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異世界渡航ビジネスDOIT〜幾千万と存在する異世界なんて管理しきれません〜  作者: あ
〜竜の王が支配する勇者敗れし荒廃世界〜コメット編
33/33

#31 竜王峰での決戦

「竜王であるお前が……竜戦士だと? デタラメ言ってんじゃねえぞてめえ!」

「フフ、小僧如きにワシが嘘を吐くはずなかろうよ」


 ガドムの大声を気にも留めず、老竜は空を見上げて自らの半生を語る。


「……ワシは追い求めていた。ただ強き者を。故にこの異邦の地にて立身出世を果たすと誓い、己の身1人で竜共を屠ってきたのじゃ。すると周りの竜人がワシを英雄だと崇めたではないか。実に気分の良い毎日じゃったよ……銭に誉。酒に女。思うがままであった!」

「……っ!」


 老竜が高らかに笑い翼を広げると、辺りに突風が吹き荒ぶ。


「そしてワシはこの地にて、ついに竜王の首を刎ねた……その時であった。気付けば、ワシはワシでなくなっていた。闇の中でやってくるのは永遠の苦痛と怒り。己を御する訳もなく、全てを破壊し尽くしていたのじゃ……のう、小娘や」

「え? わ、私?」

「俗世の声に乗せられたが、期待に応えれずに敗北し、竜王として生まれ変わり呪いを振り撒く。我に帰る時には最早終幕であった……そんなワシは最悪の人間だと思うか?」

「……」

「人には決して伝わらぬこの事実。だがワシが犯した罪もまた事実じゃ。ワシが死せば、気休め程度の贖いになるのかのう」


 長年を生きた竜の口より紡がれる真実。その言葉の重みは深く、一同の心の奥底に刻み込まれていく。

 辺りに暫しの静寂が訪れるが、沈黙をすぐに破ったのはガドムであった。


「なあ竜王。てめえがホントに竜戦士だったんなら、聞きてえ事がある」

「なんだ?」

「お前の誇りはどこにある?」


 老竜は虚を突かれたように無言になる。

 そして深呼吸するように、翼を大きく広げてゆっくりと戻す。


「……心は郷土なり。我が故郷から離れた時より、誇りも誉れも捨てた。風前の灯火であるワシにあるのは、種火のように燻る武士の矜持のみじゃ」

「え、今なんて……?」

「そうか──」

「ちょ、兄貴? どこ行くんだよ!」


 ガドムはそれだけを言い残して、霧の中に消えていった。


「さて──そういえば、お前達はワシを葬りに来たんじゃったな。なら、やるとするか」

「え?」

「ここでただ朽ちる老いぼれかと思うてか? 否……このような最後だからこそ、ワシは全身全霊を以て相手しよう。礼を言う……ワシは今、最高に満ちておる。血沸く闘争こそ我が愉悦。尋常に殺し合おうぞ」


 老竜は上空へ舞い、天地を轟かせんばかりの咆哮を上げる。翼より発せられる風圧と、双眸から光る王者の眼光。

 この世界の頂点に君臨するニールが、目の前の命をエサと認識した──その生存本能を駆り立てるようなオーラは、獰猛な捕食者そのものであった。


「あらあら。最後まで戦士だって言いたいのかしらね。戦いが好きなのね……なら、とびっきりのをプレゼントしてあげないさいな。イルマちゃん」

「私!? 師匠は戦ってくれないんですか!?」

「んも〜忘れたの? これはイルマちゃんのスキル解放の為でもあるのよ? 竜王を倒すという当初の試験は続行中……試験に私が介入する訳にはいかないわ」

「そ、そんなご無体なぁ……」

「大丈夫よ、死ぬ前には助けてあげるから。ちょっとした訓練と思って、安心して死にに行って頂戴♡」

「鬼すぎぃ! 女2人でどうしろと──って、うわぁ!?」


 イルマの目の前に火球が落ちる。凄まじい勢いで放たれた業火の塊は、地面を抉って山を破壊していく。当たれば致命傷は免れない。


「だぁーっ! 死ぬぅ!」

「っと!」


 火球が当たる寸前で、イルマの首根っこを掴んで引き寄せるヨラム。


「はぁ、はぁ……ありがとうヨラム……」

「しっかりしなイルマ。相手は世界の王だ。気を抜いたら死ぬよ」

「うん……ごめん。世界の運命が掛かってるんだよね……ここまで来たんだもん。私はやってやる! 関係の無い部外者でいたくない!」


 イルマは【セイバー】を構えて竜王と対峙する。日和見な気構えでは殺られると確信し、頬をピシャリと叩き自身に喝を入れた。


「イルマちゃんったら、すっかり世界に入り込んじゃって……マージフの言う通り、あれだけ感情移入してたらこの先苦労しそうねえ。あの調子じゃ竜王にも……ま、そんな所が可愛いんだけどさ」


 エロシェは腕を組んでやれやれと首を横に振る。ヨラムとイルマの両名は、老竜の猛攻を受け続けていた。


「──っ! イルマ! 攻撃が飛んでくるぞ!」

「うわぁ!? あっぶ! っぶな! 当たったら死ぬ! 当たったら死ぬゥ! こんの……殺す気か色ボケジジィ!」

「いや、そのつもりなんじゃが……調子の狂う小娘じゃ。全く、真面目にやらんか!」

「なあああ、また火ばっか! ちょ、この、いやああああぁぁーっ!!」


 イルマは半ベソをかきながら右往左往と必死に動き回るが、その独特な避け方は老竜を翻弄していた。


「ぜぇぜぇ……この水呑百姓の小娘風情が……! なんじゃその珍妙な舞いは……いい加減疲れるわい……!」

「ナイスだイルマ! 隙ありィ!」


 ヨラムは老竜が息を切らしている隙を見計らって、その体に槍を突き刺し腹部に傷が刻む。


「うぐっ……!?」

「……老いてるってのはマジらしいね。あんたは威圧感だけで、戦闘力に関しちゃ道中にいたグレッドニールより弱いよ。元より戦える状態じゃないんだろう」

「……」

「チッ、スッキリしないもんだなあ。兄貴と一緒に生涯を賭けて追い求めてたニールが、こんなザマだったなんて……話も聞いちまったから、尚更やりにくいしさ」


 ヨラムはギリッと歯を食いしばると、戦意なき老竜に向けていた双槍をそっと下ろす。

 やり場のない怒りに拳を震わせるヨラムを見て、イルマは同じく下を向いてしまう。


「下向くなお前ら」

「え?」

「兄貴……!?」


 2人が振り返ると、ボロボロの剣を手に戻って来たがドムが立っていた。


「ワリィ。これ取りに行ってたら遅くなった。墓標にしようとゆうべに山頂行ってぶっ刺してきたんだけどよ。やっぱ持ってきちまった」

「何だよ兄貴、そのボロい剣は……ていうか剣か? それ」

「きさん、それは……!」

「ああそうさ──テメエの剣だよ竜戦士」

「え……!?」


 錆びついた剣を掲げ、見せつけるように剣先を老竜に向けるガドム。


「普段は竜戦士を毛嫌いするクソ親父が、これだけは残していけと言っていた。この魂だけは、先祖代々絶やすんじゃねえってな」

「兄貴、何言って……」

「テメエの誇りも誉れも捨てたって? だがな──その誇りも、誉れも、強さも。この血に色濃く受け継がれてるんだぜ」

「何を……言っておるのだ。きさんは」

「このガドム・ショーニ──テメエの子孫だっつってんだよ」

「何ィ……!?」


 ガドムの発言に、一同は驚愕の表情を浮かべる。老竜も明らかに狼狽していた。


「なんだよそれ……そんなの知らなかったぞ兄貴!」

「当たり前だ。親父が俺にしか伝えてねえんだから。お袋も知らねえよ」

「そんな……」

「知られちゃいけねえんだ。あの竜戦士の子孫だなんてな。敗北者の末裔……んなもん知られたら、破滅しかねえからよ。だからずっと隠してきた。この家名も、剣も、誇りもな」

「……」


 老竜はガドムの言葉に応える事もなく、じっと空を見上げていた。

 誰もが口を閉ざしてしまうその沈黙の空気──破ったのは、老竜の唸り声であった。


「ぬぅ〜……一体何番目のオナゴの子孫じゃ? 思い出せん!」

「あ!? テメエ感傷に浸ってたんじゃねえのかよ!?」

「思い出そうとしてたんじゃ! あの頃は英雄風吹かせて片っ端から食い荒らしてたからの。子を成したオナゴは数え切れんわ……」

「テメ……先祖との思い出に浸ってると思って、ちょっと気ィ使って待ってたんだぞクソが! 時間返せエロジジイ!」

「やかましい小僧めが! 第一、子孫だったら敬わんか! 子が欲しいとオナゴに言われれば誰だって食い付くじゃろう!」

「アホか! 手当たり次第に女漁る奴のどこが英雄だ! テメエあれか!? 2本の牙で戦ったって言うが、1本は下半身に生えてたのか!? そういうアレか!」

「なんじゃとこのクソガキ! ワシの牙を愚弄するか! そこまで言うなら見せてやろうか!!? 兜合わせといくか!?」


 ああだこうだと言い争う両名。その光景に、女3人はやれやれと首を振る。


「兄貴ィ……」

「サイテー……」

「フフ、これだからオスって好きなのよねえ」


 暫く稚拙な論争を繰り広げていたが、老竜はガドムの剣を見つめ、ピタリと口を閉じた。


「……ああ、思い出した」

「あ?」

「その鍔の形、歪んではおるが間違いあるまい。確かにあの時サレムに渡したものじゃ。そうか……サレムの子か、きさん達は」

「サレム……それが俺達の先祖の名前か」

「確かによく見れば面影があるな。その気性の荒さと青い髪──サレムにそっくりじゃ」

「へっ、そうかよ」


 がドムは首の骨を鳴らすと、武器を老竜に向ける。


「もう御託はいいだろ……後は殺し合いだ竜王。子孫に葬ってもらえるんだ。本望だろ?」

「フン、ぬかしよるのう……よかろうよ。問答にも飽いた所じゃ。そろそろ殺るか」


 老竜が咆哮を轟かせると、一同は臨戦態勢を取った。


「お前ら。行くぞ!」

「「おおっ!」」


 

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