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異世界渡航ビジネスDOIT〜幾千万と存在する異世界なんて管理しきれません〜  作者: あ
〜竜の王が支配する勇者敗れし荒廃世界〜コメット編
22/33

#20 竜が支配する異世界

「まずは彼をお持ち帰りしないとね。シンアイちゃんの調教は終わったのかしら?」



 エレベーターで上層階へと向かう円依と恋淵。

 扉を抜けた先は、機械的な扉が幾重にも重なった廊下が、威圧的に待ち構えていた。

 恋淵は首に下げていたSP専用の社員証を使い、その厳重なセキュリティを解除する。



「さっきの階も厳重でしたけど、ここもまたすごいですね……まるでスパイ映画に出てくる秘密基地です」


「ここは極秘の件を取り扱う、立ち入り禁止エリアだからね。異世界から持ち込まれたオブジェクトなんかも一部保管してるのよ」


「なるほど。やはり持ち込み物も存在したんですね……って、あっ」



 長い廊下の最奥に位置する部屋に辿り着いた時、中からシンアイと頭を抱えるウルセラが出てきた。



「おおぉぉ……尚叡智を求め続けるエルフの頭脳を以てしても、とても理解が追いつかん圧倒的な文明よ。この流れ込む知識……まるで大精霊様の天啓……」


「おや、来ていたんですか。たった今、ウルセラさんのかきこ作業が終了しましたよ」


「あらあ、じゃあ丁度よかったわね」



 苦悶の表情を浮かべて俯き、うわ言のように何かをブツブツと呟くウルセラ。

 そんな様子のウルセラに、円依は小首を傾げる。



「ウルさん、どうしたんですか?」


「彼にはDOITの規則や、生きる上での最低限の知識を脳に直接授けました。幸いにも脳の構造が人類と酷似していたので、比較的スムーズにインプットできました」


「そ、そうなんですね……」



 脳に情報を直接送るブレインテック技術は、近年になってようやく確立したものでがあるが、その水域は未だ高い。

 現代の脳科学の発展とシンアイの凄まじい技術力に、円依は驚嘆するばかりであった。



「ウルさん。日本一の山は?」


「富士山。日本一の女はイルマだがな」


「世界三大美女は?」


「クレオパトラ、楊貴妃、イルマ」


「異世界規制法17条にもあるDOITの規則項目35番は?」


「渡航者は異世界省が提供する同意書に署名し、異世界への渡航に伴う全てのリスクを理解し、これを受容する旨を明示しなければならない。以上の規定を遵守しない者、またイルマと余の仲を邪魔立てする者は、異世界への渡航を許可されないものとする」


「おぉ。所々ふざけてますけど、しっかり入ってますね」


「では、後は恋淵さんに任せます。別の業務が控えてますので、私はこれにて失敬どひゅーんしますね」



 シンアイは一礼し、そそくさとその場を去って行った。

 恋淵はウルセラと円依を抱き寄せ、ニンマリと満面の笑みを浮かべる。



「さぁお2人さん。研修のお時間よ。早速異世界へ行くとしましょうか♡」


「え、もう!? 事前準備とかナシなんですか。ていうか、どこ行くんですか?」


「じれったいじゃなあい。前戯はしないタイプなの私。それに、もう行く異世界は決まってるわ」


 恋淵は2人の手を引いて、外へと向かって行った。








「はーい到着。ここよお♡」


「え、ここって……」



 恋淵が2人を連れてきたのは、東京都第二商業区画の雑居ビル群に鎮座する白い建物。

 円依が所属する、DOITの東京第四支店であった。



「そ。イルマちゃんのお店。目指すは竜の世界コメットよ」


「ほほう。ここがイルマの城か。しかし妙だな……イルマの美しさを一目見ようと民衆が押し寄せているかと思ったが」


「んー、つい数日前までウィズロスを求めて客足が伸びたって聞いたけど、どうやら落ち着いたみたいねえ」


「な、なるほど。追加設置は叶ったけど、もう落ち着いたんですね。藤間さん……」


「しょうがないわ。人間は等しく奴隷の世界だし、異世界の発見数だって年々伸びてきてるしね。また拾ってくればいいのよ。さ、入りましょ♡」



 2人の手を引いて、支店へと入る恋淵。

 支店には客や店員の姿も無く閑古鳥。

 円依は眉間にシワを寄せて、キョロキョロと辺りを見渡す。



「藤間さんは相変わらずですね。営業時間中だと言うのに、外を元気にお散歩ですか。後で踏んづけてやります」


「マルちゃんが踏むのはご褒美かもしれんなァ」



 円依の背後から、ボリボリと後ろ髪を掻きながらやってくる藤間。

 大きく欠伸をしつつ、引きずるような気怠げな歩法で円依らに接近する。



「うわ!? 藤間さん戻ってきてたんですか。ビックリさせないで下さいよ」


「丁度外回りを終えたトコさ。いやァ、美味しかったよコカボム」


「もう自白してるじゃないすか。店空けないで下さいよ!」


「冗談さ。いいだろ客いないし。それよかマルちゃんはどうしたの? 王子サマと……これはこれはSPサマまで。どうもはじめまして」


「……ええ、はじめまして。あなたがイルマちゃんの上司ね。私は恋淵紫江。シエちゃんって呼んでね♡」


「いえ、結構です」



 円依は藤間に事情を説明する。

 藤間はタバコに火を付けて、煙を店内へと撒き散らす。円依の額には青筋が浮かんでいた。



「──と、いう訳なんです」


「そういう事ならいいよ。ゲートは好きに使いな。なんなら俺もついていくよ。どうせ暇だし」


「暇な訳あるか! アンタは仕事してて下さいよ」

「だって客こないんだもん。ウィズロス人気なさすぎるって。なんとかしてくれよ王子サマ」


「……余に振るでない」


「ま、帰還者の対応とかは、また適当に人材借りるさ。些か心配な事があるんでね。ゲートインするなら俺も行くぞ」


「はぁ、じゃあ勝手にして下さい……」



 4名はDOITの特殊装備に着替え、iゲートを起動させてその前へと足を並べる。



「ふむ。これが異世界用の装備か。如何せん慣れぬな」


「しかしコメットかァ、ウィズロスより危険な異世界だからな。気を引き締めんと」


「さーあ。ゲートに入って入って。いざドラゴンの世界へしゅっぱーつ♡」



 球体は振動し、機械音を響かせながら燦々と光輝く。

 円依は身から魂が引っ張られるような感覚に、ぐっと唇を噛みしめる。

 そして無意識の渦へと意識を沈ませていった──異世界への扉が開かれる。










「ん、あぁ……」


 頬を刺すのは黒き草。

 少しの痛みを感受しつつイルマは目覚め、ゆっくりと上体を起こす。



「こ、ここは……」


「到着したわよ。ここが竜が住まう異世界コメット……来るのは始めてだけど、予想通りいい感じね」


「あの、恋淵さ──」


「んもーイルマちゃん。私の事はエロシェって呼んで頂戴。業務中と異世界の中ではDOITコードで♡」


「あ、すみません……エロシェさん」



 地を見渡せど、あるのは溶岩垂れる険しく尖った岩山。

 空を仰げど、広がるのは血肉が黒焦げたような紅色の虚空。

 生物の気配など微塵も感じない苛烈な環境に、イルマは息を呑んだ。



「資料では見たことありましたけど、実際見るとまるで地獄ですね……ウィズロスとはまた正反対な」


「そうだな。見たことのない大地や草木、そして景色。これが噂に聞く異空か! この昂る興奮……筆舌に尽くし難い」


「フフ、いい反応するわね」


「あの、エロシェさん。なんでこの異世界を選んだんですか?」


「それは後でのお楽しみ。まずは簡易的な拠点が欲しい所ね。自前で用意する事も出来るけど、それじゃつまらないわ。町でもあるといいのだけど……っと、先に異世界について説明してあげないとね。ガイドちゃーん」



 恋淵──エロシェが声をかけると、目の前に画面が浮き上がり、合成音声が流れる。



『何か御用でしょうか?』


「この異世界について簡単に教えてくれる?」


『承知いたしました──IN622コメット。文明レベルは2。創世竜と呼ばれる竜が作り上げたとされる異世界です』


「相変わらず文明レベルが低いねェここは。ま……仕方ないけどよ」


「何があったんだ? 発展途上という訳か?」


「数百年前から進化が止まってるんだよ。コメットにとって、今は暗黒の時代なのさ。ガイドロイド、竜界戦争について簡単に教えてやってくれ」



 マージフの要望に、ガイドはいくつかの資料を展開しながら淡々とした口調で説明する。



『はい。竜界戦争とは、地球時間で850年前……この地で勃発した人類と竜による大戦です。人類の竜戦士と呼ばれる英雄が竜王に敗れ、以降竜王とその配下の竜が支配する時代になっております』


「英雄が敗北した異世界……とな」


「そういう事だ。異世界全部が繁栄してる訳じゃない。ここは血の炎に塗れた暗黒の世界だ。人類より竜の方が数も多いしね……っと、噂をすればだな──」



 マージフが空を見上げると、炎の雲より影が現れる。

 イルマは一瞬鳥かと認識するが、すぐにその影が巨大すぎる事に気付く。



「……なーんか近付いてきてね?」


「あ、あれは!」



 彼の者は虚空より飛翔してくる。

 天に向かって穿つ黒き角に、傷一つ無い煌めく赤い鱗。

 獰猛な牙を覗かせ、その口から耳を塞ぎたくなるような咆哮を轟かせる。



「ギェアアアァァァァーッ!!」



 体長20メートルは下らない巨躯の翼からは、立っていられない程の風圧が発生し、風の刃は空気を切り裂く。

 イルマ達の前に威風堂々と現れたのは、このコメットの支配者──ドラゴンだった。



「あらあ、見つかっちゃったわね」


「な、な、なんだこの魔獣は!? ウィズロスのものとは全く異なる異様さ! なんたる威圧感か!」


「うわぁ! ドラゴンですよドラゴン! 実物は初めて見ました!」


「なんかマルちゃん目キラキラしてない? ありゃコメットの一般的な赤竜種……グレッドニールだな」



 赤竜グレッドニール──鋭い黄金色の瞳は、イルマ達をじっと見下ろしていた。

 イルマは誰もが憧れる幻想生物であるドラゴンに目を輝かせながらも、その姿に身の危険を感じ、しっかりと身構えた。

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