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異世界渡航ビジネスDOIT〜幾千万と存在する異世界なんて管理しきれません〜  作者: あ
〜竜の王が支配する勇者敗れし荒廃世界〜コメット編
28/33

#26 命を燃やす戦士

 4人は語り合い、昼までひたすら酒を呷る。

 この娯楽のない世界では、人々は生の苦しみを忘れる為に酩酊するのが常。

 つまみになる話は好みの食事や武具の事。

 互いを詮索しないたわいない会話であった。



「へえ、お前医術の心得があるのか。そりゃ貴重だな」


「医術……と言っていいのか分かりませんけど、大抵の傷なら治せると思います」


「なら大人しく医者やってればいいのに、危険を冒して竜王を倒したいだなんてな。ますます気に入った!」



 何度目か分からない乾杯を終えた昼下がり。

 4名──勇者一行は酒場を後にし、竜王が住まう山へと向けて出発した。

 目の前に広がるのは、彼方まで続く険しい山脈。

 先人が築いた古い橋を渡り、一行は山をひたすらに登る。



「それで、ガドムさんとヨラムさんは──」


「あーあー、かてえかてえ。さん付けなんていらねえよ。その聖職者みてえな喋り方もやめてくれ」


「……うん、分かった。で、2人はその、やっぱり前に出て戦うタイプなんだよね?」


「おうよ。さっきも言ったが生まれてこの方、この得物を振り下ろす事しか知らねえ」


「あたしもだ。この双槍でニール共を串刺しにしてやる」



 武器を手にニヤリと牙を見せる兄妹。

  この2人は脳筋だと理解したイルマは、自分は後衛からサポートする事をそっと誓った。



「私も今回だけは前に出るわよ」


「師匠?」


「身体が疼いて仕方ないの。ほら、今の日本って法制度が整いすぎてるじゃない? 基本業務でがんじがらめだし、好き放題暴れられる機会中々ないのよ〜」


「さいですか……」



 内なる破壊衝動を抑えつつ舌なめずりをするエロシェに、前を歩いていた兄弟は表情を明るくする。



「そっちのねえちゃんも近接か。長年の経験で、お前の力は凄まじいって分かる。お手並み拝見だな。一緒にニール共をブチ殺そうぜ」


「こんな世界じゃ、女も立派な戦士であるべきだ。あんたはあたしと同じ臭いがするよ」


「ウフフ、ありがと。短い間だけど宜しくね♡」



 兄妹と握手を交わすエロシェ。

 目をギラつかせ獣のような眼光を放つ3人に、イルマは苦笑いを浮かべる。



「戦士っつーかもう狂戦士ね皆。僧侶狂戦士×3って、どんなパーティーよ……」



 イルマが汗を拭って、赤く淀んだ空を見上げた時。イルマの視界に一筋の影が横切った。



「あれは!?」


「あらら、見つかっちゃったわね」



 黒い影は急降下し、イルマ達の上空で羽ばたく。

 青き鱗で覆われた巨大な竜。

 翼の風は地の小岩を散らし、その双眸は捕食者の輝きを放つ。



「ガァァァーッ!!」


「あの青い体は……ブラーグ(青藍)ニール! 毒液を吐く危険なニールですよ! ここは慎重に──」


「お、ニールじゃねえか! っしゃあ、ぶっ殺してやるぜ!」


「おうよ兄貴!」



 青竜を視認した瞬間、武器を抜いて猪突猛進するバーサーカー兄妹。



「あ、ちょっと!?」



 待てが出来ない狂犬2匹に、青竜は容赦なく毒液を飛ばす。

 射出された毒は地面を抉り、岩肌をも溶かす……が、兄妹は巧みな身のこなしで毒を躱し、懐に潜り込んで刃を突き刺す。



「ゲギャアァッ!!」


「へっ、見たかトカゲ野郎!」



 致命傷とはいかないものの、青竜に傷をつける事に成功した。



「へぇ、やるじゃないあの2人。世界の覇者たるニール相手に臆せず突っ込めるなんて。あの兄妹ホントに強いわよ」


「でもなんだか見てられないというか……危なっかしいです」


「そうね。強いけど、諸刃の剣である事には変わりない」



 青竜と攻防を繰り広げる2人。

 悶える青竜に勝機を見出した兄ガドムは、欲張って間合いに足を踏み入れた……が、その一瞬の油断が死を招いた。



「何!?」



 ガドムに振り下ろされたのは青竜の尾。

 腹部を打つ極大のムチは、小さな身体を破壊するには十分な威力であった。



「ぐはァ!?」



 鈍い音と共にガドムの身体は吹き飛ばされ、付近の岩へと叩き付けられる。

 青竜は追撃の体勢で血塗れのガドムを睨んでいる。



「兄貴!」



 ヨラムは兄を助けようと背を見せるが、青竜はその無防備な背中に足爪を振り下ろす。



「ああ、危ない!」



「仕方ないわねえ──」


 エロシェは地を蹴って2人の元へ駆けつける。

 青竜の爪がヨラムを貫く寸前に、エロシェが両手で爪を押さえる。

 地面がひび割れる程に踏み込み、そのまま巨躯の青竜を腕力のみで薙ぎ倒す。

 体格差を無視したエロシェの体術に、イルマは唖然とする。



「イルマちゃん。彼らをお願い」


「……! はいっ!」



 イルマは瀕死のガドムの元へ急ぎ、固有スキルを使って治癒する。

 ガドムは緑色の光に包まれ、跡を残さず傷は完治された。



「な……あんた兄貴に何したんだ!?」


「回復スキルです。今はとにかく下がって──」


「イルマちゃん! そっち行ったわよ!」


「え?」



 付近に大きな影がかかる。

 見上げると、青竜が翼を広げてこちらに滑空してきていた。

 ヨラムの背に再び竜爪が迫る。

 イルマは反射的に彼女を引き寄せて、庇う形で前へ踏み出す。



「うわあああぁぁーっ!」



 イルマは片手で【セイバー】を作り出し、それを青竜の目に突き刺した。

 青竜は断末魔を響かせて悶え、怒り狂ったように毒液を吐き散らす。

 が、後ろに控えていたエロシェを一瞥すると、そのまま空の彼方へと消えていった。



「はぁ、はぁ……」


「いい攻撃ねイルマちゃん。生きるか死ぬかの瀬戸際で、攻撃に転じれる生物は強くなるわ」


「が、がむしゃらだったので……守ろうと思ったら、身体が勝手に……」


「……なるほどね」



 ヨラムはガドムに肩を貸し、武器を拾い直す。

 ガドムは己の腹部を眺め、あるはずの痛みを探して擦る。



「俺は死んじまったのか……?」


「生きてるよクソ兄貴。イルマが助けてくれたのさ」



 ガドムは暫く考え込むような顔を浮かべていたが、吹っ切れるように笑うと、イルマの背中を強めに叩く。



「よく分からねえが助かったぜ! お前の力があれば、もしかするかもしれねえな!」


「いてっ……あの、あまり無茶しないでね。私が回復してなかったら今頃──」


「いいんだよ。これが俺等のやり方なのさ。死に損なったら、また次の死に場所を探すだけだ」


「ちょっと!」



 言いかけたイルマだが、それをヨラムが制止する。



「安心しなよ。あたしも兄貴も、中途半端な覚悟で戦っちゃいない。黙って殺されるのは御免だからね。全力で戦って全力で死んでやるさ」


「……死ぬのが怖くないの?」


「おう、怖くねえな。まだ死んだ事ねえし」



 武器を手に立ち上がり、再び歩みを進める兄妹。

 イルマは決して立ち止まらない2人の背中を眺めて、キュッと目を細めるのであった。



「少し休憩にしましょうか。1日中歩きっぱなしだしね」


「さ、賛成……」



 山を越えた所でエロシェがそう提案し、一行は山の麓で野宿する事に。











 疲労困憊であったイルマは、1人で麓近くの温泉へと足を運んでいた。

 エメラルド色に輝く水面と立ち上る湯気。

 岩に囲まれた天然の個室温泉に、イルマは吸い寄せられるように入って行く。


「うあぁ〜……気持ぢぃ〜……」


 湯船に浸かると同時に、イルマの口から歓喜の声が漏れる。

 連続の登山で、こむら返り寸前だった全身の筋肉をゆっくりとほぐす。



「お、泡が。天然のマイクロバブルかな」


「イルマちゃーん♡」


「ぎゃああああああぁぁーっ!?」



 泡を覗き込んだ瞬間、水中より現れたエロシェに抱きつかれるイルマ。



「心臓止まるかと思ったっすよ! 師匠いつからそこに!?」


「私はいつでもイルマちゃんの側にいるの。ダメじゃな〜い。1人で遠くに行っちゃ危ないわよ」


「す、すみません……」


「何か悩んでるの?」



 エロシェに後ろから抱きつかれ、背中の感触に悶々としながらもイルマはポツリと呟く。



「あの2人は死ぬのが怖くないって言ってました。短い寿命の中で命を燃やす姿を見て……眩しいなって思ったんです。私もああなれたらなって」


「……そうねえ。命を捨てた戦士は何よりも強い。死を恐れない勇気は、どんな敵をも貫く刃となるわ」


「はい……」


「でも死を恐れなすぎるのもダメなのよ。逃げる勇気も時には必要。勝っても生き残らなきゃ意味がないわ。あの2人もそうだけど、イルマちゃんも気を付けなさいね」


「え?」


「フフ、さっきの事自覚はないのね。ああなれたらって言ってたけど、あなたは人の為に簡単に命を投げ出せる。その過剰な優しさがあなたの長所であり短所。いい? ヒーラーが倒れたらパーティーは全滅するのよ」


「……」



 エロシェは俯くイルマの肩に手を伸ばし、優しく抱擁する。



「人を助けるなとは言わない。けどもう少し、自分にも慈愛の心を持ってあげてね」


「……はい」


「それにしても──」


「ひゃあ!?」



 肩に置かれたエロシェの手が、不意にイルマの胸まで伸びる。



「ちょ、ちょっとどこ触ってんすか!」


「すんごい大きいわよねえ……イルマちゃんのイルマちゃんズは。その細身でこの豊満さは反則よ。ほら、両手から溢れちゃう♡」


「あ、やぁ……ひぃっ!? へ、変な所摘まむなぁ!」


「イルマちゃんに変な所なんて無いわよ。いい事? おっぱいは吸う為だけに存在してるの。将来使う為にも、私がしっかりと調教してあげるわ!」


「やーめーてーくーだーさーいぃぃーっ!!」



 エロシェに押し倒されたイルマの悲痛な叫びは、湯気と共に空に消えていった。

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