎時間、指名されて質問に答える覚悟をしておけ、とのことだった。
上杉信はぺこぺこと頭を下げ、異議を唱える勇気はなかった。
「油断したな……ぼーっとするなら、別の先生の授業ですべきだった……」
どんなに憂鬱でも、いつもの日常は変わらない。
上杉信はLINEを開いてちらりと見た。雨宮霧からのメッセージはない。代わりに、妹からメッセージが届いていた。家の冷蔵庫の食料在庫について報告だ。
これは俺たち二人の習慣だ。家の冷蔵庫には、通常、安い揚げ物を常備している。いざという時のためだ。そして夕食に何を作るかは、家の在庫を考慮して決める。足りないものは買い足し、あるものは余分に買う必要はない。
【今日の夕ごはんのこと。】
【豆腐が食べたい。】
【家に残りの大根と豆腐あるから、味噌汁は心配いらないよ。】
【揚げ物は……】
【野菜、少し足そうか。】
【ブロッコリー! ブロッコリーどうかな?】
家の夕食に、普通、高価な料理は出てこない。妹と相談して、今夜の夕食はすぐに決まった。
上杉信はスマホを数秒見つめた。トーク画面はほとんど唯の発言で埋まっている。兄妹二人の中では、彼女の方が積極的だ。家に閉じこもっているのが、あまりに退屈で、話し相手もいないからだろう。
「ふぅ……」
徒歩で十数分。上杉信は、とあるコンビニの前にたどり着いた。
ガラス窓の内側、棚には商品がぎっしりと並んでいる。店内スペースは広くないが、清潔に整頓されていた。
一人の年配の女性がレジカウンターの後ろに立っている。あれは松香結子さん。俺のコンビニでの同僚だ。
上杉信はこっそり目をやった。隠されたタグが浮かび上がる。浅緑色。味方ユニットだ。
そして、コンビニの冷蔵ケースのそばに、もう一つ、浅緑色のタグが揺れているのが見える。あれは店長だ。
このコンビニは大手チェーンではなく、個人経営だ。店長の名前は高士美希さん。二十代後半の女性で、かなりの美人。旦那さんはどうやら年中出張で、彼女一人でこの冬雪市で店を切り盛りしているらしい。
「あら、来たのね、上杉くん」高士さんが冷蔵ケースの前から立ち上がる。腰から尻にかけてのラインが、なんとも蠱惑的な景色を描き出している。黒の上質なストッキングはひどくタイトで、成熟した女性の色香と魅力をあからさまに見せつけていた。あの忌々しい絹織物は、まるで欲望の柔らかな光を放っているかのようだ。
耐え忍ぶ豊満な美人は、年下の男子生徒に対して超強力な殺傷力を持つ。この魅力は、学校にいる清純な少女たちとは全く別物だ。
だが、この店長はなかなかのやり手だ。入ったばかりの頃、暇を持て余した彼女は上杉信のような年下の男の子をからかうのが好きで、そのせいで俺は今では彼女に対して、ある程度の免疫がついている。
『有容乃大』ってだけだろ?
ちっ、美人も老いればただの骸骨、ってな。
「こんにちは、高士さん」
俺はひたすら従順さをアピールする。呼び方も直接「お姉さん」ではなく「さん」付けだ。これは前に店長から言われたこと。猫を撫でるにも毛並みに逆らっちゃいけない。店長が突然キレて、俺に理不尽な要求を吹っかけてくるのを避けるためだ。
「あらあら、口がお上手ねぇ。ふふ、早く着替えてらっしゃい」
「【高士美希(27)】」
「【魅力:6】」
「【好感度:71】」
上杉信はちらりと見て、それ以上は見なかった。
彼のバイト時間は毎日午後4時半から7時半まで。店長と相談して7時半上がりなのは、家に帰って妹の夕食を準備するためだ。たまにシフトの調整もあるが、店長はもうかなり俺に気を遣ってくれている。
吉田先生に見つかる前は、俺のバイト時間は今よりもずっとワイルドだった。今はだいぶマシになった。週に週末分を均等に割り振って、きっちり28時間だ。
「信くん、今日は早いのねー」松香さんが彼に向かって手を振り、年長者らしい親しみを込めた笑顔を見せる。
このおばさん…いや、お姉さんは30代。家には小学生の娘さんがいる。普段から人当たりが柔らかく親切で、俺との関係も悪くない。
人生、苦いことが多いとはいえ、俺はどうやら、いつも結構いい人たちに巡り会えるらしい。俺が自閉的な暗い犯罪者にならずに済んだのは、シャンパンを開けて祝うべきことかもしれない。
「はい。先に着替えてきます。今日、店は忙しいですか?」
上杉信はてきぱきと従業員室へ向かい、ロッカーからコンビニの制服を取り出す。黒と赤の従業員制服を羽織る。今は気候も涼しくて、半袖でも快適だ。
「忙しいってほどじゃないわよ」二人は二言三言挨拶を交わし、すぐに世間話に移る。「でもね、信くんが来る前にちょっとしたことがあって。女の子がね、タバコを買いに来たのよ……まったく、今どきの若い子はどうなってるのかしらねぇ。見た感じ、すごく綺麗な子だったのに、なんでタバコなんか……」
「売ったんですか?」
「まさか! あんなの、どう見たって高校生よ。制服着た未成年者にタバコなんて売れるわけないじゃない。ほら、カメラだってあそこで見てるんだから」
松香さんは店内のカメラを指差し、さらにレジカウンターの客向けディスプレイを指した。画面には未成年者へのタバコ販売禁止の表示が出ている。
この国では、タバコを買うにはまずこの関門を突破しなければならない。「あなたは20歳以上ですか」という確認だ。年齢を確認して初めて、コンビニからタバコを持ち出すことができる。もちろん、制服姿でタバコを買いに来るような客は、たとえ強引に「はい」を押しても断られる。レジ係だって馬鹿じゃない。どう見たって学生なのに、売るわけがないだろう?
これは法律で決まっている――もしタバコや酒を買った客が20歳未満で、喫煙や飲酒をしているところを見つかった場合、それを販売した店員はクビになるだけでなく、かなり高額な罰金を支払わなければならない。普通なら、数ヶ月分の給料が吹っ飛ぶ額だ。
「もしかしたら、親御さんのお使いとか?」
「誰が子供にタバコを買いに行かせるのよ」松香さんはただ首を振るだけだった。
それもそうか。
俺はタバコが好きじゃない。青春真っ盛りの女子高生の面白い話と聞いて、最初は少し興味を持ったが、タバコが絡むとなると、すぐに想像するのをやめた。
ちょうど交代時間が近づいてきた頃、松香さんがレジカウンターの棚からビニール袋を取り出した。中には箱が入っている。
「これ、おばさんがお昼に焼いたクッキーよ。信くんと唯ちゃんの分も用意したの。お口に合うか分からないけど、よかったら、仕事終わったら一緒に持って帰ってちょうだい」
上杉信は慌てて礼を言う。だが、松香さんが差し出してきたクッキーは二箱あった。
「もう一つは哲也くんの分よ。あの子も、優しくて頑張り屋さんのいい子だから。後で交代の時に、私の代わりに渡してあげてくれる?」
松香さんは従業員休憩室に入っていき、しばらくして戻ってきた。上品なミセス風の髪型に整え、上杉信に手を振って別れを告げる。彼女が学校帰りの娘さんの世話をするために帰るのは、上杉信も知っていた。
これで、コンビニには上杉信と高士美希さんの二人だけになった。
上杉信はレジカウンターの後ろに立つ。午後4時か5時頃のコンビニは、一日のうちの小さなピークタイムと言える。だが、長年のバイトで培われた忍耐力と不屈の精神のおかげで、彼は難なくこなしていた。
壁の時計の針は、規則正しく、断固たる態度で前へ進む。ガラス窓の外の喧騒も、次第に遠ざかっていくようだ。空の色は明るい昼から、燃えるような豪華な夕焼けへと移り変わり、太陽が燃え尽きた後の夕暮れの色は、さらに深い鉛色の雲に取って代わられた。
まだ夜には至らない。夕方の空には、強い日差しはないものの、灰青色の雲の後ろから光がもがき出るように差し込んでいる。夜へと向かう過渡期だ。
客足が、だんだんと減ってきた。
上杉信はぐっと伸びをして、ようやく一息つく。
交代時間まで、あと20分ほど。上杉信は時間を見計らい、この静かな時間を利用して、引き続き彼の『恋愛ゲーム』の研究に取り掛かる。
「【ティップス:プレイヤーの生命の安全を保障するため、特殊恋愛対象をできるだけ怒らせないことを推奨します……】」
特殊恋愛対象?
なんだそりゃ?
ゴジラか? エイリアンか?
それとも、攻撃ヘリだって恋愛対象になるってのか? もしそうなら、是非ともライトニング・トルネード・チョップでも披露してもらいたいもんだぜ。
上杉信は内心でぶつぶつ呟くが、どうにもピンとこない。
まあ、いいか。賢者は恋に落ちない、って言うしな。
それに俺だって馬鹿じゃない。たとえ本当に妖怪変化ゴジラ宇宙人を見たとしても、まさかアホみたいに近寄ってって恋愛しようとするわけがないだろう?
死にたいのか、俺は?
最後に残った四行のテキスト:
「【実績:“幼馴染の愛こそ人類至高の宝!”、“妹のいない人生なんて相対的に失敗でしかない!”】」
「【トレジャー:なし】」
「【恋愛ポイント:2】」
「【ガチャ回数:2】」"