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私の可愛いツンデレ旦那様

作者: 山城 深月

私視点の語りが最初多めです。

とととっ...とスマホの画面を押して、今日が7月5日という事を何度も何度も確認し、ドキドキしながら送信ボタンを押す。

ただただ普通の四文字。連絡をする時に話す事が無い時に限って送る四文字。

それに対して果たして彼が反応してくれるのだろうか?

とドキドキする私はやはり彼の事が大好きだ。

――十年前にした約束さえ彼が覚えている保証がないというのに...


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


あれは夏休み直前の中学三年生の夏。

私のモヤモヤする感情を晴らすために彼に送ったメールから、この不思議な関係が生まれた。

「ねーねー」

「なにー?」

「抱き着いてもいい?」

「!?」

ただ、こんな会話だった。


中学校一年生。

小学生の頃からの腐れ縁で、仲が良かった私と彼は、受験先の中学校でも何とか会話は出来るレベルで過ごすことが出来ていた。大体の男女は中学生や高校生で壁が出来ると聞いていた私にとっては凄く安心することだった。


――安心...?


何故、安心するのだろうかとその時に不思議に思った私は、彼に何度も話しかけてはこの感情を探っていた。だが、彼は会う度会う度に塩対応を行い、私から声をかける気力というものを奪っていった。

夏期講習で電車が同じになり「やっほー! 一緒に行かない?」と声をかけたにも関わらず、彼はふいっと他の方向を向き、電車へと無言で乗って行ってしまった。私は悔しくなり彼の鞄を少し掴んで一緒に乗ったのだが、「何してんの?」と冷たい言葉で突き放されてしまった。あの時の冷たい眼光は今になっても忘れる事ができない。今すぐどこかに行けと言わんばかりの眼光に少したじろいでしまったが、彼にしつこく着いていった。電車の四人掛けのボックス席に座ったが、隣に座ると反対側の対角へと動かれてしまった。やはり、私のことを嫌っているのだとガッカリし、その日は憂鬱な気持ちで夏期講習へと向かった。

その日にサッカー部の男子にこう言われた。


「サッカー部で君の名前は禁句になったから――」


目の前が一瞬で暗くなったのを覚えている。

出口も入口もない真っ暗な空間に思い切り突き落とされたような気持ちへと陥った。そして、同時に私と彼の腐れ縁も途切れてしまうのかと絶望した。

彼にその理由を問いただすと、「僕が君の事を嫌いで、君の名前を耳にするだけでも耳障りだからだよ」と言われ、何だったんだろうかと再び絶望した。私の"彼と一緒に居て楽しかった"という感情は一方的なもので、彼は退屈で、辛くて苦しかったのではないかと、私が苦しめていたのではないかと感じた。

彼を苦しめないために、私は距離を置くことにした。

彼は夏期講習に私の通っている塾へ来ていただけで、塾生ではないので接点はもうなくなるだろう。クラスも違うから関わらなくて済むはずだ。人を無意識のうちに傷付けずに済むと自己満足感と心の中にある大きな喪失感に襲われて一年間を過ごした。

得意だった勉強も手に付かず、学年の下から数えた方がいいような順位。

得意科目さえも学年の半分より少し上という始末。

苦手科目はほぼほぼ最下位。

せっかく受験してまでも入ったのにこの様はなんだ?と自分でも感じられる程に自分は堕落していた。これは始まりにも過ぎなかった。


中学校二年生。

彼に極力関わらないようにと一年間過ごしたため、夏期講習以外の講習会でも目線さえ合わなかった。私はわざわざ一本二本早い電車に乗り、彼と絶対に会わないように努力した。

一度だけ鉢合わせたことがあるのだが、彼は気付かないまま終点で降りた。

私は今でも関わらないようにとしたことを引き摺っているのだと後悔していたのだと気づいた。「私だけ意識して馬鹿みたい...」と口からするりと言葉が漏れ出た。二年生の夏期講習。もう時間はないからこそ、私自身の気持ちに気付くべきだと言い聞かせた。だが、無理だった。

学校ですれ違う度に目を逸らして視界に入らないようにする。それが私にとってどれだけ苦痛であったか、そしてどれだけ幼稚臭かったことか...

――季節は過ぎ去り秋になった。

20XX年11月20日、私は幻覚を見た。塾に居るはずのない彼が塾に居た。塾の講師に声をかけると「彼?今日から塾に通ってくれるらしいんだ、小学校六年生ぐらいの時からずっと来てくれてたからやっとか...って気持ちが強いな」と講師は話した。

嬉しさと驚きで感情が混ざり合い、筆箱を漁って中から付箋を取り出して「幻覚?」と書いて、彼が教室を出て行った隙にテキストに貼り付けた。その日は塾自体はなかったので、そのまま電車に乗って帰ったのだが、運が良いのか悪いのか彼も同じ電車で偶然帰っていた。

最寄り駅に着き、電車を降りると、彼が視界に映り込んだ。約一年ぶりに視線が合い、自分では分からなかったが、顔が途轍もなく引き攣っていたのではないだろうか?

私は何を言えばいいのか、気まずさから逃げ出し、駅前の自転車置き場へと向かった。「おかえり」という声に「ただいま」と返し、自転車に乗って走り出すと彼がこちらへ走ってくるのが視界の端に映った。


――流石サッカー部。


そう思える程に速かった。自転車の私に追いつき、何かを籠に入れた。直ぐに踵を返して戻って行ったが、籠の中には紙切れが入っている。

「幻覚じゃないよ」

そう一言だけ書いて在った。

彼自身との会話ではなかったが、それだけでも嬉しかった。

家に帰ってその紙切れを何度も読み返し、何度も何度も喜びを噛み締めた。

塾がある日に席替えを行うと、彼と私は教室の扉を丁度挟む形で最後列になった。

授業中に起きる扉開け閉め戦争――

扉を閉めたい私vs開けておきたい彼――

毎回毎回、私が心を折ってしまい勝てた事がない。

だが、席が後ろでドアの閉め合いしてる時も、君と関われてる事で楽しかった。

多分、そんな事を君は知らずにしているのだろうなと思いつつ...今更君への感情に気付く。友達とか仲が良いからという感情だけではなく...


君の事を、"好き"だという感情に気付く。


彼に私の気持ちを伝えることが出来ぬまま、また月日は流れる。冬期講習も春期講習でも接点がなく、中学校生活最後の最終学年...三年生...受験学年になってしまった。


中学校三年生。

塾の日が週二日から週四日に増え、彼の顔を見る時間も日数も増えた。

だが、席が私の方が前なので、授業中に見る事が出来ない。もどかしいが、あまり見ていると先生によそ見していることに対して突っ込まれるので面倒くさかった。

四月、五月、六月と月日が流れた。

久しぶりに――いや、誕生日以外の日にメールを送る。疎遠になっても、何故か誕生日メールだけは三年間欠かさずに送り合ってきた。彼に「誕生日おめでとう」以外のメールを久しぶりに送る。

「ねえねえ」と思いつかずに一言だけ送る。

「どしたん?」と時間差があったが返信が来た。胸がドキドキと鳴るのを感じる。

「もしさ、(ネタだけど)私が抱き着いてきたらどう思う?私が考えるには気持ち悪いとか思われそうだなとは思いますが」と送ってしまった。彼が私に対してどんな感情を持っているのかが分かりやすかったので、こう送ることにした。

動揺したのか、二時間程経ってから連絡が来た。

「別にうれしいんちゃう?」というこの言葉にどれだけ救われたことか...けれど私は素直になれずに「へー...嫌いな奴に抱き着かれても嬉しいんだ」と送ってしまった。

「どうだろう」という返信が来たが、「教えなさいよ」と喧嘩腰で送ってしまう。

「僕の中で嫌いな人はあんまおらんかな」と来たが、"あんま"という言葉にダメージを受けて、私は返信を出来なくなってしまった。本人に一度嫌いだとハッキリと言われてしまっているからだろう。

「明日、塾で抱き着きに行くから待ってて」と送り付けて眠りについた。

私は――次の日が楽しみだった。

学校の授業を全て受け終えて塾へと向かった。その足取りはかつてないほど軽く、授業間の休み時間に早くならないだろうかとウキウキしながら進んだ。塾に着いたが部活に行くのを忘れた為、授業開始時刻の二時間程前に到着した。だが、今日の授業の宿題に手を付けていないことを思い出し、自習室に入って宿題を広げた。だが、理科の授業である事に気付き、授業中に終わらしたなと思い、先程出したテキストを鞄の中へ仕舞った。もう一度鞄の中を漁り、私の苦手科目である英語のテキストを取り出した。英語という単語を見るだけでも寒気と吐き気がする。寒気を抑えて、一年生からやり直していった。塾の英語担当の講師に貰ったテキストをしているのだが、終わる気配は全くなかった。一心不乱に解き続け、正誤確認をした際に誤りの方が多い部分がある事に気付いてガックリとうなだれた。時間は授業十分前。十分に時間は稼げただろうと、テキストを仕舞って授業教室へと向かった。小学生の声が教室内から聞こえたので廊下で待機し、教室が空くのを待った。小さい子達が飛び出してきて、その勢いが弱くなった所で教室に入った。いつも以上に席に座るのに緊張し、体が寒気を覚えた。「冷房の温度上げてもらってもいいですか?」と塾講師に訊き、温度調節を行った。設定温度が十八度な時点でおかしいとは思ったが、席に着きなおした。友達が少しずつ入って来て、彼が早く来ないかとドキドキしている自分に気付いて自分の恋愛脳に少し失望した。

しばらくしてから、教室に彼が入って来た。入口をガン見していたため、彼と目が合い気まずさから無意識的に目を逸らした。

授業が始まったのだが勿論、授業内容は一ミリも入ってこなかった。講師の「休憩~」という声により、休み時間となり、私は目を彼へと向けた。だが、彼はいつも通りスマホゲームに興じていた。少しイライラとした気持ちが湧いてきた私は彼の傍まで行き、声をかけた。

私のシュミレーションでは「ねぇ、ちょっと来てほしいんだけど...」と言うつもりだったのだが、「ねぇ、お前ちょっと来い」と肩をガッシリと掴んで連行してしまった。

一階へと連れて行き、「何?」と言う彼を正面から見た。「帰ってもいい?」という彼に私は後ろから抱き着いた。「死ぬ、やめて」という彼に「じゃあ、死ね!」という私は天邪鬼というかどれだけツンツンしているのかがわかった。


こんな甘いような酸っぱいような意味の分からない日々が数日続いた。


丁度一週間後、私は彼に学校に行く際に一本早い電車で行く事を提案した。電車に乗ったはいいものの、途中の駅で私の幼稚園からの付き合いの友達が乗ってきたことにより気まずさが倍増した。彼女が私に手を振った挙句に、私の隣に立った。右には彼、左には幼馴染で、心臓の音がやけにうるさく感じられた。

一言も彼と交わさずに、終点に着いた。「彼と話してきなよ」と幼馴染に言われ、私は彼に小さい声で声をかけて、共に電車を降りた。学校まで他愛のない会話で行こうとしていたのだが、私が用事もなしにわざわざ一本早い汽車で来るということがないので、鋭い彼は「何か言いたいんでしょ?」と言わんばかりに私を見てきた。

私は「特にないけど~」と誤魔化しながら、彼に「幼馴染に私と君が付き合ってるとか勘違いされそうだよね~」と話すと、「じゃあ、付き合う?」と彼に言われた。何も考えずに先程から相槌ばかり打っていた私は勢いのまま「うん」と答え、その後に首を傾げてから慌ててふためいた。「いやいや、不味いでしょ?」と言ったが、「じゃあ、今までのこの関係はなしということで...」と彼が言うので、彼と付き合う事を私は決めた。

私からしても都合のよい事だったからとは彼に言っていない。


彼と付き合い始めて、塾のある日は毎日のように一階に行き、空き教室で抱き着き合っていた。寒いなと思ってカイロ代わりにしたり、お互いがここにいるという事を確かめ合うかのように、現実であるかを確かめるようにしていた。後から聞いた話なのだが、彼の親友によると、「君の名前が禁句になったのは、君の名前を出したら君のことを好きな彼が暴れ出したから」という理由だった。訊いてから少しずつ顔が赤くなっていくのを感じたが、親友さんはニコニコと笑うだけで、本当に彼の事が大好きだったんだと感じた。

夏休みに入り、彼の家に漫画を読みに行く機会が出来た。人の家にお邪魔するのは数える程しかなかったので、凄く緊張してあがらせてもらった。漫画を借りて読んでいたのだが、一度では読み切れず、勉強と両立しながら部屋へ何度もあがらせてもらった。漫画も面白くて良かったのだが、彼の...彼氏の家...部屋に上がるという行動に対してずっとドキドキしていた。

夏休み中に漫画は全巻読み終えて、また受験生特有の長時間勉強に戻った。

私はあまり勉強が好きではないので、苦痛だったが彼と同じ高校に行きたいという願望から勉強は必死に頑張った。

三月――受験が終わり、卒業式を迎えた。

友達に囲まれながら笑っている彼の元に私は向かうと、彼に言われていた事を破るようにして声をかけた。

「もし、私と十年間付き合えたら結婚しよ」

私が言った瞬間、周囲の時が止まった。ここぞとばかりに私は来た方向へと走り出して、茫然とする彼をおいて、友達のいる場所へと戻った。ポケットに入っていたスマホが震え、「凄いタイミングで言ってくれたね」という彼の言葉を見て、彼の方へと向いて満面の笑みで笑いかけた。

「約束だよ」と送ると「それまで我慢出来ないかもしれない」とメールが返ってきた。嬉しさがこみ上げながら、卒業式を謳歌した。

――私の青春だった。


高校生。

勉強が忙しく、メールもデートもする暇がなく、あっという間に三年が経った。彼とは一度も同じクラスにならず、合同クラスも一度も被ることがなかった。同じ学校に来た意味を感じる事ができない三年間だった。同じ高校になった中学校時代の同級生に彼と付き合っているのかと何人に訊かれて、「そうだよ」と答える事ができて本当に嬉しかった。彼の良さや優しさや、時々見せる可愛さを皆に伝えた。このことだけで正直満足していた。

卒業式をあっという間に迎え、久しぶりに彼の姿を捉えた。

少しだけ私より高かった背は完全に私を追い抜き、高身長へとなっていた。

「久しぶり」と声をかけてくる彼に私は泣きつきたくなった。けれど、彼に申し訳ないと思って、「久しぶり、元気にしてた?」とだけ返して、話を続けた。

だが、昔のようにうまく会話が続かず、お互いの友達に呼ばれて元の場所へと戻った。


――自然消滅の恋かな、辛いな...


そう思い、泣きながら家へと帰った。

大学の準備をしなくてはと、スーツケースや教材の箱詰め作業を行った。大学からは県外に出て、都内の方で勉強をしようと決めていたからだ。なんとか、第一志望の大学には受かる手ごたえがあったので、その学校に向けて準備をした。

彼への恋心を振り切れるようにと...だが、振り切る事は出来なかったし、まだ別れてはいないと、思い出して頑張った。

大学に入学し、大学院まで進んだ。修士課程修了を取った頃には私は二十四歳になっていた。彼と約束をした"十年後"という約束まで一年を切っていたのだった。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「どしたん?」と彼から連絡が返って来た。まさしく高校卒業ぶりであった。普通ならもう縁は切れているはずなのに、また昔のように笑えている自分に気付いた。

「私とした約束覚えてる?」と私が訊くと、「覚えているに決まってる」と彼から返信が来た。私は喜びのあまり飛び跳ねた。本当に!?という気持ちと冗談かもしれないよという気持ちが混ざり合い、現実を受け止め切れていない自分がいる。

「あれでしょ?十年付き合えたら結婚しよってやつ」と送られてきたメールを見て、私は即座に電話をかけた。「咲夜(さくや)...結婚しよ...?」


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「えーっていうか普通に(みどり)ちゃんと咲夜(さくや)君が結婚すると思ってなかったわー。中学校の時とかっていつから付き合ってたの?会う度にバチバチって感じだったのに...」

梨奈(りな)ちゃんが丁度、電車で鉢合わせた日から付き合い始めたんだよ~」

と私が言うと、梨奈(りな)ちゃんは「マジ!?」と言って驚いていた。そして、それ以上に祝福してくれて嬉しかった。

「ずっと、私の事諦めないでくれてありがと、式神(しきがみ)君」

「今日から真宮(まみや)式神(しきがみ)だけどな」

式神(しきがみ)(みどり)...意識するだけで恥ずかしさと嬉しさがこみあげてくる。

式神(しきがみ)君の事を下の名前呼びしなきゃいけないんだよね?」

「当然だろ?(みどり)行くぞ」

咲夜(さくや)君、これからも...ずっと私の事をよろしく...!」

私がそう言うと、彼は顔を真っ赤にして、

「名前呼びは破壊力高すぎだから少し考えようか...」と言う。

「いやだねー!」とお互い冗談と本音を言い合い、式場へと入る。

まさか、本当に彼と結婚するとは思ってもいなかったので、嬉しかった。

咲夜(さくや)君、これからも末永くよろしくお願い致します。

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